われは、幻のわんこそば
そりゃないだろ!
「わんこそば」の巻
今でも蕎麦を目にすると思い出す。
あの、断食のあとの胸焼け感。
あの、テレビ放送。
わんこそばチャンピオンをスタジオに招き、どんだけ〜、みたいなʘ‿ʘ
昨今のように、大食い番組が市民権を得る前のこと。
大食いチャンピオン
だったか、
早食いチャンピオン
だったかは定かではない。
ゲストとして、お笑い芸人Aが参戦。
一緒に食べて、ギブアップして、
チャンピオンの凄さを見せつける、というよくある企画。
「それでは、さっそく、わんこそばチャンピオンの凄さをご覧いただきましょう!」
台本の棒読み、右手を大きく振り上げてのオーバーアクション。
少し体温が下がり、ここから、歯車が狂いはじめた。
わんこ蕎麦が、ドバーッと出て来る映像を思い浮かべ、身を乗り出し構えて待った。
★≪脳裏の映像≫
小さな器が山積みされたトレーを先頭に、昭和初期の衣装?で身を固めた女性の入れ子さんが入場。
食する人は、
よだれ掛けをして、漬け汁の入ったお椀を手に構えて待つ。
隣に陣取った入れ子さんが、小さな器のそばを、汁入りお椀に投げ入れる。
ここで、「食べて良し」のゴングが鳴り響く。
箸がお椀の中の塊を口中へと弾き飛ばす。
小さなそばの塊は、勢い良く喉を通過する。
一瞬の出来事だ。
入れ子さんが、間をあけず、そばを投げ入れる。
飛んできたそばが汁に落ちるのも待ちきれず、箸が喉へと弾き飛ばす。
飢えた猛獣のように、ガツガツと食らいつく。
投げる、弾く。
投げる、弾く。
投げる、弾く。
心地良いリズムの応酬。
脳内麻薬が全開になり、
ふと、
近所の蕎麦屋を思い浮かべるのだ。
……のような
ショー的場面が脳裏に浮かんだ。
★≪ここまで、脳裏の映像でした≫
し、しかし、実際に目にしたのは、
何故か、「ざる蕎麦」の登場!
???
番組予算が少なくて、ショー的部分を節約したのだろうか?
でも、それは、
もはや、
わんこそば、
ではないのでは……
多くの視聴者が感じたであろう疑問符を完璧なまでに葬り去り、番組はざる蕎麦選手権に早変わりして、続行。
ざるそばを目の当たりにしたチャンピオン、一瞬怪訝そうな顔をしたものの、そこはチャンピオンの貫禄?
異議を唱えることなく、成り行きに任せるポーズ
(それは、諦めのポーズだったのかもしれない)
われは、わんこそば
天下のつけ麺!
額に冷や汗マークの「わんこそば」チャンピオンは、自分の身にふりかかった理不尽な荒波に身を委ね、番組構成と言うチンケな泥船に乗り込むのであった。
さて、さて、
お笑い芸人と並んで、
ざる蕎麦を頬張る、
額に冷や汗マークの姿は茶の間の視聴者を感動の嵐に導いてくれれば、
まだ良かったのだが……
ざる蕎麦一杯目、
なかなかいい勝負。
わんこそばと違って、一口で飲み込むことが出来ず、
チャンピオンの冷や汗は粒となって、ざる蕎麦の薬味と消えた。
お気持ち察知いたします。
わんこそばチャンピオンは、
何でもござれの大食いチャンピオン
ではないのです。
3杯め、額に冷や汗マークがリード
4杯め、額に冷や汗マークが少しリード
そして、5杯めで
チャイムが鳴り響いた。
あっけない結末。
芸人=4杯と半分ちょっと
額に冷や汗=4杯と半分
せめて……
芸人くんには、空気を読んで欲しかった。
その後、番組がどのように終了したのかは記憶に無い。
脱力して、
近所の蕎麦屋に向けて、
トボトボと歩き始めたことだけ覚えている。
≪後日談≫
あれ以来、わんこそばと聞くと、それだけで胸が一杯になり、ざる蕎麦を食べると、それだけで額に冷や汗が出る。
あれ以来、何かのチャンピオンを披露するときは、チャンピオン取得時と同じ種目で公開すること、が暗黙の了解になった(気がする)。
あれ以来、蕎麦屋の前を通ると、胸が詰まるが、CT画像に異常はない。
《完食》
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