“ビール映え”の聖地・名古屋より塩分を込めて
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振り向けば新横浜、気が付けば名古屋
6月19日(水)。
平日ど真ん中の昼下がりに、わたしは東海道新幹線の車内にいた。
周りを見渡すと、白いYシャツに暗色のスラックスというオーセンティックなサラリーマン風の男性たちが車輌を占拠している。
「わたしはエイリアンか。」
ちょうど最新作が公開されたばかりの『メン・イン・ブラック』にこの状況を重ねた。
ちなみにわたしはこのメン・イン・ブラックシリーズを一度も観たことがない。
ジャパニーズ・メン・イン・ブラックもといサラリーマンたちは、格好こそ似通っているものの、その行動は実に多様だった。
寝ている者、資料を読む者、パソコンを操作する者、駅弁を食べる者、同僚と思わしき人と缶ビール片手に談笑する者……。
だが、彼らが皆仕事のためにこの新幹線に乗車しているであろうことは明白だった。
かくいうわたしはどうだ。
スーツ姿でもなければ、パソコンも持参していない。
仕事なんかあるわけもない。
わたしはただ、パロマ瑞穂スタジアムで行われるYBCルヴァンカップのプレーオフステージ・名古屋グランパスvsベガルタ仙台を観に行くだけだ。
なんだろう、このえも言われぬ後ろめたさは……。
ただでさえ小さい体が余計に縮こまった。
でも彼らには分かってほしい。
現地に赴かなければ、わたしはこの試合を観ることができないのだ。
なぜならわたしはスカパー!に加入していないから。
たった数千円のスカパー!サッカーセットに加入せずに、わたしは往復2万円以上をかけて名古屋に向かっている。
絶対に負けられないプレゼン、絶対に負けられない商談があるように、絶対に負けられない戦いが名古屋にあるのだ。
心の中で誰にも伝わらない弁解をし、同時に「DAZN がカップ戦の放映権も買ってくれればいいのに」という愚痴をこぼしながら、わたしは1時間半ほど新幹線に揺られた。
憧れの師匠一家
名古屋グランパスが本拠地とするスタジアムは、豊田スタジアムとパロマ瑞穂スタジアムの二箇所である。
先日のキリンチャレンジカップで日本vsトリニダード・トバゴが行われた豊田スタジアムは、日本で埼玉スタジアムに次ぐ大きさのサッカー専用スタジアムだ。
4万5千人も収容可能で、一部を除き屋根もあり、あの黒川紀章がデザインしたモダンな造りが目を惹く。
しかし、そんな素晴らしい豊田スタジアムにも一つだけ難点がある。
とにかくアクセスが悪いのだ。
名古屋グランパスの本拠地なのに、名古屋市内にない。(名前の通り豊田市内にある。)
「東京ディズニーランドに行ってみたら千葉だった。」くらいの衝撃だ。
遠方からようやく名古屋駅に到着しても、そこからさらに電車に1時間近く乗らなければならず、さらに最寄駅から15分ほど歩かされる。
国内トップクラスの神アクセスを誇るユアテックスタジアムの民であるわたしにとって、この距離は苦行に近い。
一方、今回の会場であるパロマ瑞穂スタジアム(パロスタ)は、陸上トラックがあり、屋根もメインスタンド以外には付いていないものの、アクセスがとてもいい。
3つの駅から歩いて向かうことができ、名古屋駅からの乗車時間はどれも20分ちょっとだ。
そして最寄駅からはたったの徒歩5分で到着する。
この日の日中は気温が30度を超える真夏日だった。
そのため、駅から歩く距離が極力少なくて済むパロスタでの開催は本当にありがたい。
ただ、いくらアクセスがいいと言っても、ほんの数分歩くだけで汗をかくほどの気温と湿度だ。
暑さに少々滅入りながら、わたしはパロスタのメインゲート前広場へと向かった。
メインゲート前広場にはスタジアムグルメのキッチンカーが複数出店されていて、平日にも関わらずなかなかの賑わいを見せている。
わたしはとにかく乾いた喉を潤すべく、グランパスバーというビールやカクテルなどのお酒を扱うキッチンカーの列に並んだ。
選んだのは涼しげなモヒート。
普段ビールばかり飲んでいると思われがちだが、ウィスキーも好きだしカクテルだって飲むのだ。
途中、グランパスのサポーターさんに「もうビール飲んでますか?」と声を掛けてもらった。
後述するが、もちろんこの時点で既にビールは飲んでいる。
ビールクズは伊達ではないのだ。
メインゲート前広場に来た目的は、スタグルを楽しむためだけではない。
グランパスが誇るキラーコンテンツ、今年マスコット総選挙で二連覇を達成したグランパスくんに会うためでもあった。
グランパスくんには家族がおり、試合前などにそれぞれがそれぞれの場所でファンサービスを行っている。
