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ローマにある、歴史の玉手箱。Palazzo Massimo - n.1

今回は、ローマに移動します。

車、バイク、バスの騒音が鳴り響く雑踏としたローマ市テルミニ中央駅の前に、風景として馴染んている、立派な建物があります。

マッシモ邸宅、ローマ国立博物館です。

参照:Wikipedia

ローマの観光といえば、コロッセオ、バチカン美術館、トレビの泉、スペイン広場、パンテオン、ナヴォーナ広場と、枚挙にいとまがありませんが、紀元前まで遡る珠玉の作品が、ローマ国立博物館に展示されているのをご存知でしょうか。

今回は、たまに訪れては、感嘆をもらしつつ、恍惚に浸る、お気に入りの場所、ローマ国立博物館マッシモ邸宅へとご案内します。

1800年代後期にイエズス会の寄宿学校として再建され、その後1981年に国が購入し、美術館として正式に開館したのは1998年と、比較的新しい美術館です。

トーガの襞のディテールも素晴らしく、
筋肉オタクのミケランジェロを凌駕する、
美しい肉体美。

3階構成になっており、それぞれの階は8〜15部屋で区切られているので、かなりボユームがあります。

女性の頭像は、そのときどきの流行のヘアスタイルを見ているようで、楽しいです。巻いたり、おでこを上げたり、結んだり、ヴァリエーションが豊富で、いかに女性達がおしゃれに気を遣っていたのかが分かります。

古代ローマの彫刻といえば、映画「テルマエロマエ」のような、大理石の彫刻を思い浮べますが、代表はやはり初代ローマ皇帝アウグストゥスでしょう。

ラビカナ街道のアウグストゥス
見よ、この足元。
足の指の感触がわかるようです。
すごい表現力。

回廊に何気なく展示されているけど、みんなが立ち止まるミクロモザイクの作品。猫が鳥を捕まえている場面で、床面の装飾だったようです。紀元前1世紀に作られたものですが、猫の毛の色合いも、昔も今も変わらず、猫はやっぱり猫でした。

彫刻を鑑賞しつつ、次なる部屋へ歩を進めると、強烈な彼の横顔が目に入り、動けなくなります。

彼の名は『座るボクサー(Pugile in riposo )』。顔も耳も傷付き、あてもなく遠くを見つめる姿は、その場にいて、生きているようです。

紀元前4世紀頃の作品と言われており、ギリシャ時代のブロンズ像です。ここまで完璧な状態で、しかも、ブロンズ像が、いまの私たちの時代にまで残るのは、万が一の奇跡でしかありません。

ブロンズ像は熱で溶けるので、戦争が起きれば兵器になり、時には貨幣に再利用されてしまうからです。

難破した船が海底で見つかり、海底の中に埋もれた状態で、偶然に発見されるブロンズ像もあります。

この座るボクサーは、イタリア大統領官邸であるクイリナーレ宮殿の近くの、古代ローマ時代の建物の土台の中から見つかりました。1885年2月のことです。

地面から6メートル掘ったところで、ドリア式の柱頭に座った姿で発見されたのです。

右側に座っているのが、彼。

びっくりですねー。おどろきですねー。
発見した人も、さぞ腰を抜かしたに違いありません。

まさか、ローマ中心街に、こんなお宝が何世紀も眠っていたなんて、誰が想像するでしょうか。

1500年以上も、土のなかに埋もれたままでいたボクサー。頭上では、古代ローマの栄枯盛衰、中世時代、ルネッサンス、産業革命、現代と時代が動いているのに、彼は、紀元前の姿そのまま、ずっと地中に存在していたんです。

いるけど、いない。ないけど、ある。目に見えるものだけが、見えているものすべてじゃない。もしかしたら、まだ、地中に眠っている像があるかもしれません。まるでタイムスリップした感覚です。ローマという街の厚みにも驚きます。

目は紛失してしまいましたが、象牙か貴石で作られていたようです。ブロンズは、銅、スズ、鉛が、80:10:10の割合で配合されているようで、殴られ傷ついたところは、銅を使いオレンジ色で表現しています。

