世界は音に包まれている Part.2
『音の美しさ』の続編です。
世界は音色に包まれている Part.1
美しさとは、調和である。音楽だけど、音楽じゃない。中世時代は音楽をどう解釈して、宇宙、神、人、との調和を図ろうとしたのでしょう。
ロマネスク様式の教会と音楽。
天使が奏でる、天上の音
欧州で、キリスト教が世界の中心となると、神学が生まれます。神学では、天体の調和の観念は、天使の音楽として解釈し直されます。
昇天したマリア様が、天の女王になる、マリア様の戴冠式。大変おめでたいシーンなので、天使楽団が音楽を奏でています。マリア様信仰の厚い国では、欠かせないテーマのひとつ。
フィレンツェもしかり。教会にも、美術館にも、いくつもの絵画が残されていて、必ず、天使楽団エンジェルズが、祝典の歌を奏でています。
上の絵で、体のない天使をみて、ギョッとしましたか?
青い羽根を持つのは、天使のなかで一番偉いセラフィム。顔の周りに6枚の羽根を持っています。赤い羽根を持つのは、二番目に偉いケルビム。顔の周りに4枚の羽根を持ちます。ケルビムの羽根は2枚のときもあり。
天使界には、ちゃんとしたヒエラルキーがあり、体のない天使が一番格が高いのです。
天使ついでに、音楽の守護聖人をご紹介。日本語だとカエリキアという名で呼ばれる、チェチリア聖人。聖女が手にしているのはリュート。
リュートは、天使が奏でるメインの弦楽器です。さらにリュートは、芸術を司るミューズの持ち物でもあります。ミューズから、ミュージアム。「美術館」の名前がきています。
ミューズはギリシャ神話の芸術の神々。天使は聖書に登場する神の遣い。
欧州の歴史を紐解いていくと、紀元前からずーっと繋がっていて、欧州人が価値の置くところとか、美意識の根底には、哲学とか、ギリシャ神話が関わっているだなぁ。と感じます。
さて、話しを本題に戻しましょう。
リベラルアーツと音楽
リベラルアーツと呼ばれる自由七科のうち四科には、算数、幾何学、天文学に並び、音楽も含まれます。この4科目は、芸術を表現するため、教会を建立するため、そして生活の上でも、ジグソーパズルのように、それぞれのピースが大切な役割を果たし、1つの形を成していたのです。
神学の第一人者と言っても過言ではない、1200年代に生きたトマス・アクィナス聖人。『「美」にとって必要不可欠なものは、正しい比率で、そこから調和が生まれる。』と、彼の著書『神学大全』第一巻に記されています。
トマス・アクィナス聖人は、ドメニコ派の御三家を代表する一人。御三家のあと二人は、殉教者ペテロと、ドメニコ聖人。
右側から、聖書を持ち胸元で星が光っているのが、トマス・アクィナス聖人。頭をかち割られて血を流しているのが、殉教者ペテロ。(中央にマリア様と幼子キリスト、長い十字架を手にしているのが洗礼者ヨハネ。)左側で、百合と書物を手にしているのが、ドメニコ聖人。
フィレンツェにある、サンタマリアノヴェッラ教会。ドメニコ派の教会で、スペイン人の大礼拝堂と呼ばれる、回廊に沿った部屋に、トマス・アクィナス聖人を頂点とした、フレスコ画が残されています。
彼を中央に、足元の左側には「聖なる教え」、右側には「リベラルアーツ」が擬人化され描かれています。
フィレンツェの丘の高台にある、サンミニアートアルモンテ教会。ロマネスク様式の教会です。
算数、幾何学、調和(音楽)をベースに設計されています。
正面中央と下部が比率でバランス良く設計されていて、かつ、扉→壁→扉→壁→扉と、同じ寸法で、リズミカルに横に並んでいます。調和とリズム。ロマネスクの音の建築です。
装飾には、幾何学模様が駆使され、天や宇宙を表す円や、大地や地球を表す四角が用いられています。
ロマネスク教会を建立するときに、もう1つ大切なのが天文学。日昇日没の太陽の動きをベースに、主祭壇と正面扉の位置が決められ、内部には、計算された光が取り入れられています。詳細はこちらを、ご覧ください。
歌う石たち。
スペインのバルセロナ付近にあるサン・クガ修道院と、バルセロナから車で1時間ほどのところにあるジローナ大聖堂。どちらも、美しい回廊があります。
中世時代の様式に沿い、柱の上の部分、柱頭には、動物やら、植物やら、聖人達が、彫られています。調べた人、すごい!
正方形の回廊の柱頭を1本づつ確認して、彫られているモチーフを調べてたものです。「Ore」は「時間」の意味。「Ore 16」は夕方4時です。
ロマネスク様式に建て替えられたのは、1064年と記載があります。これだけでも、すごいのに、もっと驚く秘密が、この回廊には隠されているのです。
柱頭に彫るモチーフは適当ではなく、すべてに意味を持ちます。
ではなく、
と、ちゃんとモチーフの順番が決められています。
決められる基準とは、なんでしょう?
ライオン→「ファ」の音
鷲→「ド」の音
孔雀→「レ」の音
というように、回廊にあるすべての柱頭のモチーフを音に置き換えることができるのです。例えば、ライオンは教会の擬人化で、異端者に打ち勝つシンボル。その勝利の音が「ファ」。音とモチーフも繋がってるのです。驚きですねぇ。
柱頭を1本づつ調べ上げ、音符に置き換え、楽譜にしたのがこれ。
この楽譜で奏でられる曲名はなんでしょう?
サンクガ教会が祀る「聖ククファ」を讃える曲を奏でています。一方、ジローナ大聖堂は、聖母マリア様を祀り「悲しみの聖母(Mater Dolorosa)」を奏でています。
まだピンとこない方、びっくりした方、想像できない方、ぜひ、こちらの動画をご覧ください。
この2つの回廊では、柱そのものが、音符になっているのです。中世時代の科学を駆使し、彫刻、建築、音楽を用いて表現した、その先にあるもの。それは、宇宙、ひいては天界と調和をとること。
哲学やギリシャ神話、そして、キリスト教の布教が、いかに欧州の文化に大きな影響を与えたか。逆に、キリスト教がここまで広がらなければ、芸術も文化も異なっていたことでしょう。
神が生活の中心だった中世から、人間が中心の世界に変わる、ルネッサンス時代。「調和」は、さらに進化していきます。
今回のテーマでは、いつもより、
少し短めの文章にて連載します。
『世界は音に包まれている』
Part.1
自然、黙想。そして、音楽。
建築の音。
Part.2
ロマネスク様式の教会と音楽。
歌う石たち。
Part.3
建築と音楽の数合わせ。
数字、比率、そして、音楽。
Part.4
音楽と、建築。
世界は音に包まれている!
次回につづく!
最後まで読んで頂き、
ありがとうございます!
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参考文献:
Itinerario nell'arte
La Lingua degli Angeli
I suoni dell’architettura di FULVIA GIACOSA
Tra architettura e musica
di Conservatorio di Musica G.Verdi di Milano
Musica e architettura di Carlo Fabrizio Carli
Wikipedia
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