コースの一番最初の料理を考える
最初の料理について考える
いわゆる「先付」についてです。
お店によって「前菜」と呼んだり、「突き出し」と呼んだり、「向付」と呼んだり、また「先八寸」だったり、呼び方は色々ですが、それは一旦置いておきます。
コースの一番最初の料理について考えようと思います。
コースの一番最初に出す料理とは、どんなものが適切でしょうか?
お椀や焼物、お造りなどは型がある程度決まってますので、なかなか個性が出しづらいのですが、先付は割と自由な発想で考えれる部分が多いと思います。
「先付」に適した条件
「先付」は店の第一印象を決める重要な一皿です。
自由な発想で考えることが出来ると言っても、そこには適切な条件のようなものがあるように思います。
三年ぐらいレストランで働いていれば、何となくイメージはあると思います。
また、座敷で食べる場合、カウンターの場合、大人数の宴会の場合、それぞれで少しずつ違うのでは無いかとも思います。
私の考える先付に必要な条件です。
・待たせる時間が少ない
・見た目が美しい
・香りがよい
・お酒に合う
・季節が感じられる
・驚きのあるもの(食感など)
・店のコンセプトと一致している
・重過ぎない
・かと言って、すぐに食べ終わる量でも困る。
・食欲のそそるようなもの
・酢が効いていれば、よりベター
パッと思いつくのはこれぐらいでしょうか。
もちろん、全部が必要ってわけじゃなくて、ケースバイケースで取捨選択が必要になってきます。
宴会の場合だと、事前に配膳しておくのか、乾杯の挨拶が始まってから料理を配るのか、そのあたりでも変わってくると思います。
そのあたりの事情も考えて、献立を考えなければいけません。
順番に見ていきましょう。
「待たせる時間が少ない」
おしぼりとお酒が出てから、間が空きすぎると手持ち無沙汰になってしまいます。
ほとんどのお客様はお腹が空いている状態で来店されます。
注文を受けてから作る割烹スタイルのような店ならまだしも、事前にコース料理の予約をしているのに長時間待たされると「期待」は「怒り」になってきます。
ここは出来るだけパッと出せるようにしたいところです。
ほとんど絶対条件と言ってもいいのでは無いでしょうか。
「見た目が美しい」
料理にとって見た目は本当に大事な要素です。
特に一番最初の料理は、後々の料理の期待感を煽る効果があります。
また、最近は多くのお客様が料理の写真を撮られます。
途中の料理は写真を撮り忘れることもありますが、先付はそのようなことも少ないものです。
「香りがよい」
味や視覚だけでなく、嗅覚も食欲をそそる為の重要な要素です。
シンプルな要素の多い日本料理です。
献立を考えるとき、香りも最大限に利用出来るようになると、一段ステージが上がったような、そんな気になります。
木の芽や茗荷や生姜、山葵の葉、独活(うど)、三つ葉、こういった香りの強い野菜はチャンスがあれば、積極的に使っていきたいところです。
「お酒に合う」
これはお酒の弱い方、車でご来店の方もいるので、一概に言うことは出来ませんが、食だけでなく、飲み物にも気を配りたいところです。
また、「食前酒」のある店は食前酒と相性の良いものを考えるべきでしょう。
「季節が感じられる」
日本料理と言えば季節、季節、季節。
献立を考える立場の人は、季節感を何よりも大事にしている、というような人もいるのではないかと思います。
先付の季節感は本当に大事です。
どちらかと言えば旬のど真ん中よりも、少し走り気味の食材を使ったほうがいいのでは無いかと思っています。
「あ、今年もそんな時期なんだ。」「今年の初物だ。」というのは、食べたときにとても強い印象を残します。
ここでの印象はご来店されてから、数日、数ヶ月、ときには数年経っても残るものでは無いかと思います。
旬の食材を使うと「この前も他の店で食べたな」となる可能性が高いです。
あまり大きく外さずに、やや走り気味、というのがポイントです。
「驚きのあるもの(食感など)」
先ほどの「少し走り気味の食材を使うという」部分と狙いは近いです。
お客様にとって、お店の印象というのは時には数年も長く頭の中に残ります。
食感などに工夫を凝らした「驚きのある美味しさ」というのは使えるならば、先付から使うのがいいと思います。
後に続く椀物、造りは、どうしても一定の型があります。
「店のコンセプトと一致している」
ここまで色々と書いて来ましたが、献立は全体を通して考える必要があります。
お店によって、コースの金額や来店の用途は様々です。
また、お店のしつらえ、器などを考慮して、「高級食材を入れないとダメだ」とか、「ここは野菜だけで」など、考えなければいけないでしょう。
