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海洋資源について@仏コート・ダジュール フランスの週刊フードニュース 2022.07.24

今週のひとこと

フランスコートダジュール、イタリアリヴィエラそばに来ています。フランスでも海洋資源について積極的に取り組む料理人が増える中、地中海でも、3つ星シェフが先導しています。大西洋側ではバカンス地であるラ・ロッシェルの3つ星シェフ、クッタンソーが声を大にして訴えていらっしゃるなど、地元の海洋生産者の方々との連携を強めており、そんなことも功を奏してか、ここ数年で状況がかなり好転してきました。

しかしながら、地中海側は、ヨーロッパとアフリカ、中東に挟まれているという閉じた海域であるということと、たくさんの国が面しているということもあって、たとえば、海の循環がそもそも滞っているため状況が悪化しやすいのはもちろん、持続可能な漁についての合意も得られることが難しく、過剰水揚げなども規制ができない、汚染が解消されないなど、多くの問題を抱えています。

魚が減ってきている、成育状態が思わしくない、などを身近に感じているシェフたちが、昔、4つ足の家畜をまるごと大切に使った保存食を作っていたように、魚を残さず使った料理を模索、提案し始めるようになった。そんなことを始めたのが、イタリアにほど近い海辺のマントン「ミラジュール」の3つ星シェフ、マオロ・コラグレコで、昨年できたばかりの近隣の岬のホテル内に海洋資源をテーマにしたレストランをオープンした。秋に日経新聞日曜版THE STYLEにて、この話題を掲載しますので、またお知らせいたします。

ところでそのレストランで提供するワインリストでは、もちろん地中海をテーマにしたワインを揃えていますが、それだけでなく、「海」に取り組むワイン生産者さんたちを紹介するステージになっていました。特に、海底熟成のワイン。国の認可が下りる海は少ないというハードルはあるものの、近年から注目されており、ブルターニュ地方やバスク地方などで、実践する人々について、話題が登るようになっていましたが、希少であるため、今までは一度も味わったことがなかったのですが、この店で味わうことができました。1種類は白ワインで、もう1種類はウィスキー。

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ウイスキーのほうは、海の石灰藻で覆われており、それだけでも圧巻でしたが、マグナムは4本しか作っておらず、そのうちの1本でした。ワインの方は、水中発酵のパイオニアとフランスでは言われ、ビスケー湾で生産を行うEmmanuel Poirmeurのもの。

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日本でも海底熟成に取り組んでいる方がいらっしゃり、そのきっかけとなったのが数々の沈没船から見つかったというワインのロマン。100年以上経過しているワインなのにも関わらず、その状態が好ましかった、あるいは非常に良い熟成が進んでいたということから注目されたのは、みなさん聞いたことがあるかもしれません。シャンパーニュメーカーのドラピエも、現在、積極的に取り組んでいます。シャンパーニュの場合、ボトル内の圧力と海洋環境の圧力のバランスで、水深40mでも泡が消えない。あるいは、もともとの泡よりも細かく出る。より複雑で魅力的な味わいになるそうです。

また、地上のセラーでは、温度を保つために、エネルギーを必要とするが、海底の自然環境を利用することで回避できるどころか、海底セラーは岩礁となり、海洋の生態系を豊かにするとの報告もあるなど、エコロジーの観点からも、魅力的に映っている。ただ、これを将来的に発展させるためには、ねじ入れるための政府への働きかけはもちろん、圧力はもちろん、天候にも左右されない特殊な設備やボトルへの先行投資、水深40mに潜ることのできるダイバーなどと、乗り越えなければならないハードルも高い。いずれにせよ希少価値から、高級なプロダクトとなるという運命で、そのためロマンと同時に魅力的なマーケットと感じる生産者も続出しているのは否めません。

ただEmmanuel Poirmeurの試みには今後も注目したいと思いました。もともと「シャルドン」の海外開発に関わっていた、醸造学を専門とする農業エンジニアです。

アルゼンチンに滞在していた時、ワイン生産には地上では巨大なエネルギーが必要となってしまうという問題に直面。それを解消するため、思いついたのが、海底15メートルのところにタンクを沈めるということ。ブドウの果汁に砂糖、酵母を入れて発酵させると、3ヶ月後には、香りの芳醇な発泡性のワインに生まれ変わったということです。潮の満ち引きに合わせてタンク内の圧力が強まるために、ワインの発酵に実際に影響を与えることができるのだそうです。そして2007年からビスケー湾に移り住み、海底発酵をさせる自身のワインを作り始めました。

いただいたキュヴェ「ARTHA」は、サン・ジャン・ド・リュズの水深15mで行われるアルコール二次発酵という、特許を取得した醸造方法による白ワインでした。GersとLandes、Pyrénées-Atlantiquesで産するブドウを使い、サーフィンでも有名な場所でもある大西洋、海のうねりを利用しており、特別な味わいがある、とお話を伺っていただいたこのワイン 。乳酸発酵がしっかりと聞いて、まるで日本酒のような味わいになっていたのに、驚きました。

その日本酒のようなワインは、熟成させたさまざまな魚料理にぴったりだったのは言うまでもありません。

温暖化や汚染のために、プランクトンが減り、魚も痩せていっている、乱獲、乱食という現状に、そろそろ、多くの人が気づく時代。そうした背景を問題視して、技術と知恵を駆使し、楽しく美味しい料理を出すシェフたちや生産者。そして海をテーマにしたワインを発掘し勧めてくれるソムリエやサービスの方々。レストラン関係も多くの心ある人々が、毎日をよりよく生き、私たちに気づかせ、楽しませてくれている。フランスではそんなことが、浸透してきているのを感じます。


今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。フード関係の方々に、これからの展開に不可欠な情報をピックアップしてお伝えしたいと思っています。フランスはスタートアップ企業の宝庫、エコロジーの時代に向けてのアイディアが進んでいると思います。どうぞご笑覧ください。【A】ノンアルコールの新メーカーが続々と登場。【B】ミッシェル・ブラス、クレープもどきの展開。【C】ミシュラン3つ星「プチ・ニース」の海のサラミ・プレート。【D】海藻由来のフードテック Seafood Reboot、320万ユーロ調達。

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