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第316話 神戸市 大石の汁なし坦々麺と肉汁たっぷり蒸し焼き餃子

時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき、束の間、彼女は自分勝手になり、自由になる。

誰にも邪魔されず気を遣わず、ものを食べるという、孤高の行為。

この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒しと言えるのである。


こんばんは、井之頭あや五郎です。たまに『孤独のグルメ』の妖精が舞い降ります。

本日はこちら、『中華蕎麦 餃子 専門店 百々福』。阪神大石駅から徒歩5分弱、ラーメン激戦区と言われる2号線沿いに立地。

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まず店構えが、いいじゃないか。

中華蕎麦、という古風なワードチョイス、「専門店」であることを堂々と名乗る店主の自負。そして、中華蕎麦道を追求するだけでも難しいところを、更に「餃子」まで。静かな自信がうかがえる(ノリノリ)。

10分ほど待ち、中へ通される。店内は6席のカウンターのみ、注文、調理、会計まで、店主が一人で切り盛りしているようだ。うーむ、いい。

初めての来店だし、一番人気と思われる「汁なし坦々麺」(900円)と、「肉汁たっぷり 蒸し焼き餃子」(6個・350円)を。

肉汁たっぷり。自らハードルを上げにいく姿勢も推せる。想像しただけで、腹の虫が騒ぎだしそうだ。

あ、「味卵」(100円)も頼もう。担々麺と卵の組み合わせはあまり見ないが、ラーメン屋ではだいたい煮卵を頼む主義だ。煮卵をはじめ準主役メンバーのバラエティを知るのも、ラーメン屋の楽しみ方だ。

店主は、オーダー内容を紙にメモし、「ちょっと待ってくださいね~」との声を残して、厨房の奥へ姿を消す。麺が湯の中へ投下され、餃子が焼き機にセットされる。無駄のない手さばき。いいじゃないか。調理過程が見える店は、待ち時間も楽しめる。

お待ち遠さま!と、丼が目の前に置かれる。

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食べログなどでいくらでも下調べができてしまう時代ではあるが、出された料理を目にする瞬間は、やはり胸が高鳴る。ざくざく粗めのミンチ肉、フレッシュな玉ねぎ、カシューナッツ、ゴマやスパイスの香り。最高だ。追って、肉汁たっぷり餃子も到着だ。

店主が後続のお客さんのオーダーを取り始めた。と、「あ、煮卵!ちょっと待ってね~」とすぐ奥に消えていく。

「卵、忘れちゃうこと多いのよ」と、店主が卵を差し出す。大丈夫です、私もさっきそのテンションで頼んだので、と心の中で答える。

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役者はそろった。思う存分、いただこう。

麺を何回か底から混ぜる。あんまり混ぜすぎると、ならされすぎて味が平坦になってしまうし(どなたか料理家の人も言っていた)、何より冷めてしまう。箸でつかむ箇所によって、味が様々に変化する。口に入ってくる具材の、食感のグラデーションが楽しい。辛さよりも旨みが強い。ネギもおいしい。ネギはいつでもおいしい。なぜなら好物だから。夢中で食べ進める。

途中で、餃子にも手を伸ばす。勢いよく肉汁が飛び出す。小籠包に勝るとも劣らない汁の量だ。丼のうえで口にしていなかったら、危なかった。餃子サイドも、自身に込められた汁の量にさぞ驚いただろう。皮はもちっとしている。味は一般的なものに比べて、本場・中国のような、良い意味での野性味がある。本場・中国で餃子を食べたことはない。ないけれども、これはそんな味だ。完全な余談だが、小学生のとき、「中国の紀元前の遺跡から餃子らしきものが出土した」と知ったときは感嘆したな。中国三千年の歴史だ。

惜しいことに、丼の底が見えてくる。途端、急に辛みが増してくる。どうやら底に、辛み担当の具材が溜まっていたようだ。それもよい。しかし辛い。黒い実のようなものをかじると、痺れと香りと、爽やかさがある。複雑な奥行きがあって、面白い(調べたところ花椒というスパイスらしい)。

完食だ。口の中では、痺れと旨みがファンファーレを鳴らしながら、手を取り合って踊っている。すこぶる満足。お会計を済ませ、店を出る。

辛いものを食べたあと特有の、身体の火照りが少しある。やや強めの風が心地よい。味はもちろん、愛嬌を感じさせる店主の接客も乙だった。他のメニューも気になるが、早い時間に完売する日も多いようだ。時間帯をずらして、また来てみるとするか。天気がいいから、このまま少し歩こう。

よし。

~♪(松重”五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」)

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