【読書】ガンディー 獄中からの手紙 by ガンディー(森本達雄訳)
あらすじ
1. 宗教指導者かつ政治指導者として成功した稀な人物
ガンディーは、近代において宗教指導者かつ政治指導者として成功した稀な人物である。
現代の多くの先進国では、宗教と政治は分離しており、それが正しく、先進的であると考えられている。少なくとも私は、政治指導者でありかつ宗教指導者であるような現代の人物の例を思い浮かべた時に、「胡散臭い」という印象を抱く。しかし、ガンディーは宗教と政治を切り離すことができないものと考え、宗教指導者かつ政治指導者として多くの人に尊敬された稀な例である。彼は最終的にヒンドゥー教至上主義者によって暗殺されており、すべての人が彼の思想に納得していたわけではない。それでも、彼は今日、マハートマ=偉大なる魂と呼ばれ、尊敬されている。
ガンディーは、独立運動に際して特定の宗教・宗派を連想させる手段ではなく、宗教的でありながらも宗教・宗派普遍的な手段を用いた。それによって、インド国内の異なる宗教・宗派をまとめて独立運動に動員することができた。例えば、塩の行進では、塩という人間が生命を維持するために必要不可欠なものを対象にし、歩くという宗教普遍的な瞑想的行為を手法とすることで、ヒンドゥー教徒もイスラム教徒も運動に参加できるようにした。
このように、宗教家として活動しつつも、異なる複数の宗教を信じる市民が暮らす国家(都市)の政治指導者としても尊敬されるためには、宗教・宗派普遍的な真理に根差した対象を見抜き、それを手段に落とし込むという、高度な知性(世界と人間に対する深い理解と洞察)と戦略(参加のしやすさ、インターフェース)が必要である。
2. 柔軟かつ確固とした宗教観(寛容即宗教の平等)
そもそも時代背景として、当時インドは英国からの植民地支配・搾取に苦しみ、独立運動がたびたび勃興するものの、国内のヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立の溝が深く、「一つのインド」として一丸となって英国に対抗した独立運動を展開することができなかったため、独立運動はことごとく失敗していた。
つまり当時、インド独立には、異なる宗教の者が互いに尊重し協力できるような哲学・考え方が必要だった。
そこで、ガンディーの哲学的ロジックが価値を発揮する。
ガンディーは、宗教を必要不可欠なものと考えていたが、完璧なものとは考えていなかった。真理=神は完璧なものであっても、宗教は人間が心に抱くものであり、不完全な人間が心に抱くものなのだから不完全であるのは必然であると述べている。また、宗教というのは得てして聖典や口伝といった言葉で受け継がれていくものだが、この言葉も人間の創造物である以上欠陥を免れず、同じ意味のことが異なる言葉になって伝達されうる。
この、「真理=神は完璧だが、宗教=人間の思想・活動には欠陥がある」という考え方を、自らの宗教を含むすべての宗教に適用し、それゆえに宗教の優劣を比較することは無意味であると説いた。
3. すべての人がパンのために労働し、自分の清掃人たれ
インドのカースト制度では、生まれながらに職業が決まっており、例えば汚物の清掃人も生まれながらのカーストによって、そうなることが運命付けられていた。ガンディーは、全ての人が、人間の生活な必要な労働(食糧の生産や汚物の清掃といった、必要不可欠な人間の仕事)をすべきだと説いた。