後村勇

日本料理人。

後村勇

日本料理人。

最近の記事

お椀の具材に関しての考察

前回に引き続き、今回もお椀について考えてみた事をまとめていきたい思います。 出汁を活かすための椀種今回は椀種について考えて行こうと思います。 「煮物椀とは具をメインにした吸い物」であるという風に思われている方もいるかもしれません。 確かに、普通の吸い物よりも大きな具を使うの事が多いです。 しかし、具をメインと言われたら少し違和感があります。 やはり、煮物椀は何よりも出汁の美味しさを味わうものでないかと思います。 100店の日本料理店があれば100通りの味があるのが

    • 煮物椀についての色々

      お椀と造りを合わせて「椀刺し(わんさし)」と言って日本料理のメインとなる料理です。 お店、料理人の包丁の技術が試されるのが造り(刺身)で、味付けの技術を試されるのが煮物椀と言われています。 お椀の出来映えがお店の技量を試される煮物椀は、出汁の引き方、味付け、椀種に使う素材の選別、その素材の持ち味引き出す工夫、色々なものが一皿に集約されています。 料理人の技量の全て試されると言っても決して過言ではないでしょう。  実際に多くの料理人の方がこの煮物椀に大きな情熱を注いでいま

      • 温度と味の変化を考える

        「熱いものは熱いうちに。冷たいものは冷たいうちに。」 料理の仕事をしている人ならば誰でも聞いたことのある言葉だと思います。 当たり前すぎて深く考えたことも無い、という人も中にはいるかもしれません。 今回は料理と温度について考えてみたいと思います。 人間が感じる味は、温度によって大きく変化します。 ソフトクリームを食べたことのある人は多いと思います。 買ったばかりの最初の一口は美味しいですよね。 何らかの事情で時間が経って溶けて液体状になってしまったソフトクリーム

        • コースの一番最初の料理を考える

          最初の料理について考えるいわゆる「先付」についてです。 お店によって「前菜」と呼んだり、「突き出し」と呼んだり、「向付」と呼んだり、また「先八寸」だったり、呼び方は色々ですが、それは一旦置いておきます。 コースの一番最初の料理について考えようと思います。 コースの一番最初に出す料理とは、どんなものが適切でしょうか? お椀や焼物、お造りなどは型がある程度決まってますので、なかなか個性が出しづらいのですが、先付は割と自由な発想で考えれる部分が多いと思います。 「先付」に

        お椀の具材に関しての考察

          玉子サンドと女と僕と

          「好きな食べ物は?」と聞かれたら少し返事に困る。 食べることは何より好きだし、仕事柄、人よりもほんの少しだけ美味しいものを食べてきた自負もある。 僕にとって食べ物とは、あるときは仕事の成果物であり、あるときは教科書であり、あるときは研究対象であり、またあるときは未踏の新大陸のようなものである。 今の僕にとって、それは「好きか嫌いか」という主観を出来るだけ排除して、美味しいか美味しくないかを冷静に判断すべきものだ。 それと対峙するときは、何を、誰に対して、どのように、自分な

          玉子サンドと女と僕と

          読むだけで和食が上手くなるnote 「炊く」編

          「炊く」とは最も重要な調理の技法「炊く」という調理方法は、日本料理の中でも最も重要な調理方法でないかと思います。 「焚き合わせ」はもちろんですが、広義で考えれば、出汁を引くことも、ほうれん草のお浸し、鴨ロース、ご飯を炊くことも、全部「炊く」ことです。 色々な「炊く」味付けした"地"を使って調理すること、これが「炊く」ということです。 地の温度の上限値は水の沸点である100℃、下限値は融点である0℃です。 この間の温度をコントロールすることで、様々な「炊く」があります。

          読むだけで和食が上手くなるnote 「炊く」編

          読むだけで和食が上手くなるnote 「焼く」編

          「焼く」という加熱方法は、最も原始的な調理でないかと思います。 しかし、単純で原始的なことこそ、難しいのです。 理由は「出汁」のページでも書いた100メートル走の世界の話の通りです。 色々な場面での「焼く」日本料理の献立で「焼き物」と言ったら、多くは焼き魚を指します。 しかし、牛肉を使ったり、春先なら筍、秋は松茸なんかを焼くことも多いかと思います。 また、メインの食材で無くても、付け合わせの野菜であったり、八寸の中であったり、何かを「焼く」機会は非常に多いです。

          読むだけで和食が上手くなるnote 「焼く」編

          読むだけで和食が上手くなるnote「揚げる」編

          蒸すことと揚げることは似ている前回は「蒸す」という加熱方法について色々と書いていきました。 今回は「揚げる」ことについて書いていきたいと思います。 僕は揚げることは蒸すことに似てるのではないかと思っています。 蒸す場合は蒸気、揚げる場合は油という違いはありますが、均一の温度の熱エネルギーで素材を加熱するという点では同じだからです。 蒸すことと揚げることの注意点も、ほぼ同じです。 つまり、どうやって味を補うのかと、中心部の温度管理です。 揚げ物の分類「揚げる」ことは

          読むだけで和食が上手くなるnote「揚げる」編

          読むだけで和食が上手くなるnote「蒸す」編

          今回から加熱の方法について書いていきたいと思います。 私の知る範囲だけの話かもしれませんが、献立の中に「蒸し物」を常に入れているという店はそんなに多くないように思います。 献立を立ててみて、何か少し物足りないと感じたら「蒸し物」を一品入れてみたり、秋口の松茸の季節になると椀物の代わりに土瓶蒸しを入れてみたり、冬場は焚き合わせの代わりに蕪蒸しをしてみたり、レギュラー選手じゃないけど、いざという時に頼りになる代打の切り札のような存在でないでしょうか。 意外と簡単な「蒸す

          読むだけで和食が上手くなるnote「蒸す」編

          読むだけで和食が上手くなるnote「切る」編

          今回から数回にわけて日本料理の調理技法について書いていきたいと思います。 調理技法と言えば、「焼く」とか「揚げる」とか「炊く(焚く)」などが最初に連想されると思います。 その中でも少し盲点になりがちな「切る」ことに今回は焦点を当てたいと思います。 「切る」ことも重要な調理の一つ「切る」ことは、丁寧に言えば「包丁を使って大きいものを小さく分断すること」ですが、これも立派な調理のひとつです。 人間は全く同じ味のものを食べたときでも、食べるものの大きさによって、口に入れたと

          読むだけで和食が上手くなるnote「切る」編

          読むだけで和食が上手くなるnote 「出汁」編

          「出汁(だし)」は日本料理の命と言われます。 書店に行って、初級者向けの日本料理の本を読んでみれば、必ず最初の方で「出汁の取り方」が書かれていると思います。 我々のような日本料理人は当たり前のように毎日出汁を引きます。 では、その出汁とは何なのか、考えてみたことを書いていきたいと思います。 和食のクオリティを上げるには出汁から出汁は様々な料理に使います。 「椀物」の吸い地を筆頭に、野菜の焚き合わせ、炊き込みご飯、出し巻き卵や茶碗蒸し、ほうれん草のお浸し、さらに土佐酢

          読むだけで和食が上手くなるnote 「出汁」編