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広告発想的空間デザイン / ZOFF OMOTESANDO

このコラムの特徴

空間(体験)を使い企業やブランドを如何に生活者に伝えていくか。博報堂で空間デザインに従事していた僕がいわゆる空間デザイナーと異なるのは、空間デザインにコミュニケーションアプローチをとることです。このコラムを通じて、空間デザインにおけるコミュニケーションデザインとは何かをお伝え出来ればと思います。

前回コラム:新規事業のブランドデザイン / AND market



はじめに


今回は、僕が過去に行なった空間開発の提案の中でも、特に広告発想色の強い店舗開発事例をご紹介したいと思います。

プロジェクト開始は2010年。クライアントはアイウェアブランドの「Zoff」。2011年にリニューアルされたZoff表参道旗艦店のコンセプト提案です。(現在のZoff表参道は、2010年代後半に更にリニューアルされたものです)

「旗艦店」は新規事業モデルの実装と検証を期待される場合や、広告的(PR効果)役割を期待される場合等があり、水平展開されている一般の店舗とは異なる役割があります。本プロジェクトのプレゼン時は広告的役割の期待値が高かったことから、広告発想のデザインアプローチをとりました。

ZOFF OMOTESANDO ファサードデザイン案


コンセプトアプローチ

広告・マーケティング的アプローチを簡単に説明すると、「企業やブランドを取り巻く様々なマーケティングデータを紐解き、ブランドの独自性や優位性を分析し、生活者がブランドに求める本質的なインサイトを発見し、ブランドと生活者を繋ぐ為のコンセプトとアイデアを発想する」と言ったところでしょうか。広告関係者からするとざっくりし過ぎだと言われそうですが、空間デザインの開発では一般的には取らないアプローチです。

Zoffの表参道旗艦店開発時もブランドに関する様々な調査を行い、競合他社と比較した時の店舗体験の優位性を抽出しました。実際にはブランド全体を対象とした調査でしたが、今回は特に店舗の評価やイメージに関わる結果を中心に話しを進めていきます。(2011年当時の調査なので、現在のZoffブランドの実体ではありません)

Zoff既存店の代表的なイメージと強み(顧客調査より)
・気軽に入れる
・楽しい(選ぶ楽しさがある)
・発見がある(豊富なバラエティから自分のお気に入りを見つけられる)

ブランド全体の調査では、他の眼鏡チェーンと比較して誰にでもオープンなブランドであるというサマリーに注目しました。商品のラインナップに偏りがなく、年齢や性別、嗜好性に限らず誰でも自分にあった眼鏡がありそうという期待をもたせるものでした。


コンセプトデザイン


旗艦店コンセプトは「ZOFF PARK HARAJUKU」

旗艦店新ロゴ  (グラフィックデザインは現ONE HAPPYの小杉君)


前項の結果から僕たちは、ブランドの独自価値を「オープン」とし、旗艦店では、既存店に通じる価値「気軽、楽しい、発見」がある体験のデザインを目指し、その体験を提供する場として店のあり方を考えていきました。

「気軽、楽しい、発見」という店舗の購買体験には、「PICNIC」というメタファーを割り合て、その体験を実現する場のコンセプトを「PARK」としました。「公園にピクニックに行く様に気軽でウキウキする感覚で店舗に訪れ、どんな人でもきっと自分に合った新しい発見(商品)が見つかる」というものです。


コミュニケーションデザイン

ここから表現のプロセスに入ります。広告発想の空間開発では、空間のデザインをどうするかではなく、コミュニケーションデザインのシンボルとなるアイコンをどうするかという発想から入ります。空間デザインにも広告デザインにも使えて、さらに商品の見え方まで変えてしまう、そんなコミュニケーションアイコンです。

アイコンとなるメガネケース「Eyewear Capsule」



アイコンは「Eyewear Capsule」

商品、空間、広告。それらを貫く体験のストーリー。そのストーリーのアイコンとして辿り着いたのが、このカプセル型の眼鏡ケースです。空間においてはデザインのモチーフそしてVMDとして、広告においてはデザインのアイコンとして、商品においては従来のメガネケースには無いファッション性の高いメガネケースとして機能し、それらは認知から購買体験、商品の日常利用からシェアまでの一連のブランド体験をつなぐアイコンになる事をイメージしました。



商品:「Eyewear Capsule」はファッションアイテム

このメガネケースは、カバンに入れておくだけのものではなく、ファッションアイテムとして持ち歩くことを想定したデザインとしました。今やウォーターボトルがファッションアイテムとなった様に、見せる事を前提としたメガネケースのデザインです。

カプセルの利用イメージ(案)


商品:「Eyewear Capsule」はブランド整理のロジック

誰にでも自分にあった眼鏡を見つけられるというブランドへの期待感が高いことから、カプセルにはカラーバリエーションを持たせる事にしました。当時Zoffは商品カテゴリーを7種類に分類してMDを整理していた為、それら7種類にカラーを割り当て、カテゴリーを表す7色を「Zoff Rainbow」と呼ぶこととしました。

Zoff Rainbow (案)




