読むだけで和食が上手くなるnote「蒸す」編

今回から加熱の方法について書いていきたいと思います。

私の知る範囲だけの話かもしれませんが、献立の中に「蒸し物」を常に入れているという店はそんなに多くないように思います。

献立を立ててみて、何か少し物足りないと感じたら「蒸し物」を一品入れてみたり、秋口の松茸の季節になると椀物の代わりに土瓶蒸しを入れてみたり、冬場は焚き合わせの代わりに蕪蒸しをしてみたり、レギュラー選手じゃないけど、いざという時に頼りになる代打の切り札のような存在でないでしょうか。

意外と簡単な「蒸す」という調理

蒸すという調理方法は料理の中でも比較的簡単なほうでは無いかと思います。

それは蒸気という熱に均一に包まれるからです。

均一な熱量で加熱されるということは、蒸し器の内部の温度と時間の管理に気をつけてさえいればよいということです。

これが炭火の直焼きなんかになると、慣れるまでは均一な温度の管理だけで大変です。

さらに、蒸すという調理は管理する温度帯も、80℃〜90℃前後と低めの温度であることも、比較的簡単である要因と言えるかもしれません。

揚げ物であると180°C前後。焼き物だと場合によっては何百℃といった高温になります。

「蒸す」だけでは味はつかない

「蒸す」ことで味は付きません。「炊く(焚く)」場合だと加熱と味付けを同時進行で行う調理であるので非常に難しいのですが、「蒸す」は純粋に加熱するだけの調理の技法になります。

気をつけて頂きたいのは、蒸すというのは加熱するだけですので、調理中の味付けは一切出来ません。

アクを取ることも出来ません。

蒸す段階に入るときには、その時点で加熱以外の調理を終えておかなければなりません。

先ほども書きましたが、蒸すというのは比較的低温で調理します。

つまり、素材の細胞組織の破壊が少ないのです。

つまり、「素材の味が逃げにくい」「焦げない」「パサつかない」「型くずれしない」のです。

栄養価の流出も少なくて済みます。

素材の滋味を引き出すような、非常に日本料理らしい調理法だと思います。

「蒸し物」の味付け・適した食材に

前項で少し触れましたが、蒸すことによって味は入りません。

つまり、味付けと加熱を別々に考える必要があります。

蒸す前や蒸した後に塩を振ったり、味付けした出汁に浸しながら蒸したり、蒸し上がった後に「あんかけ」にしたり、別添えで醤油やポン酢を付けたり、そういった形で料理として完成させることが多いです。

調理中にアクを取ることが出来ませんので、蒸し物に適した食材は元々がアクの少ないものがいいということになります。

魚なら淡白で鮮度の良い白身が良いと思います。

魚介類や肉類を蒸すときは、あらかじめ霜降りをしたりといった工夫が必要になってくるでしょう。

和食では無いので余談になりますが、ギョウザは焼くと同時に蒸して加熱しています。

生の肉類はアクが強くて、本来なら蒸すのにはあまり適さないのですが、香味野菜をたくさん入れて臭みを緩和し、蒸すと同時に「焼く」という過程を同時に入れることによって、素材の旨味を逃さない「蒸す」ことの特長を活かした、非常に美味しい料理になっていますね。

表面の温度と芯温の把握がポイントです。

蒸すときに一番気をつけてもらいたいのが、蒸す前の素材の芯の温度です。

蒸すだけでなく、加熱調理全般に言えることですが、当然ながら熱は外側から入っていきます。

外側はベストな状態になっているのに、内部は火の通りが甘い、内部がベストな状態になったときには外側は火が通り過ぎ、というときがあります。茶碗蒸しの"す"が入った状態などが代表格です。


蒸し器の内部、蒸気の温度管理も勿論大切なのですが、それは誰でも気をつけるポイントだと思います。

少し盲点になりがちで、大切なのは蒸し始める前の素材の温度管理です。

冷蔵庫から出してすぐ蒸し器に入れるのか、常温に戻ったものを蒸し器に入れるのか。器は温かいのか冷たいのか。

それでかなり仕上がりの状態や調理時間が変化します。

素材の損傷、旨味の流出を最小限に抑えるために「蒸す」という加熱方法を選択しているのに、蒸し始めの温度が低すぎた為に料理自体が台無しになってしまう、ということにならないように気をつけてもらいたいところです。


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