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建築設計者の職能とは。 (前編)


ファーストキャリアで建築設計を選ぶメリットとは何か。

建築設計を職能として生活を営んでいくのに必要なスキルとは何か、
もしくは、仕事の中で必要に迫られて対応するうちに
自然に身についていくスキルとは何か。

外出自粛により家でたっぷり時間を使い、
組織設計事務所で意匠設計・営業の仕事を行き来しながら
約15年のキャリアを重ねた私の実感を基に、
必要なスキルをタイプ別に分類し、整理してみた。

Aに近いほど、建築の専門分野に関するスキル、
Eに近いほど、どの職種にも共通するスキル、
という位置付けである。
若いうちはA側から身につけていき、
徐々にE側のスキルが必要になっていくというイメージ。

建築設計職といっても幅がかなり広いため、置かれた立場により
必要とされるスキルはかなり異なるであろうことはご理解いただきたい。
より上流から関わる仕事は、E側のスキルが多く求められ、
下流側の仕事はA側のスキルの比率が高くなる。
いずれのスキルにも優劣はなく、その人の適性とうまくマッチングさせる
ことがビジネスマンとしての生存戦略として重要だろう。


A.建築設計の専門知識


①設計図面作成力・図面読解能力。
=基本のキ。まずは作図のルールを理解し、
 実施設計図面を読めるようになるところから。 
  1つの建物をつくるのに、どの図面を書けば正確に見積もれ、
 現場で施工図が作れるか、過不足なく部分の検討ができるか、
 意外と難しく、今でも質疑で図面の不足に気づいたりする。

②与条件整理・平面・断面・立面計画力
=施主からの要求条件(面積・必要諸室・予算・工期・法規など)から平面・断面・立面を導き出す能力。 成立するパターンを作る能力は、デザインセンスとはあまり関係なく、論理的に解いていく能力。

③いわゆる意匠設計能力
=詳しく書かずとも、多くの業界外の人が想像する
「建築家」「空間デザイナー」の職能。
 美しい・カッコいい建物を設計するという、表面的な形をつくる能力だけでなく、Cのコンセプトで導き出したビジョン、Dの課題把握により抽出した与条件に基づき、 一貫した意匠を与えられることが、建築設計者が考える意匠設計能力である。

④設計する建物用途に特化した建築計画の知識。建物の運営方法の知識。
=事務所、教育施設、病院、金融施設など・・・
 設計するビルディングタイプに特化した建築計画の知識が必要。
 また、その施設の一般的な運用方法により当然配慮される事項は、
 施主からの明確な要望がないものであっても、
 設計者の配慮により設計条件に盛り込まなければならない。
 設計者と施主の間には、圧倒的な知識の差があることが多いため、 
 施主から提示された要求条件に含まれていなかったとしても、
「善管注意義務」の不足により、設計者が責任を問われるリスクがある。

⑤建築基準法他、建築関連の法律・条例の理解 
→ 難解な文章で書かれている法令の条文を理解し、案件の事例に適合させる能力。 また、机上で読み取った内容に基づき、行政協議を行い、申請書を作成するスキルとして一般化できる。
 建築が関連する法律は、思いの外幅広いため、経験のない法律でも怯まずに対応できる能力が身につく。

⑥設備・構造などに関する包括的な知識
→周辺専門知識の習得とともに、専門分野外の内容を、
  プロジェクトで必要なツボを押さえながら理解し、 
 施主に分かりやすく噛み砕いて説明する力、として一般化できる。

⑦コストマネンジメント力
=基本計画・基本設計・実施設計の段階で、適切な余裕を持ちながら、
 予算計画をする力。初期段階での余裕は必要だが、
 建築プロジェクトより施主が得られるメリットよりも
  コストが高く感じられれば、高すぎると言われてしまう。
  当初の予算が全然足りない場合、根拠を明確にしながら予算増額を
  交渉したり、優先順位をつけてコストダウン案を提案するなど、
 バランス感覚が求められる。ここでのコスト調整スキルは、
 どんな仕事でも役に立つ。
 また、施工会社との価格交渉の中で、見積もり交渉力が身につくため、 営業職の立場で顧客へ見積もり提示・価格交渉するときに、どのように納得して気持ちよく契約してもらえる 見積もりを作れるか、ということに大いに役立った。


B.プロジェクトマネンジメント力

プロジェクトマネンジメント(PM)のスキルは、PM経験でしか得られない。 若いうちに規模が小さくともPMの経験を積むと、
どんな業務でも転用可能なマネンジメントする実務能力と、
ちょっとした気遣いのコツが手に入る。

①マスタースケジュール作成、日割りスケジュール作成・管理
=不確定な状態であっても、マスタースケジュール(道筋)を仮定し、 関係者と合意をとり、進めていく力。また、大きなマスタースケジュールから、
 週割り・日割りの詳細スケジュールへ落とし込む力。 最初に立てたスケジュール通りに進むことはまずなく、状況が変わり次第タイムリーに見直し、 発注者と再度合意をとったり、ある担当者の遅れを他の担当で取り戻すような調整を行う必要がある。
 
②プロジェクト体制づくり
=提案の機会を得たら、社内体制を構築する。意匠アシスタントの追加、CADオペレーターさんの予定確保、 設備・構造担当の協力依頼など。できるだけプロジェクトへ取り組み姿勢が近い担当者と組む方が
 よい結果が生まれる可能性場が高いので、実務能力だけでなく、相性も考慮して担当者を選定したい。 実施設計の外注パートナーやランドスケープなどの外部パートナーも予算や社内リソースとの バランスをとりながら、早い段階で声をかけ、予算・予定を確保する。 また、適切なタイミングで施主側のシステム担当者・広報担当者・契約担当者などを プロジェクトに召集する依頼をするなど、先を見越して、必要なメンバーを揃える能力も必要。

③定例会議の運営
=必要なメンバーの招集、日程調整、レジュメを作成、事前の会議資料送付、 当日の会議運営、議事録作成、会議後の課題事項の関係者への共有など。 どのタイミングで、どの議題を解決するか、どれくらい情報を間引いて資料を出すか、など細かい配慮が必要とされる。
→どんな業種にも転用できる基本スキル。私が若手の頃に苦手だったのは、会議の進行。緊張のあまり発言がまとまらない失敗は数多く。
 今は、会議の空気を和やかに保ちながら、大事な意見が漏れないように発言を促し、時間内に会議を進行する ことがある程度できるようになっった。ファシリテーターのスキルは、経験により、誰でもうまくなれる。

④課題管理スキル
=課題管理表を作成、優先順位をつけながら、未決定事項を消していく。
 ある1点の課題がボトルネックにならないように、
 確実に課題を潰していくスキル。

⑤関係者の進捗管理

=相手の性格を見ながら、適切なタイミングで様子を伺うスキルが
 身につく。
 進捗管理が甘い後輩には、姿を見かけるたびに軽くプレッシャーをかけ、 安定感あるが忙しい先輩には、忘れられていないか程度を軽く途中確認する。 ヒューマンスキルの向上と連動して、このスキルも高まる。

さて、前編はここまで。続きは後編へ。


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