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一人一人の生業で、地域の経済を成り立たせる

島で暮らしていると、「都会」とは流れる時間や考え方が異なる部分が見えてくる。特に自分が考えさせられたのは、島内では自分のできることを仕事に、生業にしている人の姿がよりくっきりと浮かんでいたことだ。

大きな組織には、仕組みがある

私自身、大手新聞社の一記者、そして一サラリーマンとして働いた経験は、今でも糧になっている。誰もが記事を書ける仕組みがあってこそ、毎日大量の記事を配信できることを知った。

社内外には、例えばこんな仕組みがあった。

■定期的に企業や行政の記事を書くための仕組み
記者レク:企業や行政が記者に向けて一斉に情報を共有する場。内容は、四半期に一度の決算発表や、自治体の新たな施作などが多い。決められた日時にレクが開かれる場所に赴けば、必要な情報はある程度手に入れられる。
■多くの記事を配信するための仕組み
記事作成:まずは現場の記者が初稿を書き、デスクと呼ばれる記者が確認し、誌面編集と呼ばれる編集者が確認し、校正担当が校閲する。何重にも記事を確認するリソースと体制を整え、とんでもないミスや誤報を防ぐ。

企業や組織が大きくなるには、大きくするために考えられた仕組みや流れが必要だ。可能な限り「誰でも」「均一のクオリティ」で「効率よく」仕事を進めるシステムは、規模を大きくしていくうえで欠かせない。

もちろん、多くの人にサービスを届けることで、多くの人がその恩恵を受けられるようになる。だが、そんなことばかりを続けていると、金太郎飴のようにどこを切っても似たようなサービスや商品が身の回りにどんどん溢れてくる。

顔の見える経済やコミュニティーの可能性

私が壱岐島に引っ越してきてからは、大きな組織とは反対に、規模の小さな組織や企業について考える機会が増えた。

■壱岐島ってこんな島
人口は約2万人。大型スーパーは3軒、ドラッグストアは2軒ほど。小さな商店や商店街が街に点在している。

首都圏や都会によくある居酒屋チェーンやスーパー、コンビニといった大手の小売店や企業がほとんどない環境に身を置いてみる。すると、ローカルのお店やローカルな小商を筆頭に、顔がみえる個人がそれぞれの得意な分野で地域の経済をまわす様子がみえてくる。

島内でリノベーションなどを手がける建築業の方は、こう話していた。

大きく大きく仕事をするのが目的ではなく、まずは自分たちの住んでいる場所(コミュニティー)をよくしたいという思いが先にある。

労働の効率化や均質化を進め、組織や商品、そしてサービスを大きく大きくするアプローチではなく、身の回りの顔が見える相手に向けて、それぞれ異なる得意なものをサービスとして提供していく。そうすると、コミュニティー内には自然と基盤のようなものができながらも、個人の顔や色がわかる血の通った経済やコミュニティーが成り立つのではないか。

こうして自身の生業がしっかりしている人同士が集まると、また別のプロジェクトが生まれた時に、できることがぐんと広がっていく。

情報やモノが集積する場所から距離をとることで、なんとなく見えてくるものがある。地域の社会やコミュニティーのあり方、そして心地よい経済の仕組みを、もっと考えていきたい。


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