「視点が増える」ってどういうこと?
というご質問にお答えするために、
前回は「視点が増える」というテーマで
「見えているものと見えていないもの」「個と集合」という二つの軸をもとに4つの象限でものごとを見ることができるということをご紹介しました。
今回は「誰から何を見ている視点なのか」という考え方のバリエーションをご紹介していきます。
1. 「わたし」から「あなた」を見る
では早速、「わたし」と「あなた」がいるとき、「誰から」「何を」見ている視点があるかということを考えてみましょう。
まず「わたし」から「あなた」を見るという視点があります。
「わたし」という一人称の視点です。
「わたし」から「あなた」を見るとき、「何を」には二つの種類があります。何と何だと思いますか?
昨日ご紹介した4象限の考え方がヒントになります。
一つ目は、「あなた」の「外側」を見る視点です。
「外側」は「見えているもの」「計測可能なもの」とも言い換えられます。
例えば、行動や言葉、表情などです。
では二つ目は何でしょう。
二つ目は、「あなた」の「内側」を見る(想像する)視点です。
「内側」は「見えていないもの」や「計測不可能なもの」です。
考えや気持ち、想い、価値観など、それぞれの人の内側には、見えていないものもたくさんあります。
もし、目に見えるものだけを見ていたならば「あの人とは意見が合わない」とか「あの人は無駄なことばっかりやっている」というように、特に自分とやり方が違うことをする人に対して不満や疑念を感じるかもしれません。
しかし、「見えていること」は、その人の一部に過ぎません。
相手はどんな考えや想いを持っているでしょうか。何を大切にしているのでしょうか。その根底にはどんな経験あるのでしょうか。
相手の「内側」に目を向ける視点を持つことで、これまでとは違ったものが見えてきたり、あなた自身の気持ちが楽になったりするかもしれません。
2. 「あなた」から「わたし」を見ると
次は、「あなた」から見た「わたし」に目を向けてみましょう。
相手からはあなたの言動や表情がどう見えているでしょうか。
相手から、あなたの考えや気持ち、価値観はどう見えていそうでしょうか?
「相手から見た視点」は「二人称の視点」とも言い換えられます。
「相手の身になって考えてよう」という言葉がありますが、「相手の身になって」というのは、「相手の気持ちを想像する」ということだけではありません。相手から見ると、あなたがどう見えているのか、何を考えていると思っているのか。実際に「相手の視点」になることで、見えてくることがたくさんあるのではないでしょうか。
3. 「あの人」から「わたしたち」を見ると
「わたし」と「あなた」の視点の次は「あの人」の視点について考えてみましょう。「あの人の視点」は「第三者の視点」「三人称の視点」とも言い換えられます。
三人称の視点で特徴的なのは「わたし」と「あなた(もしくは誰か)」というまとまった集合(わたしたち)を捉える考え方が出てくることです。「集合」は「関係性」とも言い換えられます。
想像してみてください。例えばあなたとあなたの直属の上司もしくは部下の関係性を、他の同僚の方はどんな風に見ているでしょうか。それが、三人称の視点です。
ここまで、だんだんと視点が増えてきました。
後ほど詳しく説明しますが、ご紹介している順に、視点を取るのがだんだんと難しくなっていきます。「自分が実際に体験していないもの」や「目では見えないもの」に想像力を働かせる必要が出てくるためです。
では、さらに想像力が必要な視点とはどんなものがあるでしょうか。
4. 時間軸を動かしてみる
次に出てくるのは「時間軸を動かして考える」という視点です。
実はここまでは、「目に見えているもの」や「体験しているもの」を基準とした「現在」の視点のお話をしていました。
ここからさらに、過去・未来が加わります。
これまでの視点を応用すると
という新たな視点が登場することになります。
「上司や部下との関係性は以前はどうだっただろう」「このままだとどうなっていくだろう」「もし、こんなことをすると関係性はどうなるだろう」
ますます想像力が必要ですね。
三人称が登場し、時間軸を動かしました。さらにどんな視点がありそうでしょうか。
5. 「わたしたち」をこんな風にみているあの人
次に出てくるのは、
「わたしたちをこんな風に見ている(であろう)あの人」を見つめる視点です。これも、第三者の視点ではありますが、先ほどの三人称の視点と区別するために便宜的に四人称の視点と表現します。
ここでは、「わたしたち」を組織や企業とすると分かりやすいかもしれません。
例えば、自社の商品やサービスを利用するという行動を取った人のことを想像してみましょう。その人は普段どんなことを大切にしていて、商品やサービスの何に惹かれたのでしょうか。
逆に、商品やサービスを利用しなかった人のことを想像してみましょう。その人は普段どんなことを大切にしていて、商品やサービスにはどんな印象を持ったのでしょうか。
6. 「わたしたちを見ているあの人」の過去や未来
ではさらに、自社の商品やサービスを利用した人・しなかった人の過去や未来にも想像を広げてみましょう。
その人はこれまでどんな人生を歩んできたから、現在の価値観を持つようになったのでしょうか。その人にとってこの先出会う大きな喜びとはどんなものでしょうか。
想像力が悲鳴をあげてきましたか?
