前田圭介

東京で社会科教員をしつつ、「知窓学舎」の運営にも携わっています。 新刊『思考実験入門』が出ます!http://amazon.co.jp/dp/4065357411

前田圭介

東京で社会科教員をしつつ、「知窓学舎」の運営にも携わっています。 新刊『思考実験入門』が出ます!http://amazon.co.jp/dp/4065357411

最近の記事

思考実験の可能性

『思考実験入門』が出版されてから1ヶ月以上が経ちました。多くの方に手に取っていただき、ありがたい限りです。 先日、現代文の担当教員からの依頼を受け、定期試験用に「はじめに」の増補改訂版を作成しましたので、以下にその文章を掲載します。 中高生にもぜひじっくり読んでもらいたいと思います。 「トロッコ問題」という思考実験を聞いたことがあるでしょうか。ご存じの人も多いと思いますが、まずはどのような思考実験なのか確認しましょう。 あなたは、線路の切り替えレバーのポイントに立っています

    • 新著『思考実験入門』を出版します!

      5月22日、星海社より新著『思考実験入門』を出版することになりました。 30代に入り、教員のキャリアも9年目となり、各高校で色んな科目の授業を一通り担当し、さて次はどうしようかと思っていたところ、こちらの本の執筆の話をいただきました。 思考実験というテーマは類書もたくさんありますが、今回は以下の2点を意識して書いてみました。 ①中高生が考えたり議論したりするためのヒントを提供する 公共や倫理の授業で、思考実験が取り上げられることがあります(「トロッコ問題」などはその典型で

      • 中学入試、2024年の社会の問題はこれだ!

        2月に入りました。今年も中学入試の社会で興味深い問題が多数出題されましたので、簡単にまとめたいと思います。 個人的には、開成と筑駒が共に生成AIを意識した問題を出していたのが驚きでした。「入試問題は学校から受験生へのラブレター」とはよく言ったものですが、入試を通して少しでも多くの受験生が社会に対する見方を広げてくれると良いなと一教員として願っています。 ①開成 ~ 生成AIの回答をそのまま問題に ご当地問題が出ていたのも今は昔、近年の開成の社会は易しくなりました。今年も比

        • 3学期の地理は言語学オリンピックから

          3学期の地理総合の授業は、人種・民族・言語の単元から入ります。初回授業で何をするか迷いましたが、言語学オリンピックの問題を解いてもらうことにしました。 言語学オリンピックはQuizKnockの動画で初めて見て、存在を知っていた程度でした。 今回の授業準備にあたって改めて調べてみたところ、謎解きのように問題を解くことができ、面白い大会だなと感じました。去年出た『パズルで解く世界の言語』も様々なレベルの問題が収録されており、言語学オリンピックの面白さを存分に味わえる本です。 2

          2023年読書記録

          2024年になりました。本年もどうぞよろしくお願いします。 すっかり記事の更新が滞ってしまいましたが、今年は学びの記録も記事などの形で蓄積していきたいです。 記憶が新しいうちに、昨年読んだ本・読み切れなかった本を振り返っておきたいと思います。 ①倫理 昨年は、思想系の本に触れる機会が少なかったのが残念です。その中でも、『暇と退屈の倫理学』『野の医者は笑う』『謝罪論』はいずれも読み応えがあり面白かったです。 『暇と退屈の倫理学』は、『スマホ時代の哲学』とセットで読んだことで色

          2023年読書記録

          公民科教育における「他者論」

          今年度は2年ぶりに倫理の授業を担当していますが、授業を組み立てるうえで参考にしている本の一つが戸谷洋志『Jポップで考える哲学』です。 この本の面白い点は、Jポップの歌詞分析という切り口もさることながら、「自分」「恋愛」「時間」「死」「人生」という5つのテーマを取り上げたうえで、第二章「恋愛」の最後で他者の他者性に言及している点です。 高校の倫理の教科書では、「私とは誰か」といった自己に関する問いや思想は様々なものが取り上げられていますが、「他者とは誰か」「他者を理解するとは

          公民科教育における「他者論」

          科目を横断する ~ 現代文と倫理のコラボ授業

          伊藤亜紗さんの『手の倫理』に関連して、以前このような記事を書きましたが、3学期の授業で高校の現代文とコラボする授業実践を行いました。 経緯としては、2学期末に私の方から現代文の先生にコラボを提案したうえで、高2現代文の3学期の題材を倫理の観点からも考察しやすいものに寄せていただいたという感じです。私が昨年度(高1の時に)倫理を担当した顔見知りの生徒が多かったため、コラボしやすかったという事情もあります。 そんな訳で、現代文の先生に選んでいただいた題材が大江健三郎の『他人の足

          科目を横断する ~ 現代文と倫理のコラボ授業

          2020年読書記録 ~ 組み合わせブックレビュー

          2020年も残り僅かとなりました。今年の振り返りを兼ねて、今年読んだ本(主に今年出版された本)から組み合わせでお薦めしたい本をピックアップしたいと思います。 ※紀伊國屋じんぶん大賞のベスト30も先日発表されましたね。かなりシブい本もランクインしているな、と感じました。 【読んだ本シリーズ】 ①『現代経済学の直観的方法』×『世界は贈与でできている』 資本主義の限界を指摘する本は枚挙に暇がありませんが、特に今年は資本主義経済を考え直すための本が多かった印象です。 『現代経済学の