グランパスくんの公式Twitterでは、このようにファンサービスの時間や場所を分かりやすく発信してくれている。
特にアウェイサポーターは、相手クラブのマスコットキャラクターとのグリーティングを楽しみにしている人が多い。
それにも関わらず、不慣れなスタジアムだとどこに行けばいいのか、何時に行けば会えるのかが分かりにくく、結局会えずに終わってしまうことがあるのだ。
アウェイサポーターにも多くのファンを抱えるグランパスくんを擁するクラブだからこそできる、行き届いたホスピタリティだと感じた。
まず初めに会えたのは、グランパスくんファミリーのお母さんグランパコちゃん。
この日は割烹着姿でより「おかん感」が増していたが、水曜日の試合限定のファッションなのだとか。
そういえば去年のリーグ戦のグランパコちゃんも割烹着姿だったな、と思い出して調べてみたが、どうやらわたしは去年も水曜日に名古屋を訪れていたようだ。
とても優しく親切で、まさにお母さんという振る舞いだった。
次に会えたのは、グランパスくんファミリーの子どもたちグランパスくんJr.とグララだ。
グランパスくんより小柄でやんちゃな目つきのJr.くんは、その見た目通りちょっといたずらっ子。
対するグララちゃんは、ファミリーで唯一の真っ赤な体に長いまつ毛、ハート型のおしりという、いかにも女の子の雰囲気である。
だがこのグララちゃん、見た目に反してだいぶエキセントリックなキャラクターだった……。
いきなり走り出したと思いきや踊ったり、急に椅子に腰掛けて休んだり、とにかく目が離せない。
わたしが会場で見ていた限り、ファミリーの誰よりも写真を撮ったりファンサービスを受ける人たちの数が多かったのがグララちゃんだった。
そして最後に会えたのが、一家の大黒柱であるグランパスくんだ。
モノトーンのシンプルな色合いに凛々しい目つき、一見それに不釣り合いのようなコロンとした丸いフォルム。
通称「師匠」と呼ばれるその人(シャチ)に、敬意を込めて挨拶をし、一緒に写真を撮らせてもらった。
圧倒的な存在感。
「これが二連覇の人(シャチ)なのだ。」と思うと、自然と背筋が伸びてくる。
物言わぬその人(シャチ)の佇まいは、師匠以外の何者でもなかった。
クラブのホームページにはグランパスくんファミリーのプロフィールが掲載されている。
グランパスくんは、どうやら(シャチなのに)水が苦手で、ビールと旅行と女の子が大好きらしい。
最後以外、わたしとほぼ同じスペックだった。
もうこうなるとわたしもいつ師匠と呼ばれ出してもおかしくはない。
余談だが、先月対戦した清水エスパルスにもマスコットキャラクターが4人(匹)いる。
写真左からこパルちゃん、ピカルちゃん、わたし、ぽかぽかものはし(静岡ガスのマスコット)、そしてこパルちゃん。
残念ながらメインマスコットであるパルちゃんには会えなかったのだが、ホームページでプロフィールを確認して衝撃を受けた。
わたしはてっきりグランパスファミリーのように、彼らもまた父・母・子どもから形成される家族だと思っていた。
しかし、現実にはパルちゃんとピカルちゃんはカップルであり、こパルちゃんの存在は記載されていなかった。
エスパルスのサポーターに聞いたところ、こパルちゃんはパルちゃんの同居人で、妹的な存在だという。
彼女がいるのに妹的な存在(しかも2人)と同居。
まるでラノベの設定である。
人間界だったら、パルちゃんは確実にクズ野郎扱いを受けるに違いない。
そもそも2人とも名前が同じこパルちゃんという設定の時点で、何か都市伝説的な怖さを感じる……。
続きはwebで
グランパスファミリーとの夢のひと時を終えると、ここからは生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
絶対に負けられない戦いが始まる。
だがしかし、試合については各サッカーメディアのレビュー記事を読んでほしい。
詳しくはここに記述しない。
ただただ、察してほしい。
塩気の強い試合とビール
「塩試合」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
今やサッカーファンの間では日常的に使われるようになった言葉だが、読んで字のごとく「しょっぱい内容の試合」のことを指す。
以前OWL magazine代表の中村慎太郎もnoteで塩試合について熱く語っていたので、その解釈を是非参考にしてほしいと思う。
そのほとんどが、必死に戦っているにも関わらず結果に結びつかない意図しない塩試合ではあるが、まれにしくまれた塩試合というものがある。
例えば、トーナメント方式の大会のグループステージ。