もしこれがルネッサンス時代に発見されていたら、ミケランジェロを筆頭に、多くの芸術家に多大なる影響を与えたことでしょう。

あまりにもリアル過ぎて、実際に本物のボクサーが目の前にいるような錯覚を覚えます。昔「あしたのジョー」という漫画があり、リングのコーナーに座った、燃え尽きたジョーのシーンと重なってしまいます。

無言でじっと空を見つめるボクサー。ひとつの作品とは頭では分かっていますが、彼の切ない気持ち、やるせない気持ち、諦めといった感情が、体の全体から溢れ出ていて、心を鷲掴みにされます。

これほどまでに、見るものに感情を起こさせる作品は稀です。座るボクサーを見るためだけでも、訪れるに値する博物館です。

ですが、ここで終わらないのが、マッシモ邸のすごさ。

ポルトナッチョの石棺(Sarcofago di Portonaccio)と呼ばれる、紀元2世紀の作品。

発見されたのは、これまた新しく1931年。やはりローマ市で見つかりました。照明の落とされた暗めの小部屋に、この石棺のみが展示されていて、戦闘のシーンが浮かび上がってきます。

下準備なしに「ちょっと入ってみようかな」という軽い気持ちで足を踏み入れ、この石棺と出会った時のことを、いまでも覚えています。二の句が継げず、まるで雷に打たれたような衝撃でした。

戦いもがき、体をひねり、倒れ、横たわる戦士たちが、隙間なく埋め尽くされ、戦士の声や、馬の鳴き声が聞こえきそうな、臨場感に圧倒されます。

大きな大理石の塊に、ノミを打ち、勝者や敗者の戦士を丁寧に彫って行く作業を何度も繰り返し、完成された石棺。埋葬されたのは、戦争の猛者であり英雄として名を馳せた人物なのでしょう。

暗闇のなかで長椅子に座り、目の前の石棺とじっと対峙していると、古代ローマ時代に引き込まれて、なかなか抜け出せなくなります。

ここでちょっと小休憩。楽しい作品を案内します。

半人半馬のパッポシレーニ。ワインの神ディオニュソスを教育する、年老いたシレーニ。

ワインの神様の先生だけあり、大理石だから色はないけど、赤ら顔なのが想像できます。目尻やおでこのシワまである。

お腹がぽっこり出ていて、服の装飾も凝っています。

眉が上がって、目が大きくて、お髭を生やした、こんなイタリア人、いまでもいそう。彼もパッポシレーニ。

足元は、毛皮のタイツを履いています。

古代ギリシャ時代に上演された悲喜劇のひとつが、サテュロス劇。主役はサテュロスで、ディオニュソスの教師である、パッポシレーニも欠かせぬ登場人物。2体も展示されているということは、人気のある劇だったのでしょう。

こちらは、すごい姿勢です。曲芸をするアフリカ少年。よく見ると口元にストローみたいのが出ていますが、なぜかと言うと、噴水として使われていたからです。

ライオンの毛皮を着たヘラクレス。身につけている毛皮、めくれた毛皮、むき出しになった肌の三層は、大理石のブロックから彫り出されているはず。

「これって、ルネッサンス時代じゃなくて、ギリシャや古代ローマ時代の作品だよね」と、何度も、自分に言い聞かせます。

正統派の円盤投げをするアスリート。贅肉がひとつもない、素晴らしい筋肉美。

『健全な精神は健全な肉体に宿る』と言われ、ジムに通い、筋肉を鍛えるために切磋琢磨していた古代の人たち。ゆえに、裸体像も多いのです。

博物館に展示されている作品は、紀元前とか紀元1〜2世紀とか、そんな時代に作られたものばかりです。卓越した技術、表現力、ユーモアのセンス、抜群です。

もう少し、案内したいお部屋がありますが、長くなるので、ここで一旦休憩しましょう。次回は、美しい楽園へとお連れします。

最後までお読みくださり
ありがとうございます!
次回もマッシモ邸でお会いしましょう。


Museo Nazionale Romano
Via Sant'Apollinare, 8 - 00186 Roma
火曜日〜日曜日 11:00〜18:00

切符:8ユーロ
1枚の切符でTerme di Diocleziano、Palazzo Altemps、Crypta Balbi、Palazzo Massimoの4箇所を訪れることのできるタイプは1週間有効で12ユーロ。



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