バットマン助けて!招かれざる珍客
(画像、閲覧注意!苦手な方はご注意ください)
私がいるSyracuseはNY州の北部にあります。マンハッタンからは電車やバスで5時間以上、離れていて、車で2時間も走ればカナダがすぐそこに。「ニューヨーク」という言葉のイメージからは対極にある、湖や丘が広がるのどかな自然が魅力です。
でも自然が豊かなゆえに、時には思わぬ出会いに翻弄されることも…。
1~2月のSyracuseは厳しい寒さが続きます。気温はマイナス20度程度まで下がり、連日積もる雪はカチンコチンに凍ります。時たま晴れ間がのぞけばあっという間につららが登場し、家々の屋根から鋭い剣先のようにぶら下がっています。
そんな冬のとある日曜日。友人と外出を楽しみ、日も暮れてから帰宅しました。
「一日遊んじゃったし課題をやらなきゃ。でも寒いから、先にシャワーかな」。
段取りを考えながら室内に入った瞬間、足が止まりました。目線の先、グレーの床の上に、見慣れない黒い物体を確認したからです。キッチンの冷蔵庫の目の前、小さな長方形で…手、足がある!? 四肢?!をびよーんと四方に伸ばし、うつぶせでぐったりしている。
「え…何これ。生き物?!」
もちろん、出かける前には影も形もありませんでした。
一見、うつぶせに平に伸びたカエルのよう。しかし、黒く平たく丸みの少ない長方形の体は、カエルとは明らかに違います。私の本能が「今まで遭遇したことのない生物だぞ」と、ぴかんぴかんとシグナルを送ってきます。
「もしやこれ…コウモリ?でもなんで我が家に!?」
外は常にマイナス10度の極寒。窓は全部閉めているし、一体どこから入ってきたの?!
何よりもまず、君をどうしたらよいのよ?コウモリって危険な病原菌をたくさん持ってるんじゃなかったっけ。
微動だにしない物体。私も見つめながら硬直したまま。もう死んでるかも?と、試しに防虫スプレーを吹きかけてみたら、ぴくっと動く!そして、四肢を動かして床の上をのそのそと這いずり回り出した!そのままキッチンから隣のバスルームへと移動していく!
「きゃあー、やめて!!」
我が家に病原菌をばらまかないで!もうパニックです。どうしたらよいか思いつかず、慌てて近所の友人何人かに電話しました。電話に出てくれた友人に「お願い!助けて!コウモリが家にいるの」とSOS。
「は?コウモリ?」と戸惑う反応に追いかぶせるように「いいからとにかく今すぐ来て!」。
その間も黒い物体はのそのそと、結構早いスピードで床の上を這いずり回りまくる。その姿を見失わないように、でも反撃されるといやなので近づきすぎないように距離を保ちながら追いかける。やめてー、いろんなものに触らないで!でもコウモリならなぜ飛ばないんだろう?
10分後、ようやく大学院の友人が来てくれました。
「武器を持ってきた」と見せてくれたのは、スーパーのビニール袋に防虫スプレー。それ、うちにもあるし全く同じこと考えていたよ…大丈夫かな。
床の上にいる“そいつ”をみて、彼は「なんか入れ物ちょうだい!ふたがあるやつ!」。それで生け捕りにするつもりらしいです。
戸棚にあった大きな蓋つきのタッパーを渡しました。彼は左手に容器、右手に蓋を持ち、まるでローマ時代の戦士のような恰好で、相変わらず床の上を這いずり回るそいつをゆっくりと追いかけます。そいつが逃げ場を失って動きが止まった一瞬を狙い、左手の容器でそいつをとらえ、すかさず右手の蓋をかぶせて退路を断ちました。捕獲成功!
と同時に、彼はくるりと回れ右。「ドア!」と叫ぶので、私がぱっと玄関ドアを開けると、容器を抱えたままダダダッとアパートの階段を下りていき、前夜から降り続き1メートル近くも積もった雪のなかに「えいやっ」と投げ捨てました。黒いそいつが、真っ白な雪山の中にズボッと埋もるのが見えました。
そいつがいなくなった空の容器は「どうするの、これ」と返されたけど、とても使えない!そのまま、雪山の隣にあったゴミ箱に投げ入れました。
友人が来てから一連の作業が終わるまで、5分ぐらい。あっという間の出来事でした。でも、私も彼も、恐怖と緊張で「はあはあ」と荒い息を繰り返すばかりです。厳しい寒さも感じないほど、必死でした。
「飛んでないコウモリを初めて見た」と彼に言ったら、「俺だってコウモリを退治したのは初めてだよ!」だって。そんな怖かったのに、来てくれて本当にありがとう!
