【小説】牛島 零(11)
正体
「君はすごいな。驚いた。いつから気づいてた?」
「まあ、思い出したのは下村君と初めて話したとき、私と同じ雰囲気をかもし出していた。それがトリガーとなって思い出した感じかな」
「お、さすがだな。体を完全にのっとった人は」
「人聞きが悪いな。根尾君は久しぶりの再会というのに」
「いつあったか?」
「いずれ分かるよ」
「まあいいよ。目的は?」
「下村君の元父親かな」
「元父親?なんでそれを知っている」
「あーもう少し根尾君と喋りたかったのにな」
おい、さっきよりもコースターに水滴がしみている。
「もしかして、根尾と話していたのか?」
「うん。根尾が君の体をのっとてたよ」
意味が分からないよ。僕は気味が悪くなったのでリュックをもち、外に出ようとする。すると牛島が
「ほら言ったでしょ。二つでいいって」
「そ、そうだな」
僕は彼女の言う通り外へ出た。
根尾が俺の中にいる?どういうことだ。サッカーも一緒にやったじゃないか。いや、根尾が一人でやっていた。いや、そんなことはどうでもいい。ニトログリセリンも僕がやったのか。
なあ根尾いるなら出てきてくれ。
「ばれたらしゃーないわ」
「どういうことなんだ?根尾。そうやっていきなり出てきて」
「ファイトクラブってわかるか?」
「あのブラピの?」
「そう」
「そうって、ファイトクラブみたいな感じなの?」
「そう」
「理解できないよ」
「まあ無理ない俺も理解できなかったから」
「なあこの銃でお前を殺すことってできるのか」
僕は銃をバッグから取り出した。
「おい街中だぞ正気か?」
「これは僕のために使う弾だ」
「なら俺も俺のために使う弾だ」
僕と根尾は二人で銃を突き付けあった。
「お、成長したな逃げないんだな」
「突き付けたら逃げるんじゃないのか。犯人はよぉ」
「犯人、か。俺なんか悪いことした?」
「いや、してないな」
「人殺したわけでもないし」
「確かに」
僕たちは銃を下してバッグに入れた。
「とりあえず話し合おう」
僕はうなずき歩き出した。
「どうして根尾は僕の中にいるのさ」
「そりゃお前が俺の体の中にいるからさ」
「どういうこと?」
「そりゃ俺はお前でお前が俺なんだよ」
「そりゃ多重人格だからな」
「いや、多重人格ではない。俺がお前に乗り移ってるのさ」
「どういうことなんだよ」
「いずれわかるさ」
「あ、そう」
僕と根尾は実質仲直りを果たすことができた。
「万が一、美咲とSEXするようなことがあれば変わってくれないか?」
「いやだよそんなの」
「俺はずっとお前の体を乗っ取らないであげてるんだぞ」
「あたりまえだろ。僕の体なんだから」
「牛島は乗っ取られてるけどな」
「牛島が?」
「あいつ乗っ取ったうえでパパ活してるんだってよ」
「その話は聞きたくない」
「パパ活」
「うるさい」
「俺もママ活しようかな。それでお前の初体験奪っちまおうかな」
「やめてくれよ。冗談でもきつい。僕は好きな人初体験を果たしたいんだ」
「お、奇遇だな俺もだよ」
「あー美咲とSEXしてー」
「もっと大声で」
僕は腹筋に力を入れて叫ぶ。
「美咲とSEXしてーーーーーーーーーー」
「もっとだよおおおおお」
「美咲とSE」
そこにバスケットシューズの袋を持った見覚えのある女子高校生が目の前にいた。僕は固唾をのむ。
「なんか言うことあるでしょ」
美咲が口を開く。
「美咲と」
根尾、それは違う。今はやめてくれ。
「すみません」
僕は深々とお辞儀した。
美咲は僕に思いっきりびんたした。
「これで許してあげる。まだ言いたいことあるけど、不快だから消えて」
「はい」
僕は消えた。
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