見出し画像

緑の森に浮かぶ、茶色い屋根。田舎の美しさ。 *Buti ブーティ村 *

前回に引き続き、「田舎の美しさ」シリーズです。

マグネシウムを多く含んだ硬水が多いイタリアですが、ところによっては日本のお水のように柔らかい軟水の水が湧き出るところもあります。

城壁に囲まれたトスカーナ州ルッカ街の周辺もそんなところ。とうとうと流れる川と共存している村も多く、ただ歩いているだけで空気が美味しく清々しい気分になります。

ブーティ村。

前回のルオータ村が山の頂上にあるとすれば、ブーティ村(Buti)は同じ山の裾にあります。

建物から張り出した納戸のようなもの。地中に半分埋もれたような、壁の中央の半円はなんでしょう。

昔はこの近くまで水がきていたんでしょう。水車を回す支柱です。水車は川の流れを利用した自然のモーター。

水車は時の流れとともに絶滅の危機に晒されていましたが、最近では、30代や40代の世代の人達が、打ち捨てられていた水車を修理し、あらゆる種類の小麦を水車で挽く小さな会社が存在します。頼もしいことです。

ブーティ村ではありませんが、
トスカーナ州にある水車小屋の内部。
円盤のように大きい白い石臼が
水車の動力により回転し
小麦を挽いていきます。

自然の動力で挽かれた小麦粉は、機械で精製されたものより甘みがあるように感じます。この小麦粉をじっくり自然発酵させ、薪で焼き上げたピザは絶品で、食感も軽く、食後も軽く、スローライフ・イタリアらしい試みです。

そんなことを考えながら先を行くと、尻尾を体に巻きつけ、お上品に佇んでいる猫と出会います。早くお店の中に入りたいなぁ。と思いながら、ご主人様が帰るのを待っているのでしょう。

ようやくブーティ村の全貌が見えました。当然のごとく、村の高台に教会があり、教会を中心に村が広がっています。

立派な門構え。フェッロバットゥート(Ferro Battuto)と呼ばれる技法で、日本では錬鉄と呼ばれるらしい。鍛冶屋の仕事。硬い鉄が高熱で温められることにより柔らかくなり、そこをカンカントントンと大きなハンマーで伸ばし、優雅な意匠へと成形していく技術。実際に目の当たりにすると、眼を奪われます。

鍛冶屋職人芸術祭に行ったときの様子を以前に案内しています。

ルオータ村でも遭遇したアペ。アペとは蜂の意味で、ブンブン飛び回る蜂のように、イタリアの街を山を海を、モーターをブーブー鳴らせて、縦横無尽に走り回る三輪車。

恰幅の良いおじさんが、小さな運転席に体を窮屈そうに預けて運転する姿は、まるで映画のワンシーンのようで、これがまた、イタリアの風景に良く溶け合います。

戦後まもなく製造されたようですが、まさか半世紀を経ったいまでも、クラシックカーとしてお蔵入りせず、現役で活躍するなど想像しなかったかもしれません。それほどに、狭い路地の多いイタリアでは貴重な移動手段なのです。

「ローマの休日」でアン王女が運転するスクーター「ヴェスパ」も、アペと同様にピアッジョ社のもので、三輪車は「アペ=蜂」と命名され、スクーターは「ヴェスパ=スズメバチ」と命名されています。

玄関口で見かけたピンクの飾り物。木製のお花の花弁に「Diana」と書かれています。このアパートで、ディアナちゃんが誕生したんですね。

イタリアの風習で、女の子が生まれるとピンクで、男の子が生まれると水色で、お祝いのお飾りが正面玄関の扉に飾られます。

修復中だったので、残念ながら内部を見学をすることはできませんでしたが、歴史ある重厚な建物。9世紀の要塞を1500年代に邸宅として改装したもので、当時の所有者はメディチ家。ここブーティ村の邸宅は農園として使われていたようです。

ブーティ村では、昔と変わらず、いまも良質なエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルや栗の生産をしています。

1600年代以降、所有者が転々と変わり、現在はスピガイ家の私邸となっています。現在は、結婚式の披露宴会場として邸宅の一部や庭園を利用できます。

参照:Terra di Pisa
城塞のような塔を持つ建物が
メディチ家別荘

カラン、カラン。大きな鈴が鳴り響く、その先には、牛。

牛は山でのんびり草を食んでいるイメージがありますが、ブーティ村ではオリーブ畑に放牧しているようです。

路地に面していることもあり、人に慣れているようで逃げようともせず「君はこの辺りの者じゃないね。何しに来たの?」と言いたげに、こちらをじっと見つめる牛。

後ろを見ると、真ん中に教会の鐘楼が聳え立つブーティ村がよく見えます。今も昔もブーティネーゼ(ブーティ村の人々)は、この鐘楼が見えた時に、村に戻ってきた安堵感や郷愁を感じるのでしょう。

山登りも楽しいですが、ただそれだけが目的ではなく、ブーティ村のロマネスク様式の教会に出会うためにやってきました。

そこはまるで俗界から離れたような香しき別天地でした。

次回へつづく。

🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱

最後までお読みくださりまして
ありがとうございます。
またお越しください!

🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱

🌿 マガジンに「田舎の美しさ」シリーズをまとめています。


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

休日フォトアルバム

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか? 気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます! コメントを気軽に残して下さると嬉しいです ☺️