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家具づくりの現場から① 吉野と飛騨の森の材料を集めて

総合建設会社の淺沼組は現在、築30年の名古屋支店をGOOD CYCLE BUILDINGとしてリニューアル中。その現場では「人にも自然にも良い循環を生む」というコンセプトのもと、様々なことに取り組んでいます。このnoteでは、プロジェクトに関わる人の思いや、現場の様子をリポートします!

淺沼組名古屋支店の工事が着々と進む中、オフィスで使用する家具の製作に携わるプロジェクトチームが、吉野の森を訪れました。

今回のプロジェクトでは、奈良の宮大工を起源とする淺沼組と関係の深い、奈良県の吉野の木材を積極的に利用しています。
最大の特徴は、外観に取り付けられた樹齢約130年の吉野杉。
昨年末、吉野の森林へ淺沼社長と設計チームが訪れ、実際に木を伐採する様子を見学しました。

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今回は、家具製作を行うデザイナーが同じ伐採現場に行き、そこの枝木を拾い集めることになりました。

「人にも自然にも良い循環を生む」ということを、家具の製作でどのように実現するかを考た結果、
廃棄される予定の木材や、建物の柱として使われている吉野杉の枝木の部分を集め、家具の材料として利用することが決められました。

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吉野杉リポート①ファサードに吉野杉を取り付ける。

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TAKT PROJECT 吉泉聡
東北大学工学部機械知能工学科卒業。エンジニアリングを学ぶ。桑沢デザイン研究所を中退後、2005年より2008年までデザインオフィスnendoに、2008年より2013年までヤマハ株式会社デザイン研究所に在籍。2013年にTAKT PROJECT株式会社を共同設立。TAKT PROJECT代表。感性と理論をつなぐことに深い興味があり、ロジカルな思考だけでは到達できない仮説を構想する「新しい知性」としてのデザインを志向し、実践している。

TAKT PROJECT  本多 敦
東海大学工学部建築学科卒業。建築の設計・意匠を学ぶ。
2004年より2007年までデザインオフィスnendoに、2008年より2011年までdesign kitに在籍。2011年より東京大学生産技術研究所特任研究員(川添研究室)。2013年TAKT PROJECT株式会社共同設立。

STUDIO YUMAKANO 狩野佑真
東京造形大学デザイン学科室内建築専攻卒業。アーティスト鈴木康広氏のアシスタントを経て2012年にデザイン事務所「studio yumakano」を設立。ネジ1本からプロダクト・インテリア・マテリアルリサーチまで、実験的なアプローチとプロトタイピングを重視したプロセスを組み合わせて、様々な物事をデザインの対象として活動している。

吉野の製材所で材料集め

奈良県の吉野に訪れたプロダクトデザイナーの本多敦さん(TAKT PROJECT)と狩野佑真さん(STUDIO YUMAKANO)はまず、今回のプロジェクトで協力してくださっている吉野銘木製造販売に訪れ、製材所の中で家具に使用できそうな端材を集めました。

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左から、狩野佑真さん、本多敦さん。そして、今回ご協力してくださったのはファサードに取り付けられた樹齢130年の吉野杉の山を管理する豊永林業の中前徳明さん、右奥は吉野銘木製造販売の手嶌伸彦さん。

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使い途がなく廃棄されてしまう端材の中から、まるで宝探しのように材料を探し出す様子。

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こちらは、ネムの木。ネムの木は、夜になると葉を折り畳んで眠ったようになってしまうため「眠りの木」から「ネムの木」になったということを教えていただきました。吉野の森にある材料として、ネムの木も加えられました。

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実際に家具の天板として使われる予定の吉野杉(樹齢約200年ほど)。

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美しい細かい木目の部分と

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節のある部分も、一つのデザインとして使われます。
天板を3つに切り、二人用のテーブルとして使いながら、つなげると一つのテーブルになるように考えられました。

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吉野の森で、自然循環を感じる

続いて一行は、山の管理を行う豊永林業の中前さんに案内していただき、舗装されていない山の細い道を奥へと進みました。

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到着した吉野杉の森。小川のせせらぎの音が聞こえ、空気の澄んだマイナスイオンを感じる場所。

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山の小道を奥へと進みます。

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昨年の12月、吉野杉を伐採した時の様子。

そして、その切り株の場所へ。

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その時、到着した私たちが目にしたのは、切り株の下に動物の死骸があるという、衝撃的な光景でした。

