短編小説「テンペラ」
ウタの母には1人、小さな友達が居た。彼女の住む一軒家からは参道を挟み、斜向かいにある低層マンションに越してきた男の子だ。彼は、紫色をした帆布製のランドセルを背負っていた。それは市内にある私立学校の指定品だった。ウタも、いずれかは、その学校へと進学させる予定だった。しかし、ウタはもう居ない。水難事故だった。紋章のワッペンが付いた紫の鞄に名前を探した。見つけられたものが、持ち主の名を示していなくとも構わなかった。誰の、どの名前でも良い。ハンドバッグにはよくお揃いの名前が刻まれてい