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[Short Story] 痛みの泉
私は素直になれなかった。
こんなにあなたを好きなのに。
手の届かない体の奥深い沼底から、じんじんと痛くて切ない泉が沸き上がる。
私は沼の底に閉じ込められて、息が出来ない。
助けて。
あなたの気持ちを確かめることができたなら、この泉は甘い蜜に変わるのに。
あなたはただキスをするだけで、沼の底から救ってはくれなかった。
これは、あなたが与えた罰。
素直になれなかった私への。
抜け出したい。
必死でもがいた。
痛みの泉の切なさは、麻薬のように胸の中を蝕む。
甘美な感傷で快楽さえ感じるようになり、やがて死に至る。
早くしなければ。
***
じわじわと体が痺れ、感覚が麻痺していく。
あまりにも苦しくて、意識がしばらく遠のいた。
私はまだ、沼の底にいるのだろうか。
***
どのくらい時間が経ったのだろう。
一瞬のようにも、何百年のようにも思えた。
気が付くと目の前に手が差し伸べられていた。
私は無心でその手にしがみついた。
でも、こうして沼から私を引き上げたその手の主は。
膝から倒れこんだ姿勢で手を差し伸べようとしたまま、石になってしまった あなただった。
彼もまた、不器用という魔物に苦しめられていたのだ。
私はそっと、石になってしまった彼の唇に口づけ、スキ とつぶやいた。
*****
■あとがき
ヘッダーに使用した画像は、
フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (字幕版) から借用。
この映画は危ない性癖の男と、恋愛未経験の女による、切ない愛情表現のすれ違いが泣かせる映画。
ちょっぴりインスパイアされていたり、いなかったり。
当たり前だけれど、私の拙い記事にリンクを載せるのはおこがましい。
でも載せちゃう。
■YouTube ムービーのリンク。
■amazon でも観れるよ。
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