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Mijoté by Kosuké TADA@San Francisco フランスの週刊フードニュース 2020.04.18

今週のひとこと

フランス・パリ11区、私にとってパリのファミリー的な存在のレストラン「ビストロ・ポール・ベール」のオーナー、ベルトラン・オーボワノが、同通りのポール・ベール通りに、3軒目として構えた「6 Paul Bert」というカジュアルなビストロがあります。

この店のシェフとして活躍していたのが日本人の多田コウスケさん。まだその頃は20代後半でした。若いのに芯がしっかりとあるからか、料理の味わいも人柄がにじみ出ていて、骨格がありながら、遊びもある。技術と創作性のバランスが優れていて、厳しいオーナーのベルトランも彼の仕事と人柄を非常に買っていました。

2016年ごろだったか、そののちに、アメリカ人の奥様とアメリカへ渡って、フランスとは違う食の世界を垣間見た。そして、再度、フランスでの自身の店のオープンを実現すべく舞い戻ってきました。

ところが、このコロナ禍は、人生の計画を変更させてしまうもので、彼もそんな困難に出会い、とくに、奥様と国境をまたいで別々の生活を余儀なくされていたのが辛く、フランスでの開業は諦め、アメリカ・カルフォルニアを自分たちの本拠地に。もともとすし屋の物件を見つけて、カウンターのスタイルでフレンチを出すことにしたと、今年に入ってから電話がかかってきました。

フランスからではなかなか足は運べないけれど、待ちに待ったオープンは4月10日。地元での前評判も高く、なんと1ヶ月先まで満席だそうです。

そんなオープンしたばかりの昨今、再度連絡がありました。
彼が言うには、「高級店の多いカルフォルニア。場所柄、一般の人々にとって手に届かないようなメニューの値付けがされてしまっている。例えば1人500ユーロという、とんでもない価格設定でも、席はどんどん埋まっていく」と。

「料理人は500ユーロの値段設定だと仕事をしなくなるような気がします。僕はコースメニューを80ドルで勝負します。この値段の枠内で、どんな食材を仕入れて、どんな工夫ができるか。美味しいものが作れるか。考えるからこそ、料理人の腕は磨かれるものだと思う。結果的にお客様にもわかっていただける。こんな値段でも最高のものが出せるということを証明したいんです」

近年、パリもアメリカ化してきたのか、高くしても払ってくれるお客はいるという思考回路になっているのか、料理の値段ばかりが釣り上がっていて、正直なところ、首をかしげる店も多いと感じています。
素材は素晴らしいものを仕入れているでしょうけれども、仕事をされていない料理に出会うこともままあり、正直、がっかりすることも多々あります。こんな状況のせいか、シビアな良い食べ手が少なくなり、エキスパートさえが見かけに騙されることもある。あるいは勉強不足も手伝って、インスタ映えするしつらえも料理も、張子の虎であることに気づきません。

コウスケさんの勝負が、少しでも料理界を、あるいは食する人たちを、食べる喜びの真実へと導いてくれることを祈っています。
私たちは見えない豊かな価値によって生きている、と思う今日この頃です。


今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。めくりめくフランスのフードマーケット情報をご紹介しています。どうぞご笑覧ください。【A】オリエント急行総シェフにまたJean Imbert就任。【B】イタリア発のビール製造とレストランを融合したレストランフランス上陸。【C】エル・ブジのミュージアム来年登場。【D】パリの新三つ星内包ホテルに、チョコレートポップアップショップ登場。

今週のトピックス

【A】オリエント急行総シェフにまたJean Imbert就任。
パリのパラスホテル「プラザ・アテネ」のメインダイニングの料理長にかのアラン・デュカスを押しのけて就任し、「プラザ・アテネ」と同通りアヴェニュー・モンテーニュ30番地にオープンしたばかりの「ディオール」旗艦店「30モンテーニュ」内レストラン・シェフにも抜擢された、まさに、時代の寵児Jean Imbert。

昨年までも、サン・バルテルミー島の「シュヴァル・ブラン」、サントロペとイビサ島の「To Share」のレストランの監修に任命されるなど、名声をほしいままにしてきたと言っていいでしょう。

そして今回の極めつけは、「ベニス・シンプロン・オリエント急行」の総シェフのポストに就いたという発表でした。同オリエント急行は、Belmondグループが旧オリエント急行を復活させ、1982年に運行を開始した豪華列車。パリとロンドン、ベニス、フィレンツェ、イスタンブールなどの観光都市を結んでいます。

Belmondグループは、ヴェネツィアの ホテル・チプリアーニを皮切りに、世界各国で高級ホテル、クルーズ、豪華列車を運営することで知られますが、2019年春にLVMHグループが買収。LVMHグループとJean Imbertの蜜月が、Belmondグループが所有する施設にも及んでいるということになります。