既に決勝進出が決定したチームがあからさまに手を抜き、ただひたすらボールを繋ぐことに終始する試合が、しくまれた塩試合にあたる。
戦略としては決して間違いではないのだが、このような試合をサッカーファンは無気力試合や塩試合と呼んでいる。
記憶に新しいのが、昨年ロシアで行われたワールドカップのグループステージ第3戦だろう。
そう、あの議論を呼んだ日本vsポーランドのラスト12分だ。
日本はポーランドに先制を許すも、同時刻に開催されていた同じグループのコロンビアvsセネガルでコロンビアが得点していた。
これにより、日本とセネガルが勝ち点や得失点差、総得点まで並ぶこととなった。
すると、是が非でもグループステージを突破したいはずの日本が、負けているにも関わらず露骨に攻めることを止めたのだ。
勝ち点・得失点差・総得点が並んだ場合、次に順位を決定する要素はフェアプレーポイントという、カードの枚数などに応じて減点されるポイントである。
日本はこの時点でセネガルにフェアプレーポイントで上回っていた。
そのため、無理に攻め上がることでカウンターを受け失点したり、それを食い止めるためにファウルを与えてカードを提示されるリスクを減らそうとしたのだ。
一方のポーランドもほぼグループステージの敗退が決まっていたため、バックラインでたらたらとボールを回す日本に攻め込んでくることはなかった。
この結果日本は0-1で敗戦するも、見事グループステージを2位で通過し、決勝トーナメントへと駒を進めたのである。
策士・西野朗。
いや、勝負師・西野朗と呼ぶべきだろう。
しかし、この試合の残り12分の内容自体は、控えめに言ってもつまらなかった。
容赦なくスタジアムから浴びせられた大ブーイングが、この試合のお粗末さを物語っていた。
スタジアムでビールを飲みながら試合を観るという、サッカーファン万国共通の楽しみさえ台無しにする塩試合。
「飯が不味くなる」とはよく言ったものだが、塩試合では「ビールが不味くなる」のだ。
なお、誤解のないよう念のため記述しておくが、今回の試合は全くもって塩試合ではなかった。
シンプルに完敗であった。
塩気の強い食事とビール
味噌かつ、土手煮、味噌煮込みうどん、手羽先、ひつまぶし、きしめん、天むす、味噌おでん、台湾らーめん、スガキヤ、あんかけスパ、エビフライ、小倉トースト、ういろう……。
ぱっと思いつくだけで、名古屋のご当地グルメはこんなにもある。
東京でも食べられるものもあれば、なかなかお目にかかれないものまで、ありとあらゆる美食が揃っているのが実は名古屋なのだ。
しかし名古屋飯の特徴として、八丁味噌を多用した濃くて甘じょっぱい味付けというのが挙げられる。
実は数年前まで、わたしはこれらの味付けの名古屋飯が苦手だった。
濃過ぎる、しょっぱ過ぎる、甘過ぎるという、○○過ぎるのオンパレードで、味に繊細さを感じなかったし、何よりみんな同じような味に思えていた。
そんなわたしの凝り固まった偏見を変えてくれたのがビールだった。
言わずもがなだが、アルコールには塩気のある食べ物が合う。
居酒屋メニューは基本的に濃い味付けだし、中には塩を舐めながらお酒を飲むという通もいる。
塩気の強く濃い味付けの名古屋飯こそ、ビールに最適の組み合わせなのだ。
わたしは名古屋にビールに合う食べ物を探しに来たのだ。
case.1 台湾ラーメン
台湾ラーメンは今や名古屋を代表するご当地グルメの一つであり、全国の辛党の人々に愛されているラーメンである。
ひき肉・ニラ・もやしなどの具材を大量のニンニクと唐辛子で炒め、濃いめの醤油ベースのスープとともに麺にかけたものがそう呼ばれている。
名古屋が発祥であり、台湾には存在していない。
今回は台湾ラーメンのお店として最も有名で、生みの親とも言われている味仙に、名古屋駅到着後まっすぐに向かった。
辛い。
とにかく辛い。
辛党のわたしでも辛いと感じるくらいなので、苦手な方はなかなか食べ進められないかもしれない。
スープの熱さがまた辛さに輪をかけるのだ。
思わずビールを流し込み、インドカレーにおけるラッシーのような飲み方をしてしまった。
しかし表面上の辛味に慣れてくると、次第にこの辛味に奥行きを感じ始める。
担々麺ほどこってりではないが、粗めのひき肉から溢れる旨味とコク、そしてガツンとくるニンニクの風味が後を引く。
しかし、本当に辛い。
水の持ち込みが禁止された中東のスタジアムで、90分戦い終えてようやくありつけた水のような、そんなビールの有り難みを感じさせてくれるラーメンだった。
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