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お椀の具材に関しての考察

前回に引き続き、今回もお椀について考えてみた事をまとめていきたい思います。


出汁を活かすための椀種

今回は椀種について考えて行こうと思います。


「煮物椀とは具をメインにした吸い物」であるという風に思われている方もいるかもしれません。

確かに、普通の吸い物よりも大きな具を使うの事が多いです。

しかし、具をメインと言われたら少し違和感があります。

やはり、煮物椀は何よりも出汁の美味しさを味わうものでないかと思います。

100店の日本料理店があれば100通りの味があるのがお椀の吸い地でないかと思います。

それぐらい皆がこだわりを持って仕事をしているものです。

よって、椀種も出汁の持ち味を活かすものが良いということになります。

椀種には魚ならば、昔からタイやアブラメ、ハモ等の白身が使われる事が多いです。

新鮮な白身の魚は淡白で生臭みが少なく、澄まし仕立ての出汁との相性が良いでしょう。

やはり、昔からある仕事というのは、理論的にも素晴らしいものが多いです。

椀種について

真薯(しんじょ)

白身の魚をそのまま使うのではなく、魚をすり身にして、真薯にしたものも多用されます。

これは椀種が大きすぎると、お椀を傾けたときに飲みにくくなってしまうので、素材の大きさを調整して、適切なサイズにするという工夫の一つです。

いくら真薯にすると言ってもカマボコのように硬いと出汁との相性は悪くなってしまいます。

出汁の中で、箸ですっと割れるぐらいの硬さにする事が大事なポイントです。

真薯に限ったことではありませんが、出来るだけ出汁の食感に近づけるのが伝統的な椀種の考え方になっています。

葛たたき

白身の魚を使うときは、表面に葛を打って湯で火入れする「葛たたき」という手法が一般的です。

「葛たたき」と言っても、本葛じゃなくて片栗粉で代用する店もありますが、考え方の基本は同じと思います。

この「葛たたき」をすると、ツルッとした滑らかな食感が生まれます。

また、単に湯で火入れしただけよりも、素材の味を封じ込めることが出来ます。

素材の旨味を閉じ込めると共に、出汁に素材の味が移るのを防ぐ、非常に理に適った調理方法です。

肉類・青魚・川魚

肉類や青魚・川魚なんかはクセが強く、椀種として使う店は少ないかもしれません。

しかし、サバを使った船場汁や、豚肉を使った沢煮椀など、郷土料理などでは汁物によく使われる素材であり、研究してみるのも面白いと思います。

やはりポイントは、いかにクセを消して旨味を引き出すか、食感を出汁に近づけるということでないでしょうか。

挽き肉にして団子にして、味噌仕立てなんかだと合いそうです。

野菜類

野菜がメインのお椀もなかなか難しいですね。

ある程度の値段のお店だと、ちょっと迫力に欠けてしまうからでしょうか。

魚や肉類の動物性のタンパク質や脂分、アミノ酸的な旨味が少ないので、何かひと工夫しなければなりません。

野菜類をメインとして椀種に使うときは、煮含めたり炒めたりして油分をプラスさせたり、そういうことが考えられるでしょう。

吸い口について考える

「吸い口」とはお椀に入れる香りのもののことです。
木の芽や柚子、茗荷やすだち、生姜などが多く使われます。

季節感。香り。味のバランスの調整。盛り付けの色合い。食欲増進。などの効果があります。

季節の移り変わりを表現するのに大変便利で、同じ柚子でも、夏は青柚子、冬は黄柚子と使い分けることだけで、季節を表現することが出来ます。

こういう食材は大変重宝いたします。

他には冬場の薄葛仕立てのお椀なんかだと、生姜の絞り汁を数滴で料理の格式が凄く上がります。

蛤の潮仕立てのお椀には黒胡椒の相性がとてもいいです。

煮物椀という料理を考えたとき、お椀の蓋を開けたときの、フワっと立ち込める香りが楽しみの一つです。

この香りは吸い口の香りになります。

ほんの少しのものですが、一皿の中で大きな存在感を持ちます。

あしらいについて考える

「あしらい」は「椀妻(わんづま)」とも言います。


あしらいには主に野菜を使うことが多いです。

既に述べましたが、椀種には魚介類やその真薯を使うことが多いので、そのバランスを考えてのことでしょう。

春先には若布のような海藻類を使ったり、秋口にはキノコ類を使うこともよく見られます。

色どりを表現する為に、菜の花やほうれん草、三度豆といった緑のもの。

人参の赤なんかが定番です。

これはお椀に限ったことでは無いですが、料理の色彩というのは、緑と赤が鍵を握っていることが多いです。

最近では、お椀のあしらいにトマトを使う店もあります。

トマトは旨味成分であるグルタミン酸が多く含まれており、鰹節のイノシン酸と相性が良いようですね。

色彩的にも綺麗な赤色で、多くの人に馴染みが深い。

日本料理では珍しいですが工夫次第では大きな可能性のある食材だと思います。

まとめ

お椀の具材に決まったルールというのはありません。

しかし、根本的には、出汁との相性、季節感が基本となります。

お椀というのは日本料理のコースのメインの一つになります。

以前に先付はやや走り気味が良いのではと述べましたが、煮物椀に関しては、やはり季節を大事に旬のものを使うのが良いと私は思います。

先付に関しての記事も合わせ読んで頂ければ嬉しいです。



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