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私の妄想たち

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虚構と現実のはざま。
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#小説

[Short Story] 私の彼氏はお腹が弱い

[Short Story] 私の彼氏はお腹が弱い

本屋に行くとトイレに行きたくなるという現象が存在するというけれど、私の彼氏もそうらしい。

彼の場合は本屋だけでなく、文具店、ホームセンター、果ては日常的に利用するスーパーに行っても、その現象は起こると言う。

意外と古くからある現象なのに、未だに原因は解明されていない。
過敏性腸症候群の可能性も指摘されている。
ということは、ストレスによるものなのだろうか。

そういえば初めて彼氏が私の家に来た

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[Short Story] 二十歳のボールペン

[Short Story] 二十歳のボールペン

“Mei Ueno”

テーブルの上のボールペンに印字されたその文字は、オレの名前ではない。
最初に就職した会社の入社式で新入社員全員に名前入りのボールペンが渡されるはずだったのだが、担当者が誤って他人のものと取り違えたのだ。

* * *

オレは地方の男子校を卒業してすぐ、都内の会社に入社した。
キラキラした都会で、眩い女と付き合えるとぼんやり理想を描いていたが、具体的なことはなにも考えていな

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[Short Story] 痛みの泉

[Short Story] 痛みの泉

私は素直になれなかった。
こんなにあなたを好きなのに。

手の届かない体の奥深い沼底から、じんじんと痛くて切ない泉が沸き上がる。

私は沼の底に閉じ込められて、息が出来ない。
助けて。

あなたの気持ちを確かめることができたなら、この泉は甘い蜜に変わるのに。

あなたはただキスをするだけで、沼の底から救ってはくれなかった。

これは、あなたが与えた罰。
素直になれなかった私への。

抜け出したい。

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[Short Story] 色は匂へど散りぬるを

[Short Story] 色は匂へど散りぬるを

ぼくは隣のお姉さんが好きだ。
まだ幼っかったときに、お姉さんに言ったんだ。

「ぼくは大人になったら、お姉さんにプロポーズをするよ」

お姉さんは笑って受け流していたが、ぼくは真剣だった。

***

しばらくすると彼女は、東京から来たという男と一緒にいた。
男にはすでに妻子があったが、どうどうと彼女を彼の隣の家に住まわせた。

ぼくはなんであんな男と一緒にいるのか、彼女に聞いた。

「あたしね、

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[Short Story] 待ち人来ず

[Short Story] 待ち人来ず

私は毎晩待っている。

部屋の片隅でじっと。

今夜もあの人は来ないかもしれない。

でもやっぱり待ってしまう。

ため息が糸を揺らす。

やっと誰かが来たみたい。

胸がちくちくする。

けれど、今夜訪れたのは待ち人ではなかった。

もう、耐えられない。

その晩からは毎日違う人が訪れ、私はそのすべてを受け入れた。

でもやっぱりあの人は来ない。

胸のちくちくは増すばかり。

そして今夜は誰も

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