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コルシーニ邸庭園と職人展示 2023年 n.3

ARTIGIANATO e PALAZZO in Firenze

フィレンツェの中心街にて9月に開催された職人展示。今回で最終回。コルシーニ庭園へとご案内します。


Métiers d’Excellence LVMH

ファッション業界で飛ぶ鳥を落とす勢いのベルナルド・アルノー氏率いる、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン。

エルメスと並び、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンもまた、次世代を担う人材育成に力を注いでいます。

参照:Artigianato Palazzo

Istituto dei Mestieri d'Eccellenzaと呼ばれる若手を支援する機関は、LVMHグループが2014年にフランスで設立し、次いで2017年にイタリアでも開設しました。現在HPはフランス語とイタリア語のみ。

この機関では、受講する学生に完全無料のトレーニングプログラムを提供しており、クリエイティブ部門、職人部門、顧客部門と、総合で26分野を用意しています。

どんなものがあるかHPを覗いてみると、メガネ、仕立て屋(テーラー)、ニット、シルク、靴仕立て、ジュエリー、料理、ホテルスタッフ、品質管理などがあります。

パートナーは当然ながらLVMH グループのラグジュアリーブランド。

トスカーナは革製品が有名です。パートナーは、ブルガリ、セリーヌ、クリスチャンディオール、フェンディ、ロロピアーナ、ルイヴィトン。欧州を代表するブランドが揃っています。提携学校はフィレンツェのファッションスクール「ポリモーダ」。

庭園では日替わりで職人と研修生がデモンストレーションをしており、わたしが訪れた時はブルガリが行なっていました。

職人が手にしている緑色の革はエイ革。背中中央の白い部分は「スターマーク」と呼ばれ丸く突起しています。この部分を目出させるように作られますが、マークは背中に一個だけ。一匹につき1個しか作ることができない貴重なものです。

師匠の隣には、髪を紫に染めノーズピアスをした20代前半と思われる女性が、革を切っているところでした。彼女もポリモーダ校からLVMHの研修プラグラムを受講し、現在は研修生として有給で仕事をしているそうです。

まさか自分が、ブルガリ社で鞄を作ることになるなんて、まったく予想もしていなかった。自分でもとても信じられない、すごく幸せ。

そう話す彼女の笑顔が眩しく、複合企業の特徴を活かす活動に一筋の光を見たようです。

機械による大量生産で売り上げを伸ばしたとしても、機械に頼ってばかりいては、若手は育ちません。衰退していくかもしれない人の手による、ものづくり。

引いては、ラグジュアリーと呼ばれるブランドも個性や唯一性を出せず、世界で類似品が出回り、品質もどんぐりの背比べでは、彼らの顧客は離れていき、将来も危ういでしょう。

新進デザイナーを発掘し、腕の良い職人を育てること。時間はかかるかもしれませんが、急がば回れ。必ず将来につながる投資です。

Tombolo Aquilano トンボロ・アクイラーノ

ローマから車で1時間30分ほど走ったところにあるアクイラ村。アブルッツォ州にあり、2009年にラクイラ地震が起きたところです。

アクイラ村で受け継がれている伝統工芸にトンボロ・アクイラーノがあります。木製の細い棒に麻もしくはシルクの糸を巻き、いくつもの棒を交差させることにより、レースを編んでいきます。

糸を絡げたり、菱形を作ったり、染めるように丸を糸で埋めたり、色々な編み方で、ルネッサンス時代の紳士淑女のハンカチや、袖口から見せるレース部分などを編んでいたトンボロ・アクイラーノ。

とても細かく繊細な編みです。

どのように編んでいくのか。出展されていたシモーナ・ランニーニさんの動画を案内します。

シモーナ・ランニーニさんは、16歳のときにトンボロ・アクイラーノに恋に落ち、それからずっと、分身のように共に生きています。

時間と忍耐を要する編み方は、タイパという言葉が出回るほどの現代社会において、もはや過去の遺物的な存在。アクイラーノのアイデンティでもあるトンボロ・アクイラーノの火を消してはいけない。

シモーナさんは、イタリアはもとより国外にも出かけ、トンボロ・アクイラーノの代弁者として活動を続けています。

上品で美しい総レースのハンドバッグ。

参照:Vogue

フェンディの2021年春夏コレクションのために、彼女が製作したバゲットです。

フェンディは2021年コレクションのために「Hand in Hand」「手を繋ぐ」というプロジェクトを立ち上げ、それぞれの州の伝統工芸を生かしたバゲットを、イタリア職人と「手を繋ぎ」製作しました。

参照:Close up art

IL MIO OBIETTIVO È ESPLORARE OGNI REGIONE ITALIANA, SELEZIONANDO GLI ARTIGIANI MIGLIORI E, SUCCESSIVAMENTE, ESTENDERE IL PROGETTO A TUTTO IL MONDO”. by SILVIA VENTURINI FENDI

「わたしの目的は、イタリアの北から南まで隈なく探し回り、素晴らしい職人を探しだすこと。そうしたら、次はこのプロジェクトを全世界に広げることです。」シルヴィア・ヴェントゥリーニ・フェンディ

アブルッツォ州で選ばれたのが、シモーナ・ランニーニさんでした。

今回のコルシーニ庭では、伝統工芸を解釈し直し新たな作品を生み出す、LVMHグループのプロジェクトの一環として出展していました。

庭園で行われたデモンストレーション。レース編みに使われていたのは白い糸ではなく、カラフルな素材です。

再利用されたプラスチックや工業用材料を使用して、複雑で精巧な作品やインスタレーションを制作するアーティスト、フランチェスカ・パスクアーリさんとのコラボレーションです。

