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【詩】神無月の野

神様が留守にすると
秋は、素知らぬ顔で
その不在を誤魔化そうとする

金木犀を心地よく香らせ、
萩の小さな唇を色づかせ、
月に綺麗な化粧を施すので

秋風の手を取れば
目眩ばかり

神様がさぁ、留守なんだってさ  
 (ちゃんとお留守番できる?)

あの日、棚の中からくすねた
わたしという名の小さなドロップス

愛を与え 罰を与えるため
神様は作られたけれど
この世界に記録され続ける
わたしたちはきっと
今や、神様に哀れまれている
だから今でも、神様は時折
遠くの地へ出かけては
見て見ぬふりをするのだろう

誰でもなく、何者でもない
わたしがわたしになろうとする
途方もない野心を
秋は、見逃してくれるだろうか

神様が、留守なんだってさぁ 
 (だから今のうちにね)

あの日のわたしと、ドロップスを取りに帰る
それだけ、それだけと言い聞かせて
神無月の野へ

一面のすすきを撫でる台風の前触れは
神様の不在を、必死に誤魔化している
雷、神鳴、雷
薄暮の野原には身を隠す場所もない
だからひた走る
神様だけでなく、過去にも、未来にも、
決して追いつかれないように

神様、
 (いても、いなくても、
 見て見ぬふりをしていてください)

秋風の手を取れば
目眩ばかり

ほんの少し、袖から
甘い匂いがする

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

少し季節外れな詩ではありますが。以前、書いた詩を少し直してあげてみました。
本詩は、昨年出版した以下の詩集に収録しています。詩集をお手にとっていただける機会があれば幸いです。

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