          2020年読書記録 ~ 組み合わせブックレビュー

          2学期の振り返り ~ オンラインの普段使いを目指して

          中3公民の2学期の授業と定期試験が終わりました。備忘録も兼ねて、2学期に取り組んだ内容などをまとめておこうと思います。 ◎授業方法 1学期は分散登校でしたが、2学期は全員登校での授業となりました。最初は40分授業で、10月中旬から50分の完全授業に戻った形です。 1学期に使ったオンラインツールをどう組み入れるかが悩ましかったのですが、10分程度のまとめ&補足動画を2~3週間おきに一本アップする(視聴任意)という形で対面授業とのハイブリッドを行うことにしました。「事前に予習動

          2学期の振り返り ~ オンラインの普段使いを目指して

          現代文・倫理・体育を越境する

          今月発売された伊藤亜沙さんの新著『手の倫理』が非常に面白く、一気読みしてしまいました。 「さわる」と「ふれる」の違いから始まり、「まなざしの倫理」とは異なる「手の倫理」の可能性を論じている本ですが、議論の射程は幅広く、ケア論・身体論・コミュニケーション論の入門とにもなりうる本だと思います。「触れること」が難しくなっているご時世だからこそ、じっくり読んで周りの人と感想を語ってみたくなる一冊です。 さて、この本の第1章は「ほんとうの体育」という話から始まっており、そこでは「体育

          現代文・倫理・体育を越境する

          教育社会学の知を活かす

          先月から、教育社会学の教職テキストを作るためのオンライン編集会議に参加させていただいています。(日曜の回しか参加できていませんが…) 『よくわかる教育社会学』『半径5メートルからの教育社会学』など、教育社会学の教科書は既に多数出版されていますが、このテキストは「現場の教員や教職志望者に読んでもらう」ことを念頭に置いた画期的な教科書になる気がしています。 何よりすごいのが、このテキストの編集会議がオンラインで参加可能なこと。私のような中高教員はもちろん、大学で教職科目を担当さ

          教育社会学の知を活かす

          授業の振り返りに何を使うか

          2学期の授業が本格的に始まりました。 2学期は全員登校での授業となり、久々に30人以上を相手に一斉授業をしています。内容としては、第二次世界大戦を経て戦後の国際政治史に入っていきます。やはり1学期の分散授業の時とは疲れ方も違いますね。 ただ、「対面授業の方が頭に入ってきやすい」「パソコンとにらめっこするよりもずっと楽しい」といった生徒からのフィードバックが多く、引き続き頑張ろうという気持ちになれます。 さて、1学期と勝手が違うのが、オンラインのツールをどのように使うかという

          授業の振り返りに何を使うか

          思想家はいかなる時代を生きたのか

          「思想史を教える・学ぶ」って難しいよなぁ、という備忘録的な話です。 先月、とある学校の教員採用選考を受けました。当然模擬授業もあったのですが、何とそのテーマが「環境倫理」。環境倫理は今まで回避してきたテーマだったので(上手く題材を選んでコーディネートしないと「地球に優しくしましょう」みたいなお仕着せの授業で終わってしまいかねない)、覚悟を決めてこの機会に少し勉強してることにしました。 その過程で知ったのが、ハンス・ヨナス(1903~93)という思想家の「未来倫理」という考え

          思想家はいかなる時代を生きたのか

          1学期の振り返り ~ 対面とオンラインの併用は理想的か

          中3公民の1学期の授業が昨日で終わりました。備忘録も兼ねて、この1学期の間に取り組んだことや考えたことなどをまとめようと思います。 ◎授業方法 6月中旬から分散登校(35分の短縮授業)が始まりましたが、最終的にオンデマンド授業を13回分作りました。オンライン授業を行うためのLMSの使い勝手の悪さにイラつくこともありましたが、何だかんだ環境には恵まれていたと思います。「Zoomを使って対面とオンラインを同時にやってもいい」と言われましたが、さすがに回せる自信がなかったので、オ

          1学期の振り返り ~ 対面とオンラインの併用は理想的か

          オンライン授業の「良さ」の発見

          勤務校のオンライン授業が始まってから4週目に突入。毎回10分の動画を3本ずつアップしていますが、ようやく感覚が掴めてきました。しかし、限られた時間で要点をコンパクトにまとめて解説するのはなかなか難しいもので、まるでゲームの最速クリア(RTA)をやっている気分になります。 今年度の担当は中3公民ですが、昨年度の歴史の積み残しがあるため、主権国家体制の成立から国民国家の誕生を経て日清・日露戦争に繋げる、という若干アクロバティックな授業構成で進めています。戦争史・国際政治史・明治史

          オンライン授業の「良さ」の発見

          オンライン授業を「頑張りすぎない」

          先週から勤務校の新年度が始まり、オンライン授業も本格的に始まりました(1学期は全てオンライン授業になります)。今年度は中3公民の担当ですが、授業はオンデマンドで実施し、アンケートを通じて生徒からの質問を受ける形にしています。ようやく授業動画の録画にも慣れてきました… 初回のイントロダクションでは、公民の授業には「社会の見方を知り、我々の思い込み(バイアス)に気付く」という目的があることを話しました。思い込みについて考えるために取り組んでもらったのが、以下の1円玉のワークです

          オンライン授業を「頑張りすぎない」