煮物椀についての色々

お椀と造りを合わせて「椀刺し(わんさし)」と言って日本料理のメインとなる料理です。

お店、料理人の包丁の技術が試されるのが造り(刺身)で、味付けの技術を試されるのが煮物椀と言われています。

お椀の出来映えがお店の技量を試される

煮物椀は、出汁の引き方、味付け、椀種に使う素材の選別、その素材の持ち味引き出す工夫、色々なものが一皿に集約されています。
料理人の技量の全て試されると言っても決して過言ではないでしょう。 

実際に多くの料理人の方がこの煮物椀に大きな情熱を注いでいます。

辻調理師専門学校の創設者である辻静雄さんの生涯をモデルにした小説で『美味礼讃 (文春文庫)』(海老沢泰久・著)という本があります。

その中で、静雄さんがフランスの著名な料理人が来日した際に、日本料理店に招待して、「お椀の味が美味しくなければ、後の料理は食べずに帰ってもいい」と説明するシーンが出てきます。

それぐらい大事な一皿になってきます。

吸い地の味付け

煮物椀に張られる出汁のことを「吸い地」「椀地」といいます。

これを飲めばその店の味がわかると言われています。

味付けは、一番出汁にごく少量の塩と醤油。稀にお酒を加える事もあります。

味わいは本当に微妙なもので、醤油の数滴、塩のひとつまみで大きく変わってしまいます。

他の料理の味付けよりも圧倒的に難しいものです。

しかも、さらに大変なのは、お客様の好みの味付けは人それぞれだということです。

濃い味付けが好きな人もいれば、薄味が好きな人もいる。

全く何も食べずに生きていく人はいません。

どんな人でも食に関しては好みの一つ、一家言あるもので、この世に生きる人は皆「食べる事のプロ」であると言えるでしょう。

我々のような料理を作るプロの相手は、常に食べる事のプロである、ということがこの仕事の難しさでないかと思います。

わずかの調味料しか使えない中で、多くの人が美味しいと思えるものを作ることは本当に大変なことです。

自分が美味しいと思っても、お客様が同じように感じてもらえるとは限りません。

出来るだけ多くのお客様の様子を見て、トライ&エラーを繰り返すしかないのではと思います。

単に料理の完成の味を見て終わり、ではいつまで経っても成長はありません。

煮物椀を作るときのポイント

煮物椀を作るときに僕がポイントと思うことを何点が挙げたいと思います。

少し薄味で作る
吸い地の味付けをするとき、味見をするときは一口か二口ぐらいしか飲まないと思います。

このときに丁度いい濃さの味付けにしてしまうと、お椀で一杯飲んだ時に辛く感じてしまいます。

味見をするときは、「少し薄いかな?」と思うぐらいで止めておくと、一皿食べたときに丁度いい加減になります。

私が実際に食べに行った店の中でも、一口目が一番美味しいけど、一皿食べたときにかなり濃いというお店は結構あります。

一口目は薄めに、というのがポイントです。

夏は塩、冬は醤油で
どうしても夏は汗をかいて、身体の中の塩分が少なくなります。

人間の身体は自分に足りない栄養素を摂ると美味しいと感じる様に出来ています。

石器時代なんかは糖や動物性の油脂は生命を維持するのに必要な栄養素でありながら、貴重品で中々食べられないものでした。

人間の生活様式が変わった現代でも、当時の人類と遺伝子の配列はほとんど変わりません。

だから甘い物や肉類を食べると、積極的に摂取するように美味しいと感じるようになっているのです。

同じように塩分も生命を維持するのに必要なものです。

吸い地の味付けは塩と醤油を使いますが、夏場は塩を多目にして、醤油は減らす。

冬は逆に塩は少な目で、醤油を増やすと良いです。

盛り付けは冷めないように

基本中の基本中で、日本料理のお店で働いたことのある人は誰でも言われた事があるのではないでしょうか。

人間の舌は、食べる物の温度によって味の感じ方が変わります。

この話は以前にも書きました、そちらの記事も参照してもらえたらと思います。

人間は口の中と同じ温度の味は感じやすく、そこから温度が高くなったり低くなったりすると感じにくくなります。

吸い地の味を見たときはベストの味付けであっても、お客様のところに行くまでに、ぬるくなってしまえば味の感じ方も変わってしまいます。

椀種やあしらいはしっかりと温めないと、吸い地を張ったときに熱を奪います。

盛り付けは手早く、冷めないうちにお客様のところに届けていかなければなりません。

まとめ

お椀を作る際のポイントをまとめてみました。**

煮物椀は日本料理の華であり、料理人の技量が現れます。

しっかりとした技術と知識を身につけ、いい料理を作れるようになって欲しいと思います。

私自身もまだまだ勉強していかなければと思います。


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