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コルシーニ邸庭園と職人展示 2023年 n.1

ARTIGIANATO e PALAZZO in Firenze

フィレンツェの中心街にて、9月にコルシーニ庭園で開催された職人展示。今年で29回目。30年を迎える来年は、特別な何かがありそうな予感。

去年訪れたときは、曇りのち雨では収まらず、さらに暴風雨という、とんでもない天気でしたが、今年は透明な青い空のもと、庭園の緑が映える美しい初秋の景色とともに、職人技を堪能してきました。

きれいに整えられたイタリア式庭園内にある、当時はレモンを冬越しするための建物リモナイア、一族が飼っていた馬を入れる馬小屋、玄関と中庭を繋ぐ広間、邸宅中央の開廊を開放し、さらに庭園にも仮設テントを設け、80人の職人が集います。

入場料は10ユーロ。普段入ることのできないコルシーニ家の優雅なプライベート庭園を愛で、職人の技術を目の当たりにし、職人の話しを直に聞ける祭典で、この金額はシンボリックな料金ではないでしょうか。

扉の閉ざされた工房で仕事をする職人を知る機会は、普段の生活ではめったにありません。訪問者は、イタリアの底力である職人の仕事に触れることができ、もしかしたら両親に連れられてきた子供達が、次世代を担うことになるかもしれません。

職人にとっては、活動を知ってもらい、直接販売もでき、将来の仕事に繋がる可能性を秘めています。実際にこの展示で知り合った職人達が、自分たちの仕事を掛け合わせたり、共同出店したり、あらゆる形でコラボレーションをしているようです。

去年と同じ出展者もいましたが、半数は初参加です。

サンタマリア・デッレ・ネーヴェ修道院

切符販売所から最も近いリモナイアの建物。展示会のメイン会場です。ひときわ賑わっていた、初参加の尼僧のコスメ。

修道院の敷地内で植物を育て、それを各種シャンプー、クリーム、石鹸、スクラブ、ルームフレグランスなどに商品化し、シール貼りや箱詰めもすべて尼僧が行っています。

修道院では、祈りを捧げ、魂を救い、説法をする日々を過ごしていますが、もうひとつ、大切なことがあります。

ひとつ屋根の下で大切な時間を共に過ごし、ひとつの心と、ひとつの魂を、育む。

そうして大地から人の手に渡るまで、彼女達により育まれた商品が生み出されています。

商品の背後にあるストーリーに魅了された訪問者は多く、今年の人気投票で一位になりペルセオ賞を獲得しています。

参照:artigianatoepalazzo

エッチング

迫力のあるエッチング。先の尖った道具で銅板に傷をつけて描いていきます。

フィレンツェのヴェッキオ宮殿にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた、壁画「アンギアーリの戦い」。現在も壁の下に残っているという見解もありますが、保存状態を考慮すると、私たちの前に現れるのは残念ながらかなり低い確率でしょう。

ルーベンスがヴェッキオ宮殿に赴き模写したものから、レオナルドの作品を知ることができます。

参照:Wikipedia

銅板とルーベンスの絵を見比べてみると何かが違います。さてどこでしょう?

銅板にインクを刷り込むと、凹凸の溝へとインクが入り、大きく重たいローラーでぎゅっと銅板と印刷用の紙を押さえることにより、銅板の絵は紙に転写します。

「転写する」ということは、左右対称に描かなけばならないことを意味します。銅板とルーベンスの絵を比べると、銅板の絵は反転していることがわかります。

反転された「アンギアーリの戦い」。エッチング職人の技術の高さを知ることのできる作品です。

紙に印刷された絵は、モノクロで完成してもいいですし、彩色することもできます。水彩画の優しい色合いがエッチングには良い合います。

フィレンツェ風モザイク

テーブルに置かