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死んだときいくらかかるか

ニュースのあと、うっかり朝ドラが始まってしまうのを避けるため、あえて普段は見ないワイドショー番組にチャンネルを合わせた。
本来、ワイドショーも嫌いである。
特にスポーツ選手や芸能人の話題が苦手だ。

今朝は、東京都の火葬料金が9万円とずば抜けて高額と報じていた。
すこし前に話題になっていたのを、ヤフーのトピで見た記憶がある。
なんで?と思っていたから、視聴した。

私は、兄と母と、続けて喪主を務めたが、いずれも火葬料金は5500円だった。
調べてみたら、ここ数年で値上がりしていたが、それでも8200円となっている。(いずれも市民価格。うちは4市合同。)
自治体によって、ずいぶんと差があるようだ。

火葬場はみんな公営だと思っていたが、どうやら東京都は公営は2つのみで、あとの6つか7つは民営らしい。
東京都の料金が傑出しているのは、自治体の税金が投入されていないからとわかった。

司会者が「ご家族が亡くなったとき、相みつなんか取れないですもんね」と言っていたが、そんなことはない。
私は相みつを取った。
確かに事故などで突然亡くなられてしまうと、遺族もパニックになり、料金や内容を吟味する余裕もなく、病院提携の葬儀屋さんを紹介されて「そんなものか」と思ってお願いしてしまうのだろう。
しかし、高齢であったり、治療が及ばない病であったりすれば、残酷だが精査する時間はあるのだ。

父のときは、老いた母に代わって兄が喪主を務めたが、兄は元来温和すぎて、交渉ごとには向いていない人だったから、事務的な差配はほぼ私が行った。

大前提として、お金がないというのがある。
父は、認知症と末期がんを患っていたが、併発した肺炎治療のために入院した。
肺炎が治癒すると、療養型の病院への転院を求められ、1か月の入院費は一気に倍増した。
父が倒れたとき、自営の事業所は行き詰って倒産し、破産していたから、実家の預金などないに等しい。

倒産してから、50歳半ばで、兄はフォークリフトの免許を取って近隣の工場の入出荷作業のパートに就いた。
フルタイムで働いても月15万ほどの収入である。
約半分が、アパートの家賃に持っていかれる。
長く自営だったから、両親の年金はほぼ国民年金のみである。

私は夫に内緒で、毎月の食費などに自分の収入の一部を投入していたが、いっそ離婚して、しっかりと実家の経済を支えたほうがいいのではないかと考え始めた。
しかし、踏ん切りがつかぬまま、いたずらに時を重ねていた。

母は長い間、互助会に入っていた。
わずかではあるけれど、毎月積んでいた費用を、まず私の結婚式の衣装の一部に充てた。
その後は兄の結婚費用にと目論んでいたが、兄は生涯独身だったので、掛け金は相当の間、積まれたままになっていた。

父の余命を告げられてから、この掛け金を使える斎場の見積もりを取った。
掛け金を充当しても、なお結構な額の持ち出しがある。

家族5人で東京に夜逃げしてきてから、田舎の親戚とは年賀状のやり取りくらいしかないし、幼馴染のような友人関係も損なわれたまま。
父の商売上の知人は、数合わせにお願いすれば参列してくれる気のいい人物もおられたかもしれないが、私は反対した。
本当に悼む気持ちのある人だけで送りたい。
義理は必要ない。
故人もきっと望んでいない。

しかし母と兄は、まるっと昭和の価値観の人だから、慣習として通夜と告別式の2日というのが当たり前になっている。
通夜と告別式を1つにして1日で行うものと比べると、2倍ほどの費用がかかる。
通夜をすれば、夫の姻族にも参列をお願いしなければならないかもしれない。
通夜振る舞いも用意しなければならない。

私は、互助会は無視して、格安の葬儀サイトに入会をした。
死亡の前日までに入会すると、費用の割引がある。
葬儀から半年、1年、2年と、入会日から日が経てば経つほど割引率が大きくなる。
登録料や会費はない。
そうして、そこに登録されている葬儀業者の見積もりを取ると、果たして互助会の提携業者よりかなり安かった。
掛け金の充当を引いてなお安いのを確認して、私は互助会を解約し、可能な分の返金を求めた。

母と兄を説得して、1日葬とした。
葬儀の3日前に母がノロウイルスに感染して入院し、翌日は退院したが、次に兄が発症し、私が発熱と下痢で寝込んだのは前日だった。
姑や義弟夫婦など呼ばなくて本当に良かった。
水も入らないのに、通夜振る舞いなどとんでもない。
夫は、私が寝込んでいても御馳走は振舞われると思っていたのか、ないことに対して非常に不満だった。
「母のときも、この人は呼びたくない」と思ったが、その後、離婚したので、そういう懸念はなくなった。

それでも、総費用は30数万かかったと思う。
墓石のコンクリートの蓋を剥して、父の遺骨を入れてまた蓋をするだけで8万円もする。
サイトを通して申し込んだので、お布施は一律で55000円だが、葬儀と納骨とで最低2度はかかる。
僧侶の交通費は負担しない。

これを見て、兄も母も「やっぱり火葬だけで良かった。自分のときはそうしてほしい」と言ったので、次はそうした。
今日のテレビ番組では、火葬料金は、葬儀費用としてまとめて葬儀屋さんに支払うようなことを言っていた。
明細を見ないと、火葬料金の高さに気づきませんよねと。

でも、私がサイトから割引適用でお願いした葬儀屋さんは、火葬料は、自分で火葬場の窓口で払ってくださいと言った。
だから5500円を支払い、引き換えにその分のみの領収証と埋葬許可証をもらったのだ。
この領収証で国保からの葬祭費5万円を請求できる。
埋葬許可証は、墓石屋さんに納骨をお願いするのに必要となる。

兄の葬儀費用(棺や副葬品全込み)は、直葬で11万円だったが、火葬場待ちのドライアイス代が1日15000円だった。
葬儀までの3日分は含まれているが、4日目からは別料金だったから1日分が追加。
いまは1週間待ちというのもざらで、多死社会の問題点の一つ。

直葬だと会場使用料がかからない。
家族葬よりさらに規模が小さい、本当の肉親のみで送るなら、これで十分と個人的には思っている。

日中はフルタイムで働き、休日は在宅での副業に精を出し、かつ土日は母の老健に行っていたから、時間の節約のために親戚からの香典は辞した。
お返しなど、父のときに手間が大変だったので避けたわけだが、その分お金がない。
兄の介護と医療の費用で、私の預金もなくなっていたから、生活費を切り詰めて納骨代の8万円を捻出した。

母のときは、すこし値上がりしていたが、入会から時が経ち割引率が高くなっていたから、やはり11万とドライアイス代1日分で済んだ。
納骨はしていない。

葬儀とは別に、一人当たり13万5千円をかけて納骨した父と兄の遺骨は、昨年の墓じまいのときに取り出して、手元供養分を分骨し残りは共同墓に改葬した。
最初からそうすれば良かったなぁといまは思う。
共同墓の契約者である私は、自動的に同じところに埋葬される権利を得ている。

だから。
私は医療保障から死亡時の給付金を外した。
10万円の現金は、万一に備えていつも手元にある。
あとは、国保から5万円の支給をいただければ、死んだときに10万円あれば済む。
これは家族がいてもいなくても同じことだ。
だから、葬儀費用くらい自分で残したいという死亡保険のCMを見るたびに、これは不要ではないのかと疑問を持っている。
豪華な葬儀を望む人は別として。
その分の掛け金で、元気なときに御馳走を一品増やしたほうがいいんじゃないの、とか。

まあ私は、おひとりさまだから自分の死後の「遺品整理」の料金も用意してあるけど。
夫は贅沢な人だったから、離婚したら生活費がグンと減った。
身も蓋もないが、看護や介護をすべき対象がいなくなったことでも、私の経済状況は改善している。
死んだ家族には申し訳ないが、葬儀と墓じまいのことは「これでよし」と思っていてくれると信じている。

葬儀屋さんに丸投げじゃなくて、火葬料金くらいは確認したほうがいい。
悲しみに沈んでいるとき、現実的なお金の算段をするのは、実は癒しにもなるものだし。

お金に限らず、自分の死に方も考えておく。
どう死ぬかは、どう生きるかということ。



読んでいただきありがとうございますm(__)m