でも、本当に大変だったのはその後でした。そいつはいつから我が家にいたのか?どうやって入ってきたのか?家の中ではどこを触ったのか?コロナも含め多くの病原菌を持っているとされるコウモリ。触ったとこ、全部拭かなきゃ~!!
彼の行動経路を追跡し、タイルや床は二度、消毒液で念入りに吹きまくり、マットなど布系は即、洗濯しました。どうやら飛行はしなかったようなので高いところは平気かもしれないけれど、それならなおさらどうやって侵入したんだろう。
大家にも即座に「コウモリがいた」と報告しました。週末だったけどすぐに返信があり「よくあることではないけど、たまにある」と言われました。そうなの?私はたまたま遭遇しちゃったってこと?
「彼らの侵入経路に心当たりある?」と聞かれたので、そういえば壁にある暖房の吹き出し口の扉が外れている、とか、上階とつながっているお風呂場のパイプが、天井から出ている部分に隙間がある、サイズ的にこれらの可能性があるのかも、と伝えました。いずれも入居時からその状態でしたが、特に問題と思わなかったのでそのままです。「明日、さっそく修理担当者に行かせるから」ということになりました。
翌朝8時。ノックの音で起こされました。やってきたのは修理担当の男性二人で、開口一番、「コウモリが出たんだって?」。
寝ぼけ眼のまま呆然と対応していたら、「コウモリはこの時期冬眠しているはずだから、出てくるのには二つ理由がある。子育て(家族づくり)をしてるか、病気かのどちらかだよ」とさらっと言われて、一気に目が覚めました。
ちょっと待って、子育て?!我が家で家族を増やしてるってこと?!ええーっ、絶対やめて!全員すぐさま見つけ出して!!と、一気にヒートアップしぷりぷり怒る私を見て、おじさまには「大丈夫、落ち着いて、家族(コウモリのね)もいないってチェックしたから」となだめられます。え、いつチェックしてもらったっけ…?
それでも、無防備に空いていた暖房の吹き出し口と、上階とのパイプの穴もきっちりふさいでくれて「もうこれで大丈夫だよ」と対処してくれました。あっという間で雑な感じだけど、少なくともコウモリの侵入阻止には効きそうです。
彼らの話によると、私がコウモリを見た前日、上階の住人が部屋でコウモリを発見したものの見失ったそうです。大家らと「そいつは絶対見つけなきゃだめだ」なんてやり取りをしている中、おそらくパイプを伝って下階の我が家に降臨してきたのだと思われます。そいつはおそらく病気で、飛ぶ元気がなかったのが幸いしたのか、行動範囲も狭くて掃除や消毒範囲も少なくて済みました。でも、元気なコウモリが家に侵入してきた場合は、専門機関が駆除や消毒をしたり、万が一触れたりしたら病院に行き検査を受けたりする必要もあるそうです。
私が住んでいる家は築100年近く、きれいにリノベーションはされていますが古さは否めません。とはいえ、コウモリとシェアハウスはいやだなあ…
Syracuseに来てから、確かに野生の動植物、広大な自然は満喫しています。家の周りにはウサギやシカ、アライグマがうろちょろし、プレーリードッグのような動物を見かけたことも。
リスはもはや、人間よりもよく見かける存在です。常にあちこちにいて、人間がいてもお構いなしに突進してきたり、身近で自由に遊んだりしています。東海岸(しかも北の方)しかいないという全身真っ黒のリスはなかなか狂暴度も高く、一度は網戸越しに我が家に侵入を試みられたことがあり、とても怖かった。網戸にしがみついてガシャガシャと揺らし、部屋の中に押し入ってこようとしたのです!この目、やめてー。
人間の侵入者も絶対嫌だけど、動物も怖いなあ。自然とともに生きるだいご味?を心底味わった一日でした。
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