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コルシーニ邸庭園と職人展示 * 後編

9月に開催されたコルシーニ家が主催する職人展示の後半です。今年はパステル調で描かれた、可愛らしい地図も渡されました。去年から邸宅裏手にある馬小屋や小さな庭も会場になっているので、見落とさずに回ることができます。

「地図F」あたりからみた庭園。緑の木々が生い茂るところどころに、彫刻が置かれ、手入れされた空間は、しばし現世を忘れさせてくれます。

かつてはレモンやオレンジなど果樹類を冬越しさせるための建物だった、リモナイアから始めましょう。

陶器の人形が抱えているのはプリザーブドフラワー。プリザーブドとは、保存する、という意味。生花を加工し、水や光がなくても、最も美しい花の姿を数年のあいだ閉じ込めて楽しむことができます。

「花をデザインする」をコンセプトに、12種類のラインナップを揃えています。本社はミラノかと思いきや、フィレンツェから90分ほどのところにある、城壁に囲まれたルッカ街にあります。

フィレンツェにもお店があります。
Floruit Firenze
Via dei Fossi 5 50123 Firenze Firenze

お花続きで、フィレンツェで忘れてはならぬ老舗のお店。サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局。フィレンツェの県花はアイリス。イタリア語ではイリス(Iris)と呼ばれます。

薬局の新商品「アイリスの香水」。中世時代に紫の染色に初めて成功して以来、フィレンツェの代表色は紫。紫色をベースに、金色の文字と、レース編みのような綺麗な蓋。角の丸いレトロなガラス瓶も美しいです。

実はアイリスの花には、ほとんど香りがありません。7種類のエッセンスオイルを配合して、アイリスの香りが作られています。

利き酒ならぬ、利き香りをさせてもらいました。日本語で「トップ」「ミドル」「ラスト」と大きく3種類に区別される香りの分類は、イタリアでは、「頭」「心」「地」と分類され、人の体に例えられます。

アイリスは、頭に柑橘系3種、心にフローラル系2種、地にアイリスの球根から抽出した香りを含めて2種。これらを配合して、アイリスの香りのイメージが作られています。

以前にも香りについて投稿しましたが、香りは知ればしるほど、奥が深いです。

こんなデッサンをみると、目を奪われます。エッチングに色付けしているところです。

こちらは、中世時代から受け継がれている手法で金箔を貼り、絵を描いています。左手にみえる赤いキャップの容器はベープ(Vape)。庭に面しているから、出展者は蚊に悩まされるんです。

動物のモチーフが多く、寸法は約20センチ四方で、手頃な大きさです。金箔をバックに、絵が浮き出るようです。一筆が細かい。

どうして、このような表現方法に至るようになったのか。いろいろお話を伺ってみたい、アーティストの一人です。

そのお隣には、とても可愛いく絵付けされた皿が展示されています。

日本の豆皿みたい。と話しかけたら、『そうなの! 日本へ行ったときにいろいろな陶器をみて、すごく影響を受けたの。』とおしゃった、若き陶芸アーティスト。

金箔のミニ絵画と、こちらの陶器のお二人のアーティストは、親子でした。旦那さまが大学の教授で、東京へは何度も行っており、行くと数週間は滞在するそうです。旦那さまがお仕事中に、母と子供達は日本を観光し、そのときにインスピレーションを受けたとのこと。

アトリエは、フィレンツェ郊外にそれぞれが構えているそうです。息子さんも応援にきており、近々日本へ彼女と行くそうなので、日本製の絵筆を買えるお店の情報を渡したりして、しばし、談笑を楽しみました。

去年は選ばれし若きアーティストに名を連ねていた、男性の機織り師、シモーネさん。彼の布は、きっちりふんわり織られていて、やさしい肌触りが特徴。織り目が本当に美しい。写真より何倍も素敵です。

小さな頃から、手でものを作るのが好きで、布にかかわる仕事をしていましたが、おじさんのもとで6年間、機織りを学んだあとは、機織り一本で行くことを決意したそうです。

機織り機は、シモーネさんのオリジナル。機織り機の設計をし、パーツを作ってもらい、自分で組み立てています。

シモーネさんは、若干内気な印象ですが、話しかけると、人当たりがよく、彼の繊細で優しい温かさが、織られた布から伝わってくるようです。

今年は、最も美しい展示をした職人に贈られる「ジョルジャーナ・コルシーニ賞」を獲得したので、来年は無料で参加できる資格も得ています。

ジョルジャーナ・コルシーニ王女は、フィレンツェの文化促進に力を注ぎ、1995年に初めて職人展示を開催した人物です。2020年に他界し、いまは「ジョルジャーナ・コルシーニ賞」として名を残しています。

リモナイアをあとにし、屋外展示へと移ります。

リモナイアの外観

Zouganista ゾウガニスタの望月さんは、中庭の展示会場にいらっしゃいました。日本では木象嵌細工と呼ばれるもので、薄い木を形どり、嵌めていくと、絵のようにひとつの作品ができあがります。

手製と思われる木製の作業ボックス。作業一式の道具が整頓されています。トンカチや糸鋸やペンチなどの道具を扱いながら、美しい作品が作り上げられるんですね。

木象嵌細工と一口に言っても、表現方法は無限にあるようです。ショーケースに並べてあるのは、名刺入れ、小銭入れ、スカーフ留めなど。

望月さんとおしゃべりしている間にも、『やっぱり、これが欲しい。』と戻ってきて、葡萄をモチーフにした絵を購入された方もいました。

今年4月にベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催された高級工芸品の国際展示会、Homo Faber(ホモ・ファーベル)の、将来を担うアーティストのコンテンポラリー・クラフト部門 「Next of Europe (次なるヨーロッパ)」へも選出され、出展されています。

望月さんは、出展された目線で今回の職人展示会について書かれています。過去から変わらず、そして未来もこのままであろうフィレンツェのいまを感じ、目標に邁進する、東京生まれ、メイド・イン・フィレンツェの望月さん。これからの活躍が楽しみです。 ご一読ください !

