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エディンバラ暮らし|海鳥センターボランティア/自然への愛を育むのは

ノースベリックにあるスコットランド海鳥センターで、夏の間すこしだけボランティアとしてお世話になった。
(応募したときの徒然なる日記はこちら

地場の環境チャリティは何をしているのか、どんな人が関わっているのか。身近な自然や環境問題に対して、人々にいかに興味を持ってもらうのか。
そういうことを思い出しながら書いたら、長くなった。



ボランティアには、子供たちに海の自然環境を教えるホリデークラブや、館内展示の案内など、いくつかのポジションがあった。長期では働けないと言ったら、夏の間に数日にわたって開催されるBioBlitz(市民参加型の環境調査イベント)を手伝うことになった。

事前に送ってもらったタイムテーブルを見ると、私は受付でのBioBlitzの案内と、付随して開かれる大学や研究所の出展ブースの手伝い(自分の担当は、Fidraという、環境汚染物質の研究団体の手伝い)と、磯の観察会のサポートをすることになっていた。


Biobritz(環境調査イベント)に市民を誘いこむ

朝からエディンバラの賑わいを抜け出し、ノースベリックに向かった。早めに到着して、諸々の準備や設営が終わると、早速受付の仕事がスタートした。通りがかる人に案内して巻き込んでいく自由参加型のイベントだ。

参加してくれる人には、写真付きのカラフルなリーフレットや、上級者向けの無機質なフィールドノートを、相手の意欲に応じてガイドブックと一緒に渡す。大抵は小さい子がいる家族連れが多かったので、カラフルなリーフレットをたくさん手渡した。中には長年ここの風景を知っている地元住民で、フィールドノートに見た生き物と場所、時刻、様子を細かく書き込んでくれる人もいた。

Basically, BioBlitz is an event which encourages people to find and record creatures around here as many as possible…

初めての人にはどう案内すればいいんだろうと思っていたら、ボスがこう言っていたので、自分もそのままコピーして説明した。樹脂でできたヒトデの模型や貝殻や乾燥させた海藻を使って、生き物の説明もする。例えばこんな生き物がいるよ、こんなふうにして餌を取るんだよ。さあ探してごらん、とボスがいうと、子供たちの目にぐっと集中力がこもったのがわかった。

ただの受付だと思っていたけど、案外ここが重要なのかもしれない。自由参加型だからこそ、最初の接点で「つまんなさそう」と思われたらおしまいである。そもそも、生態系保全みたいな環境活動に市民を巻き込む第一の関門は、どうにかして関心を持ってもらうことなのだ。ボスは海洋学のバックグラウンドを持つ環境活動家だけど、彼女のような子供たちの冒険心を掻き立てるやり方はこの道で生きる上で大切なスキルなんだろう。

見つけた生き物をボードに記録してく(鳥類編)



クローリーという名の1匹のムカデからマイクロプラスチックについて知ってもらう


お昼からは、Fidraという、ノースベリックを拠点にするプラスチック廃棄物や化学汚染物質の研究施設が出展しているブースを手伝った。


ところで、鼻にストローが刺さったウミガメや、翼にビニール袋を巻きつけた海鳥のショッキングな映像は見たことがある人も多いかもしれない。
一方、そういう目に見えるプラスチック製品の影響に対して、目に見えないか極めて小さいマイクロプラスチックが環境に及ぼす影響は、パッとはイメージしにくいケミカルな領域の話である。

マイクロプラスチックは、捨てられたプラスチック製品が時間をかけて細かく粉砕されたり、プラスチック加工工場から製造過程で流出したり、あるいは歯磨き粉みたいな日用品に普通に含まれる、5mm以下のプラスチックのことだ。それを生き物が餌と一緒に取り込み、生物濃縮を繰り返して生態系をめぐり、やがては人間の食卓に登場して体内に蓄積され健康被害を及ぼす可能性があるというのが、問題のあらましである。

この日のFidraは、マイクロプラスチックによる海や土壌の汚染について市民の皆さんに知ってもらうという目的で、ブース出展していた。私がここのブースに回されたのは、面談で「前に仕事で海洋プラスチック問題についての記事を書いたことがある」と伝えたからかもしれない。