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それは、自然の循環を感じる光景。「人間は自然の一部である」ということを、吉野の森で感じた瞬間。

「これは、襲われた死骸ではなく、ここで自然と命を落とした跡ですね。
長いこと山で仕事をしてきた中で、こんなに綺麗に骨が残っているのは初めて見ました。」という、豊永林業の中前さんの言葉。

生き物は皆、土に還り、その養分が木の成長を助け、木は水や大気を綺麗にし、私たちの生活に潤いを与え、また自然に還っていく。

木の命をいただき、建物が新しく生まれ変わるということ。
そして、その木を育む自然の生態系の中に、人間も生きているということを今、目の前に見せられたような気がしました。

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TAKT PROJECT本多さんに、今回のプロジェクトについてお話を聞くと、
「サステナブルな循環をコンセプトにしたプロジェクトで、家具でも何か出来る取り組みはないかと考えた時に、普段製作の中で出る端材の、ゴミとされてしまうものも、できるだけ有効に活用することができるとよいかなと考えました。
狩野さんが元々、自然の材料を使った製作をされているということを知り、ご一緒できないかと声をかけさせていただきました。」
という話でした。

そして、TAKT PROJECTとコラボレーションすることになった、狩野さん。

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枝や木がどのように、家具となるのでしょうか?
「今回集めた枝葉や端材と一緒に、有機溶剤フリーで人体や環境に害がない、アクリル系樹脂を混ぜ込んで型枠に入れて固め、それを削り出すということを行います。様々な自然の表情と人間の創造が合わせられるものになるかと思っています。」

そして、この後の製作工程には、岐阜県飛騨市の木工関係者が協力してくださることになり、吉野で集められた材料は岐阜県の飛騨に送られ、そこで吉野と飛騨の森の材料が混ぜ合わされて天板がつくられます。

奈良県吉野から飛騨古川、木工の街へ

それから1週間後。私たちは、天板製作の現場、飛騨古川へと向かいました。

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飛騨古川は、大和朝廷の時代から飛騨匠の技が伝えられる木工の街。飛騨の建物は、軒(のき)の下が白く塗られているのが特徴です。

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吉野林業との違いは、杉や檜といった「針葉樹」ではなく、飛騨林業は「広葉樹」の割合が多いということ。広葉樹は多様性があり、木の質や色も様々な森が広がります。
今回は、狩野さんの製作に協力してくださるヒダクマさんの活動拠点が飛騨古川にあり、図らずも吉野と飛騨のコラボレーションが実現することになりました。

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飛騨の森で材料を集める狩野さんの様子。

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ここ、飛騨の森でも宝探しのように集められる材料。

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サンプルを使って試行錯誤しながら進められます。
そして、固める作業へ。

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飛騨で木材業を営む、柳木材の一角を借りて作業が行われました。

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型に入れた材料を水性アクリル樹脂「ジェスモナイト」と混ぜ合わせ、再び型に流し込み、固める作業を行います。
ジェスモナイトという造形材は、有機溶剤を使用しないため、環境にも影響が少ないもの。液体に、反応性の鉱物を混ぜ合わせると発熱し、約40度で固まります。

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左から、飛騨の製作協力チーム  ヒダクマ 門井慈子さん、志田岳弥さん。
岐阜県の飛騨で、森の価値を活かした制作協力と、地域をつなげる仕事を行っています。
中央は狩野佑真さん。その右は、淺沼組名古屋支店改修の建築デザインパートナーの川島範久さん、國友拓郎さん(川島範久建築設計事務所)

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天板が固まると、続いて地元の家具職人、飛騨職人生活の堅田恒季さんの元を訪ね、固まった天板の削り出しを行っていただき、どのように素材が現われるのかを確認しました。

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削り出しの後、思わず触ってみたくなる天板に姿が変わりました。

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吉野と飛騨。二つの地域がテーブルの天板の上でつながり、多くの方の協力を得て少しずつ完成に近づいていきます。

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吉野と飛騨のみなさん。

そして、いよいよテーブルが形に。

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足の部分は、組み木のデザインを取り入れ、吉野杉つくられています。色々と、試作を重ねながら

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「FOREST BANK TABLE」

いよいよ完成です。

text, photo by Michiko Sato

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