屋外展示を訪れながら、秋空の広がる庭園を愛でる素敵な空間。

馬屋の近くにある白馬のオブジェ。コルシーニ家の子供達はこれに乗って遊んだのかしら。

子供達も参加できます。靴の木型に絵付けですって。

かつての馬小屋や、玄関から中庭までの広間へと移動します。

ステンドグラス職人さん。教会があるところには、ステンドグラスあり。歴史とともに生きてきたステンドグラス伝統は、きちんと受け継がれています。

色ガラスを切り鉛線でつなぎ合わせ、接点を熱で接合させます。

1875年創業のフォルコ・ブルスキ工房。訪れたときは、修復作業を行っていました。「我々はガラスを織っているんだ」という言葉が印象に残っています。

スクデリアと呼ばれる旧馬小屋は、2014年から立ち上がった新しい部門「ブログ&クラフツ」展示会場です。35歳以下の若い10名の職人を欧州全土の希望者より選出し招待します。

「ブログ&クラフツ」部門でコルシーニ家に協力するのは、フェラガモ家。フィレンツェに本社のあるサルバトーレ・フェラガモ社が2013年に立ち上げたフェラガモ財団では、若い職人の活動をサポートし支援しています。

選ばれし職人は、旅費、滞在費、参加費が負担され、無料で招待されます。

母体となるのは、ワールド・カウンシル・ヨーロッパ。欧州で開催される職人展の参加申し込みやコンクールなどの情報も掲載されています。

何百人という応募者から選出された10名の若き職人達の展示。目についたのは、長い胴体をした、こちらの小動物。

ベニスといえばカーニバル。カーニバルといえば仮面。ソフィアさんはベニスで代々仮面作りをする一家で育ち、製作方法を自然と覚えていきます。

伝統的な仮面の技術を活かして、ほかに表現する方法はないかしら。

そこで生まれたのが、置物や額縁に姿を変えて、インテリアとしても使える、動物シリーズ。

ソフイアさんの作品の最大の特徴は、破棄される古新聞や古紙を利用して作られていること。

破棄されるはずの古紙から生まれ変わった、ソフィアさんの動物たちの表情も可愛い。目がハートになっています。

足を進めていくと、日本的な空気を漂わせている展示があります。

スペインから来られたバルセロナ在住のヤマダ・モエキさん。日本人が欧州若手10名の職人に選ばれるなんて、なんて嬉しんでしょう。mooeki というブランド名で活動されています。

使われる糸は麻。自ら草木で染色をし、糸を染めます。

スペインへは留学で降り立ち、しばらく滞在したら日本へ帰国予定だったのに。それなのに、気がついたらバルセロナに腰を落ち着けて、機織り機で麻布を織り、製作活動をしていた。という、モエキさん。

織り上げた麻布は、日本の布文化である、風呂敷やあずま袋に姿を変えます。どうしても出てしまう切れ端は、温かみのある、くるみボタンやタッセルとして、糸と織りの輝きを取り戻しています。

今年はフランスのロワール渓谷で活動する職人も出展しています。ロワール渓谷一帯では、150種類の職人工房が2000社あるそうです。

こちらはガラス細工師ヴァレリー・ヴェールさんの作品。とっても細かい繊細な作業。

ガラスの棒を、火で溶かして、伸ばして形を作って、飴細工のような美しい作品が仕上がります。

イタリア語で『サペーレ・ファーレ(Sapere Fare)』。技術に精通し、遂行するための技をもつ。その技を成すのは、ひとの手。

それだけでは、ただの素材である、板切れ、皮、糸、ガラスの棒。それが人の手により、その人の技術により、美しい作品に生まれ変わる。そこに職人の奥義を感じます。

今回選出された職人たちに共通しているのは、伝統技術を継承するのはもちろん、時勢を捉え、廃棄ゼロの持続可能な世へ貢献している点だと感じました。

そして、職人の技術を磨きながら、工芸品というカテゴリーに収まらない、一点物のアートとして表現されている作品が目立ちました。

アーティストとして自分を表現しつつ、プライベートのお客様、その分野を欲している企業、デザイナー等とコラボレーションすることも、これからの職人へ開かれた世界でしょう。

そんな職人達を、これからも追っていきたいと思います。

来年も9月の予定です。この時期にフィレンツェへ訪問する予定があれば、ぜひ足をお運びください。中世時代から高級工芸品を作り続けている、ものづくり街フィレンツェに出会える展示です。

Artigianato e Palazzo

最後まで読んでくださり
ありがとうございます!

次回は、
特別公開のときに訪問した
工房へご案内します。

お楽しみに!

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