温度と味の変化を考える

「熱いものは熱いうちに。冷たいものは冷たいうちに。」

料理の仕事をしている人ならば誰でも聞いたことのある言葉だと思います。

当たり前すぎて深く考えたことも無い、という人も中にはいるかもしれません。

今回は料理と温度について考えてみたいと思います。

人間が感じる味は、温度によって大きく変化します。

ソフトクリームを食べたことのある人は多いと思います。

買ったばかりの最初の一口は美味しいですよね。

何らかの事情で時間が経って溶けて液体状になってしまったソフトクリームを食べたことのある人も結構多いと思います。

このときの味はどうでしょうか?

きっと、買ったばかりの一口目に比べれば、美味しくないと感じる人が多いでしょう。

このとき「美味しくない」と感じる理由は何かと言えば、理由は「甘すぎる」のです。

当たり前ですが、このときソフトクリームの味付け自体に変化があるわけではありません。

単に我々の味の感じ方の問題です。

料理を作るとき、どのような温度で食べられるかということを考えた上で味付けを考えなければいけません。

温度による味の変化

まず、基本的なこととして、だいたい5度以下になると、どの味も感じ方が弱くなります。

では、温度が高ければ味を感じやすくなるかと言えば、そうではありません。

沸点近くになると、また味の感じ方も弱くなります。

では、人肌ぐらいの温度が一番感じやすいのかと言えば、全部がそういうわけではありません。

基本の五味(甘味・酸味・辛味・苦味・鹹味)に出汁の味、旨味を加えた6種の味ごとに、温度の関係について考察したいと思います。

甘味

甘味は体温付近の温度が一番強く感じます。 

この体温付近の甘味は、重たく甘ったるい感じ方をします。

日本料理では、甘ったるいような甘味が好まれることは少ないです。

常温で食べる料理には甘味を控えた味付けをするべきです。

酸味

酸味は温度の変化と味の感じ方は、あまり差が無いように思います。

飲み物ですが、ホットレモンなどの例を考えればわかるように、温かいものであっても、十分に酸味を感じます。

ただ、酸味の代表的な調味料である「酢」は加熱すると蒸発して気化するので、食べるときに喉や鼻腔、舌といった粘膜に直接刺激が刺さってくるので注意が必要です。

辛味

辛味も温度が高いと蒸発して気化することが多いです。

酢と同じように、粘膜に直接刺激が刺さってきます。

粉辛子をお湯で練ってたら涙が止まらなくなるという経験は、調理場で働いている人の多くがしたことのあるのでは無いでしょうか。

温かい料理には注意が必要です。

苦味

日本料理で苦味の強い食材と言えば、フキノトウなどの山菜類やゴボウのような一部の根菜類でしょうか。

揚げたての天ぷらと、時間が経って冷めた天ぷらを食べ比べてみたときのことを考えれば簡単にわかります。

これは温かいものは感じにくく、冷たければシッカリと感じます。

強すぎる苦味は好まれないことが多いので、冷たい料理に苦味のある食材を使う場合は、苦味の原因であるアクをシッカリと抜くか、酸味や甘味と組み合わせて調理するという工夫が必要です。

鹹味

鹹味(かんみ)とは塩味のことです。

塩味と温度の関係は、調理場で働く皆さんは一年目の頃から口を酸っぱくして言われているのでは無いでしょうか。

日本料理では一番大事と言っても過言ではない「お椀の吸い地」のことです。

同じ濃さの塩分でも、温度が高ければあまり感じにくくマイルドな印象になります。

逆に温度が低い料理ではシッカリと感じるようになります。

醤油や味噌の味も鹹味(かんみ)のうちの一種です。

日本料理では一番大事な味のうちの一つでは無いでしょうか。

提供するときの温度は気を遣いたいところです。

旨味

旨味は温度による味の変化が一番少ないのでは無いでしょうか。

お椀の熱々の出汁を口に入れたとき、一番最初に感じるのは旨味です。

お椀の吸い地の味付けで注意をしたいのが、お客様が料理を食べている間に温度が変化していくということです。

料理を食べに行って、お椀の最初は美味しい状態だったのに、最後のほうになれば濃く感じるという経験をしたことは無いでしょうか。

温度を捉えるというのは本当に難しいことです。

気温による味の変化

当然ですが、夏と冬では好まれる料理も変わってきます。

真夏に熱々のおでんを食べたい人は少数派でしょう。

お椀の吸い地の味付けに関して、よく言われているのが「夏は塩がち。冬は醤油がち。」ということです。

料理そのものでは無く、好まれる「味付け」にも季節によって違うのか考えてみたいと思います。

夏は汗をかき、体内の塩分濃度が下がります。

冬に比べて塩味のやや濃いものが好まれるようです。

また、酸味の強いものが爽やかで良いと感じることが多い傾向にあります。

夏は鱧を梅肉で食べると最高ですね。

また毎年、夏になれば激辛ブームが来るように、辛味も夏には好まれるように思います。

和食で激辛はあまりありませんが、気温の上がってくる5月ごろには辛子酢味噌和えなどがよく使われます。

まとめ

和食の味は比較的繊細なものが多いです。

調味料や出汁の味だけでなく、微妙な温度の変化、気温の関係なども味の感じ方に大きく影響を与えます。

季節の献立の変化を、気温と味の関係という視点で見直してみれば新たな発見があるのでは無いでしょうか。

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