Fidraからは土壌学者のJさんが来られていた。

Jさんは、ペトリ皿に入ったワラジムシやミミズやムカデ(生きてる)、さらには犬のうんちを模したおもちゃなどを並べ、小さな実験室を作った。

おもちゃを嬉々としてこねくり回す子供たちに対して(こういうのが好きなのは万国共通なんだなと思った)、排泄物や死体がワラジムシのような分解者によって豊かな土壌に還るプロセス、それがまた食べ物を育み、食卓に届くという循環の話をした。そしてその循環の中にプラスチックが入り込んでいるという話に引き込んでいた。
ガーデニングを趣味にしているような人に対しては、「よい土とは」という共通の話題をフックにして話をしていた(英国にはガーデナーが多い)。

マイクロプラスチックの話を進めると、人々の顔がだんだんと曇っていく。まだ具体的な健康被害こそ明らかになっていないものの、それが体に良くはないことはイメージできる。だからって、安くて軽くて衛生的なプラスチックをなくすのは並大抵のことではないし、すでに自然界に放出してしまった量だって無視できないし。廃プラの回収システムを作ったり使用量を抑制したりと、すでに対策が始まっているが、色々な観点から難しい問題なのである。

それでもJさんは、学者という立場から向き合い続けている。

ペトリ皿を這い回るムカデを見ていたキッズに、
「さあ、この子に名前をつけてあげて。」とJさんが語りかけた。

「クローリー。」

「いい名前!クローリーはね、何をしてくれているのかというと・・・」

政策を動かすのは科学者だけではない。だからこそ、市民と対話を重ねていくことが大きな力になる。Jさんからそういう姿勢を学んだ。



スコットランドの磯で子供たちと一緒に遊ぶ

実際に生き物と触れ合う磯の観察会も手伝った。というか、キッズたちと一緒になって遊んだ。

引き潮のタイミングでたくさんの水たまりができた岩場(いわゆるタイドプール)で生き物を探し、やさしく捉えてバケツに入れ、最後に海鳥センターのスタッフがそれぞれの解説をしてくれる。生き物の勉強になるし、海の環境をよく知る大人の目があって安心だから、親たちにとっても嬉しいのだろう。毎回上限人数まで親子で参加する人気のイベントだった(もちろん大人だけでも参加していい)。

ここがフィールド


ボランティアなので専門的な知識はなくてもいいから、と言われていたけど、子供たちが見つけてくる生き物の名前が何なのかぐらいは知っておきたいので、小さなハンドブックを買った。生き物は好きだけど、英語で名前を言えるかというと話は別なのだ。

「これは何?」「これは?」
Hermit Crab(ヤドカリ)だよ、Beadlet Anemone(ウメボシイソギンチャク)だよ・・・あ、ハゼがいるよ。
やっぱり、こういうときに「詳しい者に取り次ぎます」なんて言いたくないよね。

「これは何しているところ?」
1匹のカニが、数匹のカニに寄ってたかられている。たぶん脱皮直後で、体が柔らかいから共食いの対象にされているんじゃないか。と言いたかったけど英語でうまく説明できず、スタッフに引き継いでもらった。悔やまれる。

豊かな自然とやる気ある市民のおかげで、バケツは生きた標本でいっぱいになってきた。私は、引っ越し途中で巻貝に入っていない裸のヤドカリだとか、すばしっこくて捕まえにくいハゼ類やヨウジウオみたいな、解説しがいのありそうな生き物を集めてそっと標本に加えた。

最後は解説の時間である。バケツの生き物は、それぞれ魚類、甲殻類、貝類、海藻などに分けられて観察しやすいようトレーに並べられていく。ラインナップは日によって若干異なるけど、ボスはそのとき捕まえた生き物や参加者の関心に応じて解説のトーンを変えていて、すごいなあと思った。

けど、どんなに解説が面白くても、どちらかというと話を聞いているより自分で見識を広げたい子だっているのだろう。
解説を後ろの方で聞きながら参加者の人数を数えていると、ひとり足りないことに気づいた。慌てて周囲を見回すと、少し離れた岩場でまだ潮溜まりを見つめている女の子がいた。

「レクチャー聞かないの?」
「みて、さっきここに、大きなカニがいた」

私の質問に答えず、潮溜まりからも目を離さない。
ボランティア失格かもしれないけど、まあ、夏休みに豊かな自然を前にして、彼女が見たい自然から無理やり目を背けさせるのはなんか違うだろう。親御さんがこちらに気付いてることを確かめて、諦めてその子と一緒に水の中を観察した。

大きなカニを見つけられたことが、彼女の記憶にうっすら残ってくれたらいいなあと思う。

これは貝

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