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小さな虹

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短編小説「小さな虹」連載中
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聖夜の後の贈りもの〈小さな虹スピンオフ〉

聖夜の後の贈りもの〈小さな虹スピンオフ〉

「……仮にサンタクロースが東から西に移動するとして、地球の自転と時差から割り出すと、それは約31時間となります……」
 僕は、校内の視聴覚室のステージで、映し出されたモニターの画面を指しながら、夏休みの自由研究で入賞した研究考察内容を発表していた。定期考査も終えて、あと二十日あまりで冬休みを待っている頃であった。
 人前で話すことが苦手な僕ではあったが、この場合仕方がない。賞を戴いた責任上、覚悟を

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小さな虹3

小さな虹3


水たまり
「ぼうや、なにしているの?」
 しゃがんだリンくんが、垣根のすきまから庭をのぞいていると、うしろから、柔らかなガーゼケットのような声がしました。
 からだをねじって振り向くと、おかっぱ頭の髪の色が、クレヨンの白みたいなおばあさんが、リンくんににっこりほほ笑みかけていたのでした。
 リンくんは、そのおばあさんのきれいな白い髪の色に驚きながらも、
「ほくのながぐつが、あそこにあるの」
 そ

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小さな虹 2

小さな虹 2

雨上がり

 リンくんのお母さんは、音楽教室でヴァイオリンを教えています。
 アパートでは楽器の音を出すわけにはいかないので、楽器屋さんの音楽教室に毎日出かけていくのです。
 その朝も、リンくんを送り出したお母さんが出かける支度をしていると、玄関のチャイムが遠慮がちに鳴りました。
 ……ピ……ンポ……ーン
 そこには、川に落ちたのかと思うほどずぶ濡れ、片足裸足のリンくんが、たれた目を伏せて立ってい

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小さな虹 1  

小さな虹 1  

帰郷 この道を通るのは、何年振りだろう。
 小学生の頃、登下校で歩いたり、走ったり、ふざけたりした裏通り……あれから十七年か。母さんに会うのも久し振りだ。
 周囲の田畑や一軒家はマンションになり、随分と様変わりしてしまった。
 僕が、いたずらな友人に落とされた田んぼも消えてはいたが、その友人に落とされた用水路は健在だった。
 そして、ほら。新しい家と家の間に、「れんげ畑だったことを忘れないで」と言

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