ではせっかくなので最後にあと二つだけ考えてみましょう。
7. 「こんなことを考えているわたし」を見る
ここまで大きくは
というのがありました。これらには、それぞれ「外側(見えるもの)」と「内側(見えないもの)」があります。
では、あらためて今、「これらのことを考えているわたし」とは何者なのでしょうか?
今、「こういう考え方をしているわたし」は、これまでどんな経験をしてきているのでしょうか。これから、どんなことを実現していくのでしょうか。そのとき周囲にどんな影響を与えるのでしょうか。
なんだかもう、禅問答のようになってきました。
最後にご紹介したのは
「思考している自分自身を客体化する(客観的に見る)」という視点です。
さらに
「『こんなことを考えている自分自身を客体化している自分』をさらに客体化する」なんてこともできるかもしれません。
8. 視点取得能力と意識の成長
「視点が増えるとはどういうことか」というテーマについて、
という3つの切り口をご紹介しました。
読み進めるうちにだんだん想像するのが難しくなってきたかもしれません。
視点を増やす力(視点取得能力)というのは、人の意識の成長と大きく関わっています。「意識の成長」というのは「考え方」もしくは「世界を捉えるレンズ」とも言い換えることができます。
私たちは常にそのときの自分が持っている固有の「考え方(レンズ)」を通して、世界を見たり考えたりしており、そのレンズ自体は経験とともにだんだんと成長していくのです。
意識の成長に伴い、取得できる視点もだんだんと増えていきます。
9. 視点を増やすための二つの方法
では、「視点を増やすこと」もしくは「意識を成長させること」はどうしたらできるのでしょうか。
それには大きく二つの方法があります。
一つ目は、「人の助けを借りること」です。
「助け」もさらに二種類の助けがあります。
①視点を増やす質問をしてもらう
②実際の視点を教えてもらう
①視点を増やす質問をしてもらう
人は、質問があるとそれに対する答えを考えるという性質があります。「思考は問いによって始まる」もしくは「質問の質が思考の質を決める」と言っても過言ではありません。
「あの人は本当は何が伝えたかったんだろうね」「今の行動を続けると3年後にはどうなるかな」「まだ出会えていないお客さんってどんな人だろう」そんなちょっとした一言で、人はそれまでとは違う視点を持つことができます。
普段、それぞれの人が自分自身に問いかけている質問はパターン化しているということが多くあります。なので、違うパターンを持った人に問いかけをしてもらうことは視点を増やすために効果的です。もしくは今回の整理を見ながら、「この視点から見るとどうだろう」と自分で問いかけてもいいかもしれません。
意識は段階を追って成長していき、視点取得能力もそれに準じて成長していきます。そのため、他者が視点を増やすことを後押しするときは今もっている視点を起点に、今日ご紹介した順番に、新たな視点で考えることができる質問を投げかけるのが効果的です。
②実際の視点を教えてもらう
視点を増やすために、実際に色々な人の視点を聞いてみるというのも一つの手です。「あの人から見るとわたしってどう見えているのかな」「わたしたちはどう見えているのかな」「あの人はどういう考え方をしているんだろう」ということを想像した上で実際に聞いてみるということを繰り返していくと、想像の精度が上がっていくかもしれません。
人は、「わからないこと」をネガティブな想像で埋めやすいと言われています。「本人に聞いてみる」というのは、他者のことについてあれこれと想像をして溜まってしまうストレスを減らすためにも大切なことなのではと思います。
「視点を増やすこと」・「意識を成長させること」のために「人の助けを借りる」ことに加えて大切なのは「現在の視点を存分に味わう」ということです。
人の助けを借りるのは、一時的に新たな視点を取得することにはつながりますが、それが定着するためには意識自体が成長していくことが必要です。そして人の意識は、現在の意識をしっかり味わい、その限界にぶつかると自然と成長をしていくと言われています。
逆説的ですが、成長をするためには、成長を急がず今を味わうことが重要なのです。視点が偏ることで、もしかすると他者との間に軋轢が生まれたり課題にぶつかったりするということがあるかもしれません。しかしそれこそが、自分自身の意識を成長させてくれる貴重な機会となるのです。
また、人は、「自分ができるようになると、できなかったときのことをすっかり忘れてしまう」という性質があるとも言われています。
自分が新たな視点を取れるようになると、それができな人に対して「視野が狭いなあ」とか「何でできないんだ」と思ってしまうのです。
しかし、先ほどご紹介したように、「現在の視点を存分に味わう」ということは、その後、その人にあったペースで意識が成長をしていくためにとても重要なことでもあります。もし無理に成長や発達を急がせると、そこで成長が止まってしまったり、一時的に成長をしてもやはりその先に成長していかなくなるということも起こってしまいます。
「自己と他者の成長を見守るあたたかな視点」を持つことが、「視点を増やす」ことにおいて、最も重要なことと言えるかもしれません。
今日は「視点を増やすとはどういうことか」についてご紹介をしてきましたがいかがだったでしょうか。「もっといい選択肢を出したい」というときに今とは違う視点でものごとを考えてみるときや他者が今とは違う視点を持つことを後押しすることにご活用いただけると嬉しいです。
参考:
『自我の発達:包容力を増していく9つの段階』スザンヌ・クック・グロイター著 門林奨訳 日本トランスパーソナル学会2018
『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』加藤洋平著
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