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「一緒につつむと境界線が溶けてくね」。
「たねは、用意しといたんで」
「…ん?」
「たねは、僕らが朝から仕込んどきました。だから
今日の集合時間、1時間遅らせてもらったんです、すみません」
「いや、全然すみませんとかはないですけど…」
「だからつつむのは、一緒にやってもらうってことで、いいすか?」
と言って、フードハブ・プロジェクト(以下フードハブ)の代表・真鍋太一さんはニカッと笑った。
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「おつかれさまです」「おつかれさまでーす」
夜。フードハブのテストキッチンとやらに、大人たちがぞろぞろ集まってきた。
しいたけや、豚肉や、鶏ミンチ、パクチーが
むぎゅむぎゅと詰まったたねをみんなでのせていく。
メンバーの手際のよさにまったくついていけないけど、とにかく無心でつつむ。ふにふに、ふにふに、と。
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じゅわぁっっっ!と焼き上がったメインディッシュと
いつの間にかうつくしく盛られていたサラダ、
フードハブが運営する「かまパン&ストア」で購入したパンとかワインとか。
酢と、醤油とを、半々にブレンドして食べた餃子は、
そこに流れる時間も相まって、それはもう格別だった。
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(あらまあ、夜は徳島名物が食べられる居酒屋とかじゃないのか…)
と、一瞬がっかりした自分をぶん殴ってやりたい。
「一緒に<食べる>と、境界線は溶けていくんだよね」
おいしいの天才こと、真鍋さんは言った。
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「一緒に<つつむ>と、それは、もっとなんですなあ」
口に出して言わなかったけれど、ぱんぱんの腹で。
「大丈夫。このチームで、 このまま進んでいける。大丈夫」としずかに思った。
阿蘇・黒川温泉から徳島の神山まで約400キロ。何かをつかもうと進んだ先にたどり着いたのは、大きなダイニングテーブルだった。それをみんなが囲むと、ぽつりぽつりと未来の話がはじまった。
餃子のとなりにMacが置かれ、おもむろにスタートする即興プレゼン。あの夜、たしかに境界線は溶けていた。
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*
2024年初夏。私たちは熊本からはるか遠く離れて、
四国・徳島県の神山(かみやま)町にいた。
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「私たち」とは、「Au Kurokawa」の旗艦店となる「Au Pan &Coffee」のデザイン・ことば・写真などのコミュニケーション全般を担当する「熊本チーム」のメンバー・3人のこと。
そして今回の文章は、おもに<ことば>部門を担当している編集者(熊本市在住)の福永あずさが書いている。
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わたしたちが神山に向かったのは、なかなかどうして決め手に欠けていた「Au Pan &Coffee」のVI(ビジュアルアイデンティティ)や、指針となるブランドメッセージのヒントを得るためだった。
提案日は間近だというのに、車で約9時間かけて3人で徳島に向かう。
胃がきゅるりとする。
ほとんど誰も知り得ないことだけど、この「Au Pan &Coffee」はなんと現時点でオープンまであと3カ月を切った。げー。まじかよ。
そして、この大事な、大事なプロジェクトの立ち上げから伴走を続けてくれているのが、神山町を拠点とする「フードハブ」が運営する「かまパン」だ。
<神山の農業と食文化を次の世代につないでいく>ことを活動の目的とする「フードハブ」は、地域で育て、地域で食べる。<地産地食 Farm Local, Eat Local>を軸としたあらゆる取り組みをつづけている。
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そこで感じたあざやかな手ざわり。
こんなnoteなんかじゃ書きあらわせるもんか、とひねくれ者のわたしがブーたれる。
そんな神山の奇跡こと「フードハブ」の、
濃く、深く、長い時間をかけた活動についてくわしくはウェブサイトなどで確認してもらうとして(まるなげ)。
彼らが地域に根をおろし、「育てる、つくる、食べる、つなぐ」取り組みを循環させるなかで一貫しているのは、
<ちゃんと、時間をかける>精神だと確信した。
真鍋さんたちは、神山の農業の担い手育成を中心に、日本のどこの田舎にでもある課題を「小さいものと、小さいものをつなぐ」というシンプルな活動を通じて、本気で、みんなで解決していこうとしていた。
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それはつまり、<地域を見つめるまなざし>
みたいなものかもしれないなと思った。
地域を見つめるまなざし。それは、ローカルに生きる編集者に必要な要素として、わたしが大切にしている指針のひとつでもある。
約1年半「Au Kurokawa」プロジェクトにチームメンバーとして関わっている。決して容易ではない挑戦と期間の長さ(なにせ次から次へと課題が山積みなのだ!)
に多少、(いやだいぶ)ささくれだっていたこころが、照らされた気がした。
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「そりゃあ本気でやれば、時間はかかるさ」。
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「なぜ今回、Au Panとかまパンをつないだのですか?」
3月に黒川温泉で行われた「パンとワインの会」にて。わたしの素朴な問いに対して、プロジェクトの旗振り役である伊藤総研さんがこんな風に言った。
「このプロジェクトはね、黒川の人たちが、地域の人と、時間をかけてねばり強くやることが大事だと思うんです。その時間が、きっと地域に何かを育むと僕は信じている。だから実際に神山で、地域の人たちと一つずつモノづくりを積み上げている真鍋くんたちから、そんなことを感じてもらえるといいなと思ったからです」。
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神山視察とメンバーとの対話を経て立ちあがった
「Au Pan &Coffee」の軸となるコンセプトは、
<地域のパン屋>。
やっぱりこれだ。
これ以上ないほどのど直球ぶり。
地域にある食材を使い、小国郷の味をつなぐ。
地域でうまれる関係性を大切に育てていきながら、
<地域の人たちが毎日食べたいパン>を大事にする。
だから、地域のパン屋。
そして里山の温泉街のパン屋を起点に、
地域の食の豊かさを伝えていく店に
していきたいという、シンプルでつよい想いを込めた。
あるものから何ができるかを想像し、みんなでつくりあげる。
黒川にあってほしい店がどんな店かを、動きながら、考える。
それには長い時間がかかるものだということを、
同じ釜の飯をつつんだ私たちはもう、知っている。
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(「神山出張日誌」後編へ。たぶんつづく)
photo/マエダモトツグ.
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