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論文の考察を書くときのポイント

これまで,いくつか(特に心理学の)論文を書くときに気をつけたほうがよいことを記事にしてきました。

たとえば,『良いリサーチクエスチョンを立てるためには』では,研究をしていく上で欠かせない「問い」を立てるときのコツについて紹介しています。

また『よい仮説を立てるコツ』では,研究結果を得る前に立てられる仮説を立てるときのコツを紹介しました。

今回は,これまた論文を書くときに欠かせないにもかかわらず,初めて論文を書くときにはどうしたらよいのかがわからなくなってしまいがちな,「考察を書くときのコツ」について考えてみたいと思います。

参考文献はアメリカ心理学会の記事『Discussing your findings』です。この記事を参照しながら,これまでの経験を踏まえてまとめてみたいと思います。

考察は謎解き

探偵が出てくるストーリーで,最後に犯人たちを前に探偵が「皆さん,今回の事件は……」と話し出す場面がありますよね。名探偵ポワロや金田一少年やコナン君(たいてい毛利小五郎が謎解きするかたちになりますが)……。

論文の中で考察のセクションというのは,あの場面と同じです。

◎最初に論文の目的と結果をふりかえります
 →「皆さん,今回の事件は……」
◎次に,得られた結果を踏まえながら解釈していきます
 →「こういう証拠が残っていました。それは犯人のこの行動の結果です!」
◎結果の全体像から考えられることを述べます
 →「今回の事件の全体像はこういうことです」
◎研究の限界を述べます
 →「私にも,まだ分かっていないところがあります」(小説ならこの前に解決してしまうところですが研究は「次につづく」ですので…)
◎今後の課題を述べます
 →「あとはこの証拠があれば,この人が犯人だということがはっきりします」(まさに「つづく」です)

どうでしょう。まさに探偵の謎解きのパートです。

結果は結果のセクションに書こう

考察というのは,研究の中で得られた結果を解釈していく試みです。ですので,考察の最初には,何が目的でどのような結果が得られたのかを簡単に要約して示す,ということをよく行います。

最初に示されるのはあくまでも「要約」であって,結果の繰り返しではありません。細かい結果は,結果のパートに書けばよいのです。これから考察で展開していく,謎解きの材料を最初に示すというイメージで,この部分を考えておくとよいのではないでしょうか。

考察に新しい分析結果が登場してしまうという論文もたまにあります。考察を重ねていくうちに,「今回のデータからこの分析をすれば考察が成立する」ということが発生する可能性があるからです。追加の分析も悪いわけではありませんが,謎解きをしながら追加で捜査をする探偵というのもなんだかかっこ悪いもので……。やはり,結果はきちんと結果のセクションに収めておきたいところです。

問いに対応させる

考察は,序論(問題と目的のセクション)に書いた内容に対応させて考えていくと,書きやすくなります。何の事件が起きて,どう解決するのかが問題なのですから,途中で別の事件の話をするのもおかしな話です。

論文では最初に問いが立てられていて,その問いを解決するために方法を考えて,その方法に基づいて結果を得ていきます。ですので考察部分では,得られた結果をまた最初の問いと対応させて,そこから結果の意味を考えていくのがよいだろうと思います。

関連を因果関係にしない

学生の皆さんだけでなく研究者でも,考察をするときによくやってしまうパターンの一つは,関連しか示されていないのにそれを因果関係であるかのように論じてしまうことです。

たとえば,自尊感情と不安傾向との間に負の関連が示されたときに,「自尊感情の高まりが不安を抑制する」「不安の高まりが自尊感情を抑制する」と,あたかも因果関係があるかのように論じてしまうことが,関連を因果関係として解釈してしまうという問題です。実際には,研究の中でそこに因果関係があることはまったく示されていません。相関関係があることは,因果関係の証拠とは限りません。

ただし,関連だけが示されているのにそれを因果関係があるかのように論じることが絶対にダメ,というわけでもありません。明らかに因果関係があると想定されるとか,これまでの研究で因果関係が明らかにされているとか,何かしらの理論が背景にあるとか,因果関係がもっともらしいとか,いろいろなケースがあります。

