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読むだけで和食が上手くなるnote 「炊く」編

「炊く」とは最も重要な調理の技法

「炊く」という調理方法は、日本料理の中でも最も重要な調理方法でないかと思います。

「焚き合わせ」はもちろんですが、広義で考えれば、出汁を引くことも、ほうれん草のお浸し、鴨ロース、ご飯を炊くことも、全部「炊く」ことです。

色々な「炊く」

味付けした"地"を使って調理すること、これが「炊く」ということです。

地の温度の上限値は水の沸点である100℃、下限値は融点である0℃です。

この間の温度をコントロールすることで、様々な「炊く」があります。

0℃近くから20℃というのは、実際にはほとんど使うことは無いのですが、あくまで理論上の話です。

温度帯によって「炊く」の性質も変わってきます。

100℃近くで沸騰した地で炊くことを「グツグツ」と表現することがあります。

沸点近くで炊くと、素材の変質が激しくなり、長時間グツグツ煮込むと煮崩れを起こします。

表面だけ火を通して、中心部には火を入れたく無い場合は、この温度帯で数秒から1〜2分でサッと炊くという方法が用いられます。

他に長時間炊くときに使う擬音語は「コトコト」でしょうか。

大体、温度帯でいうと80℃から95℃ぐらいです。

この温度帯だと、長時間煮ても型崩れしにくく、素材の中まで火は入ります。

さらに、ここ最近注目を浴びているのが60℃から70℃ぐらいの温度帯です。

この温度帯だと、素材に火を通すことは十分出来ます。

しかし、素材の変質は少なくて済む。

日本料理でも、鴨のロースなんかで昔から使われていた温度帯です。

いわゆる"低温調理"などと言われている方法で、料理を柔らかいまま味付けすることが出来ます。

含め煮のような炊き方も、この温度帯をキープする感覚ですね。

煮物・焚き物は冷ます過程で味が入る

煮炊き物は冷める過程で味が入るというのは、よく言われています。

料理の世界で働いている人からすれば常識かもしれません。

家庭で作ったカレーもおでんも作った初日よりも、2日目のほうが味が入って美味しいと思います。

「炊く」ことに限らず、素材を加熱するということは、「内部の水分を流出させる」ということです。

「炊く」場合は味付けをした液体の中で加熱しています。

素材の内部の水分は一度抜けたあとに、浸透圧で周りの水分を吸収していきます。

しかし、火にかかっている状態だと、周りの水分が対流しており、素材の内部まで入っていき辛い状態です。

火を止めると対流が無くなり、周りの調味した地が素材の内部まで入っていきます。

この味付けした地を吸収した状態が、冷ます過程で味が入るという状態の正確な意味です。

煮方は段取りが生命線

「料理上手な人は段取り上手」という言葉がありますが、煮方のポジションほど、この言葉が当てはまることは無いのではと思います。

テンションと集中力を上げて身体を早く動かすことは出来ます。

切ったり盛り付けたり、という仕事は「急げ!」と言われて急ぐ事が出来ます。

慣れてくれば仕事のスピードを上げることも可能です。

しかし、どれだけ集中力を高めても、どれだけ経験値を貯めても、素材の火の入り具合、味の入り具合を早めることは出来ないのです。

「火」と「素材」と「時間」、この3つを上手く組み立て、コントロールして行かなければいけません。

「炊く」とは加熱と味付けを同時行う

「炊く」とは加熱と味付けを同時に行う調理方法です。

「炊く」という仕事が最も重要であると言ったポイントはココにあります。

今まで書いてきた「切る」「蒸す」「揚げる」「焼く」は味付けとは関係ありませんでした。

「塩焼き」とか「タレ焼き」なんかはありますが、それは塩味だったり、タレの味だったりを焼くことによって定着させているだけで、「焼く」こと自体が味付けをしているのではありません。

タレの味であったり、塩の振り加減が味付け左右する部分であって、「焼く」ことと味付けは何の関係もありません。

しかし、「炊く」だけは加熱技法あると同時に味付けの技法なのです。

これが煮炊きものを難しいと感じる要因です。

煮炊きものをするポジションの人を「煮方」と言いますが、「煮方」が大将や料理長の次のポジションというパターンのお店が多いのではないでしょうか。

それだけ経験値が必要な仕事だと思います。

自分の仕事の本質と向き合うこと

先程は、炊くとは加熱と味付けとを同時に行うと書きました。

しかし、もちろん、一旦材料を茹でたり蒸したりして、火を通した後で炊いたり、また"揚げ浸し"のような味付けと加熱を、ほとんど別々に行う炊き方もあります。

また、味付けをほとんどしてない出汁で炊く、というパターンもあります。

当たり前と言えば当たり前なんですが、一体何をする為に炊いているのかということを考えることが大事です。

今は火を通す工程なのか、火を通し終わったものを味付けしているのか、それとも同時に進行しているのか、それをわかって、本質を捉えておく事が大事です。

ただ単に教えてもらった通りにやるだけでは何の意味もありません。

教えてもらったことは完璧に出来るけど、応用力が0では意味が無いのです。

世界は必ず変わっていく

例えば、食材ひとつでも、どんどん新しいものが市場に出回ってきています。

我々が望もうと望むまいと、世の中はどんどん進歩していきます。

我々はそれに対応出来るように、日々自分をアップデートして行かなければなりません。

未知の食材に遭遇したとき、それらの本質をきちんと捉えてどのように、炊くのが正解なのか、自分で考えて正解が出せることがこれからの料理人に求めらる能力だと思います。


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