空間:「Eyewear Capsule」は空間のモチーフ

コミュニケーションアイコンとしてデザインしたカプセルは、もちろん空間デザインにも展開されます。PARKを表現する空間コンセプトの基本構成をベースに、各什器にはカプセルが持つ形状を落とし込みました。また、カプセル自体をVMDとして利用し、7色の展開(Zoff Rainbow)を利用したカラフルなファサードをデザインしました。

カプセル型をした店内什器(案)
カプセルによるファサードデザイン(案)



広告:「Eyewear Capsule」は広告のアイコン

コミュニケーションアイコンであるカプセルは、広告や配布ツール、カタログといったコミュニケーションツールのデザインモチーフとして機能します。カラフルなカプセル(メガネケース)をビジュアライズする事でワクワクするコミュニケーションデザインとなりました。

カプセルをアイコンとしたキービジュアル(案)
原宿駅ジャックのイメージ(案)
誘導看板デザイン(案)(グラフィックデザインは現ONE HAPPYの小杉君)


この様に、コミュニケーションのアイコンとして設定したカプセルを中心に全ての表現が統一される事でコミュニケーション力の強いブランドのデザインができていくことがお解り頂けたと思います。


旗艦店の体験ストーリー

ここからは、空間デザインをシーン毎に解説していきたいと思います。

ファサードデザイン1(案)

ゾフパーク原宿は、原宿駅を出て表参道へ向かうと見えてくる。白い外観に鮮やかな青い「Zoff Park Harajuku」の大きいサインがあり、Zoffの新しいお店だと直ぐに気付く。

ファサードデザイン2(案)

店舗は前面ガラスが開放でき、何処からでも入る事ができる。道路に面したエリアは人口芝が敷いてあり、まるで公園の様な空間。表参道の空気を感じながら誰でもここで過ごす事ができる。

ファサードデザイン3(案)

ファサードのガラス面には7色のカプセル(Zoff Rainbow)が並び、カプセルの中にはメガネが入っている。7色のラインが公園に掛かる虹のようだ。

エントランスデザイン(案)

Zoff Blueのメインゲートには最も旬な商品がディスプレイされている。天井から青いカプセルが放射状に広がり、まるで公園の噴水の様だ。

インテリアデザイン(案)

店内は、7つのカテゴリー毎に7色の什器が並んでいる。什器の上部は照明兼鏡になっている。店内は大型の鏡が至るところにあり、顔だけではなく全身のコーディネートを意識して買物 ができる。

インテリアデザイン立面展開(案)

店内奥の壁は、芝生が施されている。店前の芝生空間やエントランスの噴水等、店内全体が公園の様になっている。

インテリアデザイン俯瞰(案)

買物が終わると、自分が好きな色の「eyewear capsule」にメガネを入れて渡してくれる。肩からカプセルを掛けてそのまま表参道の街へ。


このコンセプト提案は競合プレゼンであった事から、僕たちはカプセルの実現性はさておき、僕たちが持つ視点や発想の幅、デザイン力をクライアントに伝える為に今回の様な提案を行いました。実際の提案書には他に沢山のコミュニケーションアイデアやビジュアル、メディアとタイアップしたアクティベーションや媒体プラン等様々ありました。

クライアントはこの提案を非常に気に入ってくださり、カプセルを如何に実現するか、カプセルの製作方法、眼鏡を保護する為の仕様、カプセル製作分上がる原価を販売価格で如何に吸収するか等、様々なシミュレーションを行い経営と実現を模索してくれました。

結果的にカプセルは実現できませんしたが、一連の活動は僕たちのチームで実施し、旗艦店舗やそのコミュニケーションは原案を生かしながら他のカタチで実現しました。


最後に

ここからは実際に完成した店舗の竣工写真を掲載します。

ファサード

店舗のゾーニングや形状等の基本的な構成は提案と同様に実現しました。店前の芝生空間はVMD兼物販空間に変わりました。

エントランス

メインゲートの空間。カプセルを使った噴水は無くなりましたが、照明の形状を変えてほぼ同じデザインで実現しました。

インテリア
インテリア

7色展開は無くなりましたが、カプセル型の什器の形状、デザインは提案時のまま実現しました。

インテリア

提案時の広場空間。店外から見たときに美しく発光するウィンドウディスプレイ兼売り場となりました。什器の形状はカプセルのデザインを使いました。

FRAME MAGAZINE


一連の実施デザインは海外からも評価され、世界的なインテリアデザイン誌「FRAME MAGAZINE」にも掲載されました。


店舗には、経営母体となる企業があり、ブランドがあります。そしてブランドを扱うデザイナーやクリエーターは、生活者に対してブランドの価値を明確にして伝えるというミッションがあります。

その視点で店舗開発を捉えた時に、空間の構成やデザインに着手する前に「ブランドの何をどう伝え、それはどの様に広がっていくか」というストーリー開発のプロセスが必要であるという事が解ります。そのストーリーが強ければ強いほど提案するデザインに解像度と説得力が増し、経営者は投資判断がし易くなり、デザイン一つ一つの判断はデザイナーに任せるという、デザイナーにとって理想的な環境を生み出すことができます。



最後までお読み頂きありがとうございました。


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ではまた次回の更新まで。

室井淳司