ひとつひとつよりも絞ったり全体を見渡したりする

これも,論文をあまり書いたことがない学生の皆さんがやりがちなことです。それは,結果をとにかく一から十まですべてとりあげて,ひとつひとつについて考察していくという考察の書き方です。

この関連はこういう理由,こっちの関連はそういう理由,さらにこっちの関連はこう考えられる……と,もれなく考察していくことも大切ですし,そうしたくなる気持ちは分からなくはありません。でも結果的に,何が重要で,全体的に何が言えるのかがわからなくなってしまいます。今回の研究を全体的につなぐメカニズムや理論は何?ということです。ですので,「ここが重要だ」ということをはっきりさせるような考察を心がけたいところです。

言いすぎに注意

心理学では統計的に結果を示します。そこでは,とても小さな関連が報告されることもあります。それを「AとBに相関が見られた。だから関連があるのだ」と言い切ってしまうことには,ちょっと注意が必要です。

今回手にした関連はたまたま今回のサンプルで得られたものであって,もう一度調査をしたら見られなくなるかもしれません。それが小さな関連であれば,なおさらです。強く解釈することは別にダメなことではないのですが,他の可能性にも目を配るような考察を心がけたいところです。また,小さな関連がなぜ重要なのかについては,考えておきたいところです。

先行研究を見ないで考察しない

これまたよく見かける考察の書き方です。考察を書いているのですが,その中で引用文献がまったく出てこないのです。

そういう考察の書き方は,結果を見て,そこから自分で想像して書いているだけ?と思わされます。何かの理論に基づいてリサーチクエスチョンや仮説を立てて,それを解決するために方法を考えてデータを分析して結果を報告しているのですから,考察でも先行研究を引用しながら,説得力のある解釈をしていきたいものです。

反省すべきか

考察のセクションに欠かせないのが,今回の研究の限界を示すことです。必要十分な調査が行われなかったこととか,もっと別の変数を入れるべき点があるとか,いろいろな反省点を述べるところです。

ただしこれも書きすぎると「もっとちゃんと計画してから研究しなよ」と言いたくなってしまいます。「もっと男性のデータも得るべきだった」と書いてあると,「どうしてもう少し調査を頑張れなかったの?」なんて。

また,「それは今回の研究でもできるでしょう」ということを反省点に書いてしまう考察のケースもあります。たとえば「男女別に分析すべきだ」といったことを今回の研究の反省点に書くような場合です。それだと「いや,今回のデータでもその分析はできるでしょう」という反応が返ってきても致し方ありません。

未来に目を向ける

できれば考察の中で,結果を解釈することでさらに次の研究へとつながる展望を描きたいものです。研究は1つで終わるわけではなく,ずっと「つづく」のです。何度も事件が発生する,シリーズものの探偵物語のようなものです。

「今回の結果からはこういうことが言える」と考えることは,新たな仮説を立てる宣言だとも言えます。そして,次に立てられる仮説を確かめるためには,さらに実験や調査が必要になっていくものです。そこで「将来はこういう実験や調査をするべきだ」という形で,将来に目を向けた展望を描いていくというわけです。

そこで書かれた展望は自分自身で行っていくこともありますが,他の誰かが引き継いで検討していくこともありますし,そのまま永久に止まってしまうこともあります。残念ながら,あまり人気がなかったのでこの謎解きシリーズは終了,ということもたくさんあるのです。こうして,研究というものは,ネットワーク状に広まったり広がりが止まったり,何十年も経ってから突然またシリーズが始まったりしていくというわけです。

とにかく書いてみる

考察を書くという経験は,論文を書く中でしかできないものです。ところが,卒論などで初めて考察を書くのは,そんなに簡単なことではありません。フォーマットが決まっているわけでもありませんし,今回の記事の内容を見ても分かるように,明確に「これだけを書いておけばOK」という形にはならないからです。

うまくなるには経験あるのみです。試行錯誤しながら,よい考察を書いていってもらいたいなと思います。

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