正月のトランプ

子供とたくさんトランプをした正月だった。

まず、神経衰弱。
あそこが7で、あそこは2。
これなんて読むの？
Kは、キングだわ。
キングって何？
王様ってこと。

一年前のお正月、同じようにトランプをした時には
次女はまだ数字もわからないし、もちろんルールもわからなくてパパの膝に座ってみてるだけだったのに、
今年は次女が数字もわかって、ルールもわかるものがいくつかあったから、
一年ってすごいなぁと思う。

38歳の私は1年間で、これほどの成長をしてるだろうか？と、自分に問いかけてみたけど、
してるわけがないし、それどころか退化してる可能性だってあるんだと考えて勝手にへこむ。
そういえば最近目の下の小ジワが増えた気がする。
シワ側からすると成長して、
私側からすると退化だ。
無念。

私が子供の頃は、正月になると、トランプで
“しっぴんくっぴん”をやるのが
恒例行事だった。
大人になってから知ったのだけど、
あれは“しっぴんくっぴん”っていうのではなく
“おいちょかぶ”
という花札のゲームの一つだそうだ。
運に身を任せるタイプのゲームで、
もう何年もやっていないので
細かいルールを思い出せないけど、
子供ながらに大人のゲームに参加してる感覚があって大好きだった。

ギャンブルが大好きな父が
「あやか、あやかが勝ったら、このお年玉を倍にしてやってもいいぞぉ！」
と、賭け事めいた発言をするたびに
「お父さん！！馬鹿なこと教えないで！！」
と、家族の誰かが父を叱った。
私は小学生だったから、事の意味が理解できず
「そんなお得なシステムはいいなぁ。みんな叱らないでやらせてくれよ」
と思ったりしていた。
もちろん、実現したことはないのだけど。

直帰しない父は、平日は絶対にトランプができる時間帯に帰宅しなかったから、
“しっぴんくっぴん”のお楽しみは正月に限られていた。
大晦日、元日、三が日まで、暇があれば
「ねぇ、お父さん、トランプしよう！」
と誘った。
「あんたも好きねぇぇぇぇ」
という感じで、ゴロゴロしてる父は仕方なく起きてきて、
母やおばあちゃんも台所仕事を切り上げて付き合ってくれた。
1回や2回じゃないんだよ。
もう、ほぼ夜通しって言っていいくらい
長い時間同じゲームばかりやるの！

うちの父は、アニマル浜口が
「気合いだ！気合いだ！」
っていうような調子で
「勝負だ！勝負だ！」
と言って煽ってくるような人で、
煽られた私は熱くなり、
この勝負にに必ず勝ってやろう！と気合が入るのだった。

それはそれは楽しかった。

あれは鈴木家の恒例行事だったんだけど、
ある年、父が正月に熱を出して、
トランプどころではなく、しっかり寝込んでいた。
「お父さん、お正月だよ、トランプしようよ」
と誘うも
「お父さん…熱あるから…」
と、返ってきた。そりゃそうだ。
仕方なく母と2人でやった気がするけど、盛り上がらない。
あのゲームは、父が、アニマル浜口みたいに
「勝負だ！勝負だ！」
と、煽ってこそ楽しいのだ。

その年を境に、私たち家族は正月に“しっぴんくっぴん”をしなくなった。
私が思春期に突入したからかもしれないし、
父が家族から遠ざかっていたからかも。

父が熱を出してトランプをやらなかったことが、
ある意味いいきっかけになってしまった。
あんなに、盛り上がっていたのに。


今でも、正月になると
“しっぴんくっぴん”を思い出しては
恋しくなり、誰か一緒にやってくれないかなぁと思う。

なんなら、私は、結婚するなら、正月にトランプを一緒にしてくれる人！
と思うほど、
かなり、“しっぴんくっぴん”にこだわっていたのだけど、私が結婚した人は、トランプが大嫌いな人だった。

いや、トランプが嫌いて…。

父とはいい思い出以外にも、まぁまぁ色々あったから、
父みたいな人とは結婚しない！と決めていた。
だけど、まさか、トランプにおいても、父とは違うだなんて！
「トランプって嫌いになる要素、ある？」
と聞くと
「負けるのが嫌い」
と、返ってきて愕然とした。
多分この人、しっぴんくっぴんに向いてない。
しっぴんくっぴんは、負けるのを含め楽しいんだから。


さて、それでも、今年は
夫を含めトランプで楽しんだ正月だった。

神経衰弱に、ババ抜きに、ページワン。
“しっぴんくっぴん”こそやらなかったけど、
私の母や妹を交えて、かなり盛り上がった。

娘が夫に
「パパ！もう一回やろう！」
と誘うたびに、夫が根負けして、トランプに向かう姿を見て、
小さかった自分と、父を重ねてしまう。
そして、もしかしたら、いつか、あの楽しいゲームをやれる日くるんじゃないかと期待してしまう。

もし、その日が来たら、
父のように私が
「勝負だ勝負だ！」
と煽って盛り上げよう。

きっと、娘たちも、あのゲームを好きになるはずだ。
まずは、ルールを思い出しておかなければ！

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直帰しない父について書いた記事も是非！