「デジタル人材」とはなにか
ここ数年で大企業を中心に緊急性高く求められているデジタル人材という存在について、実際にデジタルを常に扱っている自分の目線で整理してみたい。
まず求められているデジタル人材とは本当に求められるべき人材なのか。
それについてはYESなのは間違いない。恐らくここ数年の内にエンジニアよりも企業にとっては生命線になるであろう人材だと確信がある。
1. デジタル人材がいないとどうなるか
「デジタル施策が進まない」「時代に取り残される」「売上が伸びない」など言われるが事実は更に深刻である。何が起きるかと言うと
間違ったコストの使い方をして大きく損失を生む
これが事実だと思う。なぜならば企業は差し迫った緊急性から「適した人材がいない」にも関わらずプロジェクトを進め始めるからである。
社内を見渡せば多少デジタルに詳しい人は1人や2人見つかるだろう。
SNS運用をしていたというだけでも企業によってはデジタルに詳しいとされるかもしれない。そして得てしてDXという冠の下で行われるプロジェクトは人と資金そして時間を投じがちである。
そして走り出したプロジェクトは進んでいき、ある程度進んだ時に頓挫するかもしくは大きく検討を外したものが出来上がる。これを損失と呼ばずにどう呼ぶだろうか。
2. デジタル人材の不在をどう補うか
選択肢は本当に少ない。
新規で採用する
社内人材を育成する
外部企業に委託する
1の新規採用。これはある程度の費用捻出でもしかするとどうにかなるかもしれない。必要条件は2つ。まずはその企業の取り組もうとしている姿形が魅力的であること。この人材に限った話ではないが、死地に飛び込んでいきたい人はいない。既存事業が順調が不調かはさておき、その人材に何を期待するか、何を求めるか、そして企業がどうなっていきたかを説くしかない。そこに魅力を感じてくれたならば後は待遇の話になると思う。
2の育成。これに取り組み始める企業を多く目にするが、辞めたほうが良いと感じる。「誰が育てるのか」という観点である。デジタル人材がいないから育成しようとしているのに、誰が育成するのか。社内で研修プログラムを組んでみたり、育成と称してプロジェクトを走らせてみたりでは上手く行かないと感じる。
デジタルの人材を育てるのは特段難しいのだ、と言いたいわけでは全くない。
例えばアパレルブランドの企業があったとして、その企業には店舗ビジネスのプロフェッショナルがいるだろう。どのエリアが当ブランドにおいて出店成功率が高いかを見極められ、人流に対する知見、若年層のトレンドを抑えた感性を持っている。そんな人材が生み出したいと思った時に研修などで生み出せるだろうかという話に近いと思う。
そんな簡単に育成出来ないということが言いたい。
研修などで育成できるならば市場にデジタル人材はもっといるだろう。
3の外部委託。日本は昔からデジタルの分野においてはこの文化が強い。
システム構築を大手ベンダーに委託し続けてきた背景があるように。
私はいま「発注される側」のIT企業にいるが、外注する先の企業さえ市場に少ないように感じている。とはいえ仕組みとしてパートナー企業を見つけて進めていくのが一番現実的ではないだろうか。
ただ社内人材で完結するよりもコストはもちろん多く掛かる。
そして社外との連携になるのでリスクももちろん大きく存在する。うまくいくかは選定したパートナー次第なのだから。そういう点で外部パートナーの選定は極めて慎重に行ったほうが良いと感じる。安ければよいわけでもなく、非常に難しい選定になる。
3. デジタル人材の必須スキル
最後に「デジタル人材とは何が出来る人物のことか」を整理する。
DXという定義曖昧な言葉に引きづられ、デジタル人材という言葉も企業によって定義がブレブレである。
データ分析ができる、システム開発のPMができる、IT畑の出身者である、デザイン思考ができる………これらは全て枝葉である。その粒度で定義しては理解を誤るので、もう一段高いところで明確に定義するべきである。
要素は2つ。
「デジタル技術を当たり前に、物事を考えられる人」
「デジタル施策を推進できる人」
この2つではないだろうか。
まず、デジタル技術を当たり前に、物事を考えられる人というのは出発点であろう。「コロナで店舗の来店が減ってしまった」という課題の解決に臨む時にダイレクトメールやコストアプローチでしか考えられない人ではなく、デジタル的なアプローチを真っ先に考えられる人材。
他社が乗り出す前にモバイルオーダーにリソースを寄せていこう。
もしくは出前館などの宅配に寄せてみてはどうか。
密室感のある店に入るのがイヤだろうからスマホでのBOPISをトライしてみてはどうか。
公式LINEを通じてクーポンだけでなく店の混雑状況を逐次お客さんに伝えてはどうだろうか。
最近ではスペース貸しというものがあるので、採算の悪い時間帯は場所貸しに回してはどうか。
デジタルを使えば何でも成功するわけではない。
でもデジタルを上手に使いこなした企業が伸びている、他社を引き離しているのは事実である。「デジタル人材」と呼ばれる人はそのキッカケを生み出せる人でないといけない。突拍子のないアイデアマンではなく、他社事例を良く調べて知識として持っており、自社事業に対して成功確度の高い施策を構築できる人材。
そしてそれだけではコンサルティング人材と大きく変わらない。
もう1要素加える必要がある。
それがデジタル施策を推進できるという要素である。
机上の空論で終わらせないために、施策を推進していかないといけない。
ここは経験値が無い人にはハードルの高い領域である。経験値が必要なシーンとして「ユーザー体験の設計」と「プロダクト開発の推進」である。
これは完全に専門領域であり、誰でも出来るものでは決して無い。
ユーザー体験の設計を外すと、最終的にトンチンカンなアイデアになってしまう。
プロダクト開発の推進を外すと、またたく間にプロジェクトの頓挫が待っている。
ここまでを踏まえて、デジタル人材というものは簡単に育てられるものでなく、かつ市場にありふれているものでもないことが分かるだろう。
一方で企業に1人いると世界が変わるものでもある。
企業が生まれ変わる可能性を秘めた人材でもあるので、そういう意味で冒頭に今後は市場価値が極めて高まるのではないかと書いた。
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