フランチェスカさんのデザインの元となるのは、自然界に見ることのできる有機的な形。例えば、「スパイダーボール」と呼ばれるインスタレーション。

参照:Spiderwall, 2018, site specific installation. FPA Archive, interior. © Fabio Mantovani

出展していた2人の作品が「Punto Plastico」プラスチック・ポイント。

リサイクルされたプラスチックの紐と、麻、ウール、シルク、コットンの糸を混ぜて300時間かけて編んでいます。

オブジェのように集められた糸を巻き付ける小さな棒からは、編む時に生まれる音楽のような音が流れています。

ときに職人は、工房を奥に控える店で日々を過ごし、そこで製作をし、お店に入ってきた人を接客し、販売をします。いまはソーシャルを駆使し、活動を広げることも可能になりましたが、すべてひとりで、製作、営業、販売、さらには経理もしなければならず、もの作りをする手だけでは、まったく足りません。

「好きだから」「好きなことをしているから」という情熱で気持ちを奮い立たせていても、生活が苦しく疲弊している職人もいます。

残念ながら国も、州も、県も、市も、知っているのかいないのか、見て見ぬふりをし、後継者が見つからず工房を閉じた職人もいます。

数年前までは工房だったところが、飲食店に代わる姿を見るにつけ、悲しい気持ちになります。

将来が不安だからと2度足を踏んでいる若手もいることでしょう。

そういう状況を打破するためにも、ラグジュアリーブランドが牽引し、経済的に支援し、技術を学ばせる場を設けることは、とても価値のあることではないでしょうか。

AIという新技術が世界に浸透し、その流れに逆行するかのように、「人の手」で「ものをつくる」価値が上がってくるのではないかと、明るい展望を期待しています。

少し重くなってしまったので、最後は軽く、食べものの話しで締めたいと思います。

CUCINA ALL’OPERA オペラと料理

毎年行われる『〇〇と家族のレシピ』シリーズ。今年の「〇〇」はオペラ。プログラムもオペラを演出するかのように、ミラノの歌劇場スカーラ座の案内のようです。

こちらが、本物のスカーラ座のプログラム案内。赤十字のシンボルは、ミラノ公国の国旗。現在はミラノの市旗です。

ミラノ市旗のところに、コルシーニ家の家紋が印刷されています。

例えば、9月15日のゲストはソプラノ歌手ライナ・カバイヴァンスカ。カバイヴァンスカさんはスカーラ座で57年間歌い続け、蝶々夫人を400回は歌ったそうです。そろそろ現役から退いてもいいだろうと、次のステージに移ることを決意し、現在は自身の財閥を立ち上げ、若手オペラ歌手のサポートをしています。

美しい方です。今年で88歳だそうです。
参照:Paese Sera Toscana

彼女がお披露目するのは、ソプラノ歌手マリア・カラスのレシピ。カラスはレストランで食べて美味しかった料理のレシピをシェフに尋ねていたようで、かなりの数の紙に書き写したレシピを持っていたそうです。

今回はその中からペアラ(Peara')というヴェローナのソースが紹介されました。材料はパン粉、牛肉の骨髄、肉のブロード(出汁)、黒胡椒、チーズ。

ペアラに合わせる料理は、通常はボリートミストと呼ばれる茹で肉。寒い冬にぴったりのお料理です。

今回ソースに合わせるのは、プチシューのように丸く小さなビニェ(Bignè)。シュークリームにクリームを詰めるように、焼き上がったビニェにペアラを詰めたら、ベージュ色のビニェに、赤パプリカのソースを乗せ、彩を添えて完成です。

参照:la la Wine Magazine

興味が湧いて、ジュゼッペ・ヴェルディとジャコモ・プッチーチのレシピも調べてみました。

ジュゼッペ・ヴェルディはリゾット。「チューリップのリゾット」という料理で、チューリップは、牛タンのサラミを薄く切り、出来上がったリゾットの上にチューリップの花弁のようにあしらったので、そう呼ばれたそうです。

ジャコモ・プッチーニはお菓子で「ポルトガルのミルク(ラッテ・アッラ・ポルトゲーゼ)」。なんだろうと調べてみると、カスタードプリンらしいことは分かったけど、『トスカーナ風』カスタードプリンを指すらしい。

『トスカーナ風』は、小分けにせずにひとつの大きな型に流し込むのが大きな特徴で、香りづけにバニラではなく、カルダモンやコーヒーを用いることもあります。

トスカーナの商人がポルトガルへ赴いたときにこのお菓子に出会い、自分たちの国へ持ち帰ったときに「ポルトガルのミルク」と呼ぶようになったとのこと。まるで、日本のカステラのようです。ポルトガルはお菓子の最先端だったのでしょうか。歴史は面白いです。

3回連続の「コルシーニ邸庭園と職人展示」如何だったでしょうか?

2024年も9月に開催されますよ! 普段の観光ではなかなか出会うことができない貴重な場です。


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最後までお読みくださり
ありがとうございます!

またお会いできたら嬉しいです。

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☘️ n.1とn.2 はこちらです。

☘️ 2021年の職人展示はこちらです。

☘️ 2022年の職人展示はこちらです。


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