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職人であり、職人に憧れる。ゾウガニスタ 望月さんの物語。 - n.2

フィレンツェで唯一、木象嵌細工を専門とする職人、望月貴文(Takafumi Mochizuki)さんにお話しを伺っています。今回は第2回目です。

短期留学の予定だったフィレンツェ滞在。が、予定は未定。

運命的な師匠との出会い。さらには、彼の運命を決定づける木象嵌の存在。

共同で家具の修復を行う間に、師弟関係は、少しづつ二人三脚の体を成して来たことでしょう。

日本に帰るべきか、帰らざるべきか。

目的を見つけてしまった人が、必ず通る関所です。

さあ、どうする望月さん!

工房を構えたのは、フィレンツェに腰を据えようという決意があったからですか?

学生の滞在許可証が切れるタイミングで、それまで何年も出てなかったフルッシがでたんです。

2007年にフィレンツェに来て、2013年にフルッシで Partita Iva(付加価値税登録番号)を開いて、2014年に工房を開けました。

フルッシとは、イタリアに滞在する外国人が正規で働けるように、労働ビサに簡単に書き換えることのできるシステムで、出身国ごとに人数制限が設けられています。かくいう私も、フルッシで労働ビサに書き換えたひとりです。

4年間は学生ビザで続けて、これからどうしようかなと思っていた矢先のフルッシで、試しにやってみようと思ったら、通ったので。

労働ビサに書き換えができなかったら、帰ろうかと思っていました。実際に周りの友達とかも帰っていたんで。

保証なんてまったくないし、何年かぶりでのフルッシだったんで。

しかも!

望月さんが登録予定の職業カテゴリー「木象嵌専門家」は、すでに登録している人がいなくなってしまっており、フィレンツェでは登録抹消状態だったのです。

八方塞がりのなか、望月さんはどうしたのでしょうか?
望月さんのnoteから一部抜粋します。

『どうしたものかと話をしつつ、常に持ち歩いていた作品集のようなものを見せていると、別の担当者がそれを見て、祖父が木象嵌職人だったことを語り始める。「私がなんとかするは!」という事になって少し時間はかかったもののカテゴリーを復活させてくれて無事登録完了。

望月さんの想いと、たまたま居合わせた役所のスタッフの想いが繋がり、フィレンツェ唯一の木象嵌職人が誕生した瞬間です。

工房名は「ゾウガニスタ」

zougan(象嵌) 
+
~ista(イタリア語で専門家の意) 

= zouganista(ゾウガニスタ)

単に言葉を合わせるというだけではなく、日本とイタリアの技術的なことや感覚的なこと、文化なども合わせたモノづくりをしたいという意味合いも込めています。

望月さんのnoteより

工房を開けたのと同年の2014年に、コルシーニ家が開催する職人展示で、35歳以下の若手職人10名をサポートするブログ&クラフトという新しい部門が設けられます。

応募多数のなか、望月さんは選ばれるだけでなく、この新部門の最初の受賞者となります。

コルシーニ家の職人展示に参加してみて、いかがでしたか?

第1回は本当にレベルが高くって、周りの職人さんもすごい人たち。

あのタイミングは大きかったですね。
あれがなかったから、結構続けるのは難しかったかもしれません。

ここにある道具は師匠から譲り受けたものですか?

いろいろです。大きいものは周りの職人さん。「工房開けるんで、こういうの探しているんだけど。」と話をしたら、

「倉庫に眠っているのがあるけど、使う?」

と、家具修復職人の、おじいちゃんが作ったものを譲ってくれたんです。だから、たぶん1800年代の後半。

これがいまインテリアで流行っていて、システムキッチンやアイランドキッチンとして、電気のオーブンををつけたりして、自分が探していたとき、すごい値段が上がっていたんですよ。

これ買うの大変だな。って思っていたら、そういう方から話があって。

ほかの物も、椅子張り屋さんとか、洋服ダンスの扉とか、ちょこちょこ譲り受けたもの。

アンティック市へ行ったりして、自分でもちょこちょこ集めてます。

作品は商品ですが、自己表現の手段でもありますか? それとも、販売することを前提に考えいてますか?

