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黒い犬 初夏 ベルリン

だいぶ暖かくなってきました。
日によっては、初夏を思わせるような陽気です。

日本の春は三寒四温と言いますが、
ドイツの春は七寒三温くらいでやってきます。

もう初夏かな、と思えるようになれば、
やっとコートもしまって大丈夫、といった具合です。


もうひと月ほど前のことになりますが、

陽気もいいので散歩にでると、
もう数年来、なにかとお世話になっているお隣のお姉さんに道でばったり。
初めて見るスラリとした黒い体にクリクリの目を持つかわいらしい犬を連れていました。

お姉さんは笑顔で、
「しばらくの間、こっちに来ている友人の犬を預かることになって」と。

黒くスラリとしたその子は、
こちらが声をかける前に、初対面の私を見つけて走り出し、
全力でなでられに来てくれたので、
こちらも全力でなでかえしながら、

「どこから来たの?」と尋ねると、

お姉さんが笑いながら、
「ウクライナから」と答えてくれました。

「そうなんだ、長旅だったね」と言って、
首のつけ根をぐりぐりもんであげると、
気持ちよすぎるのか嫌なのか、ぶるんぶるんと身を振るいます。

笑顔が素敵なそのお隣さんは、ロシアから来た人です。


近頃のドイツの美術館の展示室には、
英語とドイツ語のほかにもう一つ、
みっつめの作品紹介文の書かれた紙が置かれています。

中国語かな、と思って見たら、
そこには平易語と書かれていました。

それは言ってみれば、まぁドイツ語なのですが、
平易に書いてあるテクストで、
小学一年生がほとんどひらがなだけで書いたような、
そんな文章です。

一瞬、子供用かな、と思ったそのすぐ後に、


そっか、と。


私が住むベルリンは、たくさんの外国人が住む街です。

もちろん私もそのうちの一人なのですが、
街を歩けば、いろんな種類の言語が聞こえてきます。

いろんな人がいるな、と思い、
いろんな人がいていいんだな、と思えることはなんにせよ、気が楽です。


先日、台湾の友人と久しぶりに会って食事をしていた際、
「最近の中国との関係についてはどう?」とおもむろに聞いてみると、
彼は大きく口を開けて笑いながら、
「最近もなにもないもんだよ。まぁ、今に始まったことではないからね。」と。

彼は続けて、
「僕にも中国人の友人がいるんだけどね、彼らは決まって言うんだよ。
どのみちいずれ台湾は中国の一部になる日が来るんだから、って」。

「へぇ、それでなんて答えるの?」

「決まってこう言うんだ。
いやいや、いずれ中国だって台湾の一部になる日が来るんだから、と。」

それを聞いて私はおかしくって大きな口を開けて笑いましたが、
彼がおかしかったのかはわかりません。
ただ彼は私に笑ってほしかったのだろうな、と、そう思いました。


友人が難民支援の団体で働いており、最近の仕事の話をしていたので、
相槌のつもりで気軽に「ウクライナ人?」と聞いてみたら、
友人は少し真面目な顔でこちらを見て、

「ウクライナの人もいる。
でも、私の仕事は難民のための仕事であって、
特定の人種に限った仕事ではない」

と言われてしまいました。

ふむ、私はいい友人を持ったな、と思いました。


これから初夏の気持ちの良い季節が始まります。

誰もが夕日でも見ながらビール瓶を片手に公園で乾杯、といった季節です。







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