LVMHグループはBelmondグループを傘下に収めることで、Maisons Cheval BlancやBulgariブランドなど、ホテル部門におけるノウハウをさらに堅固なものとしています。

「ベニス・シンプロン・オリエント急行」では、伝説的な7つの列車も運行しています。アールデコデザインの列車や、エドワード王朝時代のデザインとカントリーハウス風を兼ねたBelmond Royal Scotsmanなど。

Belmondグループ曰く、「2022年のシーズンには、@janimbertがこの列車のレガシーの一部となり、ヨーロッパの最も壮大な風景を旅するお客様のための食の旅を創り出します」とのことです。


【B】イタリア発のビール製造とレストランを融合したレストランフランス上陸。
Doppio Malto(ダブル・モルト)という名のイタリア発のレストランがフランスに上陸しました。1軒はオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏のサン・テチエンヌに。そして2軒目はパリのテファンス地区のオープンが近々予定されています。

Doppio Maltoは、ビール製造とレストランを融合させることをコンセプトに、2004年イタリアで誕生しました。イタリア・エルバ島とサルデーニャ島で醸造される100%自家製ビールを18種類製造しており、その品質も、インターナショナル・プライムをいくつも受賞するほどの評価を得ています。イギリスをはじめ、今回はフランスへの進出を可能にして、ヨーロッパですでに31店舗を構えており、ワールドワイドに成長しつつあります。

人気の理由は、ビールの種類の豊富さと素材に、こだわりのあるカジュアルな料理(ピザやバーガー、パスタ、ロースト料理)、コーヒーではなくビール Black Stoutにビスキュイを浸したティラミスならぬBirramisuなど、遊び心満載のメニューで、お値段もしめて20ユーロで楽しめるというリーズナブルさでしょう。

また、広さは各店舗400〜800m2もあり、オープンキッチン。セメント、古鉄、銅、木材、むき出しのレンガなどの素材を生かしたインダストリアルスタイルで、ビリヤードや、巨大チェスボード、ダーツや、ペタンク、卓球なども楽しめるスペースで、親子連れもターゲットにしているようです。

フランスで成功しているイタリアンといえば、Big Mamma Groupですが、よりカジュアルなラインとしてマーケットを広げていきそうです。

【C】エル・ブジのミュージアム来年登場。
世界中を震撼させたスペインのレストラン「エル・ブジ」。料理長のフェラン・アドリアは、パートナーであったジュリ・ソレールの死という困難な時を迎えたこともあり、2011年7月に「エル・ブジ」を閉めたことは、世界中から惜しまれました。

「エル・ブリ」は自然公園内にあって、2014年にはエルブジ財団も設立していましたが(このことについてはカタルーニャの環境保護団体から非難されていました)、財団の活動の一環として、レストランを「エル・ブリ1846」の名称で、美術館として再現することを発表したばかりです。

4,000平方メートルという広大なスペース。ミシュラン3つ星レストランのダイニングルームとキッチンを再現して、食器やさまざまなシグネチャーの料理も含めて、料理のセンターとして機能させる予定です。

1846という数字は、アーカイブとなったフェランのレシピ数だそう。オープンの予定は2023年6月。フェランが作り上げた分子料理の世界をもう一度覗くことができるのは、エキサイティングなニュースではないかと思います。

【D】パリの新三つ星内包ホテルに、チョコレートポップアップショップ登場。
仏版ミシュラン・ガイド2022にて最高峰の格付けである3つ星に輝いた2軒のうちの1軒、パリの「プレニチュード」。昨秋オープンした、新サマリテーヌ内の5つ星ホテル「シュヴァル・ブラン パリ」内のメインダイニングで、LVMH渾身のパリでの挑戦に輝かしい未来が加わりました。

そして3つ星だけではなく、ホテルのダイニング全てを取り仕切るシェフ・パティシエMaxime Frédéricに、同ガイドは今年の最優秀パティシエ賞を授与。

そうした輝かしい2022年の栄誉とともに、同ホテルはMaxime Frédéricによるチョコレートのポップアップショップ「La Chocolaterie」を復活祭の時期に合わせてオープンしています。

LVMHのPDGであるBernard Arnault自身所有のアートが飾られるロビーと、ロビーに隣接する1階にあるティーサロンLimbarがステージに。

ティーサロンだけでなく、ロビーのあちらこちらに、復活祭を祝う卵の形などのチョコレートのオブジェ(限定150個)が飾られており、
ティーサロンではチョコレートをテーマにしたさまざまなデザートをサービスしており、まるでチョコレートボックスのような、エレガントかつグルマンな空間に様変わりしています。




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