そこが葛藤ですよねー。

アーティストとアルティジャーノ(職人)、という話しをされる方が結構多いですが、自分のなかではアルティジャーノ(職人)でいたいという気持ちがすごくある。

本当なら、納期を言ってもらって、デザインも投げてもらって。自分は自分の技術を使って製作する。というのが理想ではあるんですけど。

なかなかそうもいかないから、やっぱり、それなりの表現というのをしなきゃ、いまはちょっと難しいかな。って感じているんで、いまはちょっとアーティスト的な要素を自分のなかで作ってはいます。

でも、本来はアルティジャーノ(職人)でやれればいいな。

じゃあ、メディチ家みたいな依頼人がいて、こういうものを作ってくれ。みたいな。

理想はお抱えのアルティジャーノ(職人)。

難しい依頼を受ければ、自分の技術もあがっていくし、でもそれがやっぱり一番難しい時代。

望月さんの思いとは別に、インテリア誌「AD Italia」にて『今のインテリアを変える40歳以下のクリエイター20人』に選出されましたよね(笑)

望月さんのnoteより

難しいですよね。アーティストの要素も出さなきゃいけないので。出さないと、やっぱりいまのこの状況だと、仕事を取ってこれないな。というのがあります。

日本でも展示会を開催しますが、日本は「これっ」て出すと評価をしてくれるんですけど、これがこうやったら、こうなるんだろうな。という、先をみることがなかなか出来ないので、そこの難しさを毎回すごく感じています。

イタリアの場合は逆に、ちょっと見せると、じゃあ、これできる?って提案されることがある。自分を全面に出してくれるので、自分の性格的にはやりやすいです。

日本とイタリアとで反応は違いますか?

作っている過程を見る目と、完成したものを見る目と、見るところが全然違いますね。

質問も違えれば、見るところもぜんぜんちがう。

日本では買いたいという値段があり、モノがあり、バランスが取れているから買いましょうという方が多い傾向にあります。

ストーリーという部分は、自分の作品においては、あまり重視しないことが多かもしれません。

日本でも、東京と京都でも違うし、京都と大阪でも違います。

面白んですよ。こっちが出すのはひとつのことじゃないですか?それに対しての見られ方の違いなんで。

イタリアでも、フィレンツェ、ミラノ、ベニスでも違います。

人により見え方、捉え方が違うのが面白いです。

絵画だと見え方って、人によっても、そんなに違わないと思うんですが、木の表情って、見る人によってぜんぜん違うようで、その余白をちょっと残すっていうのは、テーマというか。

細かく作り込む部分は必ず作って、そうじゃない部分は、木の面白さとか表情とかをみせるようにしています。

インスピレーションの源はどこからきますか?

自分がアーティストじゃない分、アルティジャーノ(職人)と話をするのが、すごく好きで。色々なものを見せてもらって、話しをしているうちに、ここに何かが入ったら面白いな。とか、なんか、そういう瞬間が結構あります。

できると見てもらって。毎回見てもらえる人が何人かいる。こっちの人はシンプルなので、そのまま素直に感想を言ってくれる。

「いいけど。」の『けど』というのが、必ずついていくる。

それは職人さんですか?

師匠をはじめ、イタリア人の職人さんです。

外国人では、おそらく望月さんだけが、フィレンツェ職人協会の会議に出席していますね。

いまでも職人に対する憧れというのが自分のなかにあって。

その方達のなかに自分が入れているというのが貴重だと思うし、やっぱり日本とは違う感覚の、職人としてのポジションだったりとか、そういうのも、すごく特殊なんで、日本でも伝えたいです。

*****
手でモノづくりをするのが職人で、そこにアーティスティックな要素を加えるには感性やセンスが必要とされます。

両方を持ち合わせている望月さんはすごいなぁと、常々感じていたので、理想はお抱え職人とお話しされていて、私はびっくりしてしまいました。

写真でも、木目とか、全体の作品像を把握することはできますが、実際に見ると、もっともっと細かくて、ぐっと作品に入り込みます。

食べ物を口に入れないと、味がわからないのと同じで、体験からくる感動が絶対にあります。11月下旬に東京と大阪で個展が開かれますので、ぜひ、体験をしに、足をお運びください!


望月さんが4年間勤められた家具メーカーAD Core Devise(エーディーコア・ディバイズ)にて、個展が開催されます。工房に伺っていたときに、偶然知りました。なんという、ジャスト・タイミング。

望月さんも会場にいらっしゃいますので、直接にお話しできます。

会場
AD CORE DEVISE ショールーム


東京
渋谷区広尾2-13-2 TEL 03-5778-3341
11月30日(水)〜12月3日(土)
11:00 - 17:00

大阪

大阪市中央区南船場2-6-12 SEDC PLACE 2F TEL06-6265-2060
12月6日(火)〜12月8日(木)
11:00 - 17:00

望月さんのnoteでもご案内しています。作品が出来上がるまでの工程も見ることができますよ!

次回も望月さんの工房にてお会いしましょう。

最後までお読みくださり
ありがとうございました!

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