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魔力に浸る音楽 -名盤『レッド・ツェッペリンⅣ』の凄み


【金曜日は音楽の日】
 
 
ここではない、遠い場所からの力を感じること、それは音楽の醍醐味の一つだと思っています。
 
そんな、遠い異界の魔力を感じるアルバムの一つが、ハードロックバンド、レッド・ツェッペリンの1971年のアルバム、通称『レッド・ツェッペリンⅣ(フォーシンボルズ)』です。
 
『天国への階段』という、ロック史上に残る名曲を擁し、語り尽くされた感もあるこの大傑作ですが、改めて聞くと大変面白く、何度聞いても飽きないアルバムです。


レッド・ツェッペリン




一曲目の『ブラック・ドッグ』は、ボーカルのロバート・プラントのシャウト一閃から始まります。ギターのジミー・ペイジの、ぎくしゃくした素晴らしいギターリフが導く、不思議なグルーヴのハード・ロックナンバー。


二曲目の『ロックンロール』は、その題名通り、曲自体は、オールディーズ的なロックンロール・ナンバー。

しかし、ジョン・ボーナム(ボンゾ)のドラム、ジョン・ポール・ジョーンズ(ジョンジー)のベースのリズム隊が重く、高速のため、懐古的な調子の全くない、パワフルかつキャッチーな曲になっています。




このハードで熱い二曲が続いた後、マンドリンとアコギのエコーのかかった響きから、『限りなき戦い』が始まります。

ブリティッシュ・フォークの女性歌手、サンディ・デニーをゲストに迎え、ファンタジックな中世の、森の中の戦争を思わせる叙事詩が、見事な掛け合いで歌われます。

その響きに導かれるように、哀愁漂うアルペジオから『天国の階段』になります。
 
天国への階段を買おうとする不思議な貴婦人について、ゆっくりと歌うアコースティックな調子から、段々と色づき、加速する。最後はハードなギターリフとシャウトで締める、8分にも及ぶ一大抒情ナンバーです。




ここまでがレコードで言うところのA面。たった4曲なのに、ぎっしりと詰まったパワーがこちらに伝わります。
 
ハードな二曲の後に、アコースティックなナンバー、そして、最後はその二つが融合し、アコースティック調から、再びハードに戻って締める、という緩急のついた流れが素晴らしい。




そして、この流れは、B面でも踏襲されます。『ミスティ・マウンテン・ホップ』と、『フォア・スティックス』は、奇妙な不協和音の電子ピアノや変拍子のリフが取り入れられた、エキゾチックで重たい高速ナンバー。
 
A面冒頭の二曲に比べてキャッチ―さには欠けるので、そこまで人気はないですが、この「ハードな疑似中近東民族音楽」とでも言いたくなるナンバー、私は大好きです。
 
続くのはアコギ調の『カリフォルニア』。『限りなき戦い』が、ブリティッシュ・フォーク風だとしたら、こちらはアメリカのシンガー・ソングライター風。不思議に神秘的な雰囲気で、歌われるのはジョニ・ミッチェルをモデルにした少女というのも納得です。

 


そして、ラストを締めくくるのは、『レヴィー・ブレイクス』。1920年代の名ブルース歌手メンフィス・ミニーのブルースをラストで一番ヘヴィに奏でます。

特にボンゾのドラムの響きは、全てを揺るがす轟きに満ちています。空間を漆黒の闇に染め上げるかのようにして、アルバムは幕を閉じます。




このアルバムの、特に『天国の階段』の歌詞については、『指輪物語』を始めとするファンタジーや黒魔術の影響を指摘されてきました。曖昧で、色々と解釈ができるため、ファンの熱い議論の対象になっています。
 
ジミー・ペイジを始めとするメンバーが、黒魔術にはまっていたのは事実です。それゆえなのか、このアルバムにはそもそもタイトルがなく、4つの不思議なシンボルがあるだけ。『レッド・ツェッペリンⅣ』や『フォー・シンボルズ』は通称です。
 
このアルバムを逆再生したら、黒魔術の呪文が聞こえるという都市伝説すらありました(公式が「このアルバムは通常の再生を想定している」とアナウンスしています)。
 
しかし、この作品の素晴らしさは、そうした歌詞だけでなく、音楽全体がある種の「魔力」のトーンに貫かれているところだと思っています。




つまり、ここで魔法の素材になっているのは、ブリティッシュ・フォーク、アラブ音楽、ブルースといった、どこか遠い過去から続いてくる、現代と違う時代を想起させる、呪術めいた音楽です。
 
それらをぐつぐつと煮込んで、濃く深い魔力の味をロックンロールに染み込ませたのが、このアルバムだという気がするのです。


アルバムのジャケット。
ペイジが古書店で見つけた絵画を基にしている




魔力の秘訣とは、曖昧であること、現在と遠く離れたエキゾチズムがあること、そして荘重であることです。
 
最後の要素については、例えばある種のヘヴィ・メタルや、ゴス、ハードロック等、ツェッペリンの影響を受けたバンドにも見出せます。
 
しかし、エキゾチズムについては、インドや中近東、イギリス古謡とブルースとここまで時空間が幅広いアーティストはそうそういません。
 
一部のヘヴィ・メタルのバンドと違って、西洋のクラシックの影響をほとんど見いだせないのが、ツェッペリンの濃密なエキゾチズムを表しています。




そして、ツェッペリンの独自性は、実はその曖昧さのように思えます。特にハードロックではなく、アコースティックな曲調になった時。
 
『限りなき戦い』や『カリフォルニア』の、常に霞がかかっているような深いアコギの響き。プラントのシャウトと暗い呟きの交差と謎めいたエコー。

ここまでオブスキュアな響きのフォーク音楽は、かなり稀な気がします。音だけでも幻想的なサウンドスケープになっています。



 
そして、そのオブスキュアさは、エナジーに満ちているハードロック部分にも影響を及ぼしていているかのようです。
 
『レヴィー・ブレイクス』の、空間をのたうち回るギターや、『フォア・スティックス』の突如入る摩訶不思議なメロディ等、通常の音階では説明しきれない異様な響きがあります。それは、ツェッペリンの曖昧さへの志向のように思えます。




ギンギンのハードロックのバンドでも、アコースティックなナンバーが入っているアルバムはあります。しかしそれは、アルバムの箸休めというか、気分転換のようなものになる場合が多いです。
 
ツェッペリンの場合は、アコースティック・ナンバーでも、深くヘヴィで曖昧なトーンが、常に一貫しています。

そこにあるのは、古来の音楽に浸され、曖昧で理性では説明できない異様な響き。それがつまり、人をここではない異界へといざなう魔力なのでしょう。
 
一度、まっさらな頭で、このロック史上の名盤を聴いてみると、そんな新しい魔の魅力が見出せるかもしれません。是非、その黒い力を何度も体験いただければと思っています。



今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイでまたお会いしましょう。


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