また、いくら驚きのあるものと言っても、あまりにも店のコンセプトと大きく外すと浮いてしまいます。
うまくバランスを取る必要があります。
「重過ぎない」
コースの最初から、満腹感のあるようなポーションの重いものを提供すると、後の料理に影響が出ます。
日本料理は繊細なものが多いです。
先付だけ印象が強くて、後の料理が目立たないようでは困ります。
見た目の美しさ、驚きのあるものを志向しつつも、大げさになり過ぎてはいけない。
豪華であるよりは、さりげなく美味しい、と言ったポイントを狙っていきたいところです。
かと言って、すぐに食べ終わる量でも困る
前の「重過ぎない」と両立させるのは少し難しいかもしれません。
しかし、先付の後には、椀物、造りが控えています。
ここは日本料理のメインとも言えるポイントで、調理場の中が一番忙しくなるところです。
お椀の出汁は引き立て、造りの魚は切りたてが一番美味しいです。
お店の席数、お客様の入り具合にもよりますが、出来れば作りたてのものを食べてもらいたい。
先付を一口、二口で食べ終わってしまうと、少し余裕が無くなってきます。
ある程度、「先付で時間を稼ぐ」という視点を持つと、仕事がスムーズに回せるのでは無いでしょうか。
「食欲のそそるようなもの」
「酢が効いていれば、よりベター」
コース料理となると、だいたい食事に2時間ぐらいはかかります。
そのスタートを切る料理は食欲を刺激するようなものが適切でしょう。
酢とは酸味です。適度な酸味には、消化を助け食欲を刺激する効果があります。
「寿司ならいくらでも食べれる」という人は結構いますが、これが海鮮丼になると同じ人でも食べられる量には限界があるでしょう。
これは寿司飯に入っている酢の効果が大きいと思います。
単なる調味料の酢だけでなく、柑橘の果汁は風味や香りもよく、日本料理の先付には多用されます。
「先付」でお客様の特徴を把握する
先付というのいうのは、お客様に取ってお店の第一印象であると述べました。
しかし、同時にお店にとってもお客様の第一印象になるものです。
お客様の年齢、体格、ご来店の目的、召し上がるスピードはどうなのか、お酒を飲まれるスピードはどうか、こういう情報は、最初の一皿でだいたい把握できます。
例えば、お酒。
1杯目からビールをグイっと飲まれるような方は、2杯目から「お茶でいいです。」とはあまりならない。
やはり量を飲まれる方が多いです。
一皿目を食べるスピードが早い方は、全体的に召し上がる量も多い傾向にあります。
そういう情報は、事前の予約では中々わかりません。
最初の一皿、二皿で把握して、もしも余裕があるならば、もちろん予算の範囲はありますが、後のコースを変更したり、そういう工夫が出来るでしょう。
気をつけておきたい宴会の「先付」
気をつけたいのが大人数の宴会の席です。
宴会の開始前に会議があったり、始まってからも出席者の方は挨拶をしたり、名刺を配ったり、お酌をしたり、何かと忙しいものです。
宴会の最初の頃というのは、お店のサービススタッフも何かとバタバタするものです。
こっちの席のビールが足りてない、手荷物の預かり、靴札はこちらで、1人遅れて到着は〇〇分後で、……。
経験の豊富なベテランのサービスの方でも、宴会の席というのは大変です。
こういう場合は前菜のボリュームを増やして、時間を稼ぐ、という視点が大事になってくるでしょう。
もしも、すぐに食べ終わるようなものだと、上座は料理を食べ終わってるのに、下座にはまだ配り終わってないということも想定されます。
こういう場合、やはり基本は上座の方に合わせないといけませんので、もう調理場もサービスも大混乱になります。
開始前に料理を配膳しておくという場合には、どうしても作り置き感が出てしまいますので、そのマイナスに負けないような華のある料理を、というのも一つの方法でしょう。
宴会というのは、どうしても料理の注目度は低くなりがちです。
それをいかに引き付けるか、というのが難しさでもあり勝負でもあります。
まとめ
以上、ざっと色々な事を書いてみましたが、コースの一番最初の料理は、料理人の個性が一番出せるところでもある思います。
読んだ方の中で「こんなアイデアがあるよ」「お前の言ってる事は違う」という部分があれば、気軽にコメントくださいませ。
以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました。
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