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2020年読書記録 ~ 組み合わせブックレビュー

2020年も残り僅かとなりました。今年の振り返りを兼ねて、今年読んだ本(主に今年出版された本)から組み合わせでお薦めしたい本をピックアップしたいと思います。
※紀伊國屋じんぶん大賞のベスト30も先日発表されましたね。かなりシブい本もランクインしているな、と感じました。

【読んだ本シリーズ】
①『現代経済学の直観的方法』×『世界は贈与でできている』
資本主義の限界を指摘する本は枚挙に暇がありませんが、特に今年は資本主義経済を考え直すための本が多かった印象です。
『現代経済学の直観的方法』は、独自の喩えを使いながら資本主義の原理とその歴史的経緯を明快に解説している良書です。『世界は贈与でできている』は、SF作品など様々な事例を引き合いに出しながら「交換」と異なる論理としての「贈与」の可能性を提示しています。『人新世の「資本論」』のような資本主義への根本的な批判も重要だと思いますが、今回の2冊はそれとはまた異なるアプローチでこの世界をより豊かに生きるためのヒントを与えてくれます。

②『〈責任〉の生成』×『手の倫理』
今年の自分の中での大きなテーマは「自己責任」でした(オンライン授業で課題を提出しない生徒は自己責任なのか?みたいなことも考えたりしました)。自主ゼミでも何回かにわたって責任論を扱い、その準備のために何冊か本も読みました。
『〈責任〉の生成』は、國分さんの中動態研究と熊谷さんの当事者研究が重なる中で「責任」の問題が炙り出されていく、というエキサイティングな本です。『手の倫理』は、「まなざしの倫理」とは異なる「手の倫理」の可能性を論じている本で、ケア論・身体論・コミュニケーション論など様々な領域に通じる問題を提起しています。
今回の2冊以外に『居るのはつらいよ』『急に具合が悪くなる』『増補 責任という虚構』『自己責任の時代』などもザッと読んだのですが、読み進めていくうちに各々の本の繋がりや自分の中の問題意識が明瞭になっていく感じが面白かったです。

③『人工知能に未来を託せますか?』×『あいまいな会話はなぜ成立するのか』
第3次AIブームもやや峠を越えた感がありますが、まだまだAIという言葉だけが一人歩きしている場面は多いと思います。
『人工知能に未来を託せますか?』は、「そもそも知能とは何か」という点から解きほぐしつつ「シンギュラリティの到来」「仕事がなくなる」論に対して冷静な視座を提供してくれる本です。『あいまいな会話はなぜ成立するのか』は、日常会話における遠回しな表現や意図の推測について哲学・言語学・心理学のアプローチから迫っている本です。この2冊を読むと、人間が何気なく行っている発話や動作の奥深さに改めて気付かされます。
その他、AIの責任について考察するうえでは『AIの時代と法』『ロボットからの倫理学入門』が良書でした。

④『グローバル時代のアメリカ』×『メディアが動かすアメリカ』
今年はアメリカ大統領選で揺れた年でもありました。新書でも『白人ナショナリズム』『アメリカの政党政治』『アメリカ大統領選』など良書が相次いで出版されましたが、今回はこの2冊を挙げたいと思います。
『グローバル時代のアメリカ』は全4巻のシリーズで、この第4巻は1970年代からトランプ政権までの政治的動向を解説しています。現代アメリカ政治の混迷を見通すための必読本といえるのではないでしょうか。『メディアが動かすアメリカ』は、テレビを中心としたメディアと政治の共犯関係に焦点を当てています。フェイクニュースの問題が取り沙汰される今だからこそ、じっくり腰を据えて読みたい本です。

⑤『100分de名著 ディスタンクシオン』×『質的社会調査の方法』
最後は少し変わり種を。
今月の100分de名著では、初めて社会学の本が取り上げられました。テキストはブルデュー『ディスタンクシオン』、解説は岸政彦先生です。
社会学を学び始めた人(学生時代の自分も含む)が「あー、ブルデューの文化資本の話ね」と知ったかぶりをするのはあるあるですが、今回のテキストはブルデュー入門書としても社会学の入門書としても最適だと思います。さらに社会学に関心を持った人にお薦めしたいのが、『質的社会調査の方法』です。社会学系の学部生はもちろん、探究学習に取り組む中高生にも薦めたい一冊です。
岸先生の『マンゴーと手榴弾』も味わい深い本ですが、なかなか難しく消化できた自信がないので、いずれこの本を再読しながら他の人とああでもないこうでもないと議論したいなと思っています。

【積ん読シリーズ】

⑥『リベラルとは何か』×『アフター・リベラル』
リベラルに関する本も、ここ最近よく見かけるようになりました。今年はこの2冊が良さそうだと思って買うだけ買ったので、年明けにでもじっくり読みたいと思います。この他、『左翼の逆襲』なども要チェックですね。

⑦『大学入試がわかる本』×『変動する大学入試』
いよいよ今年度から大学入学共通テストが施行されます。昨年11月に英語民間試験利用の延期が決まったのが懐かしいですね。
次年度は大学受験がある学校で教鞭を執るので、そろそろ大学入試の動向もきちんと勉強し直さないとなぁと思っています。

来年はどんな年になるのでしょうか。
不安も大きいですが、ささやかな期待を持ちつつ新年を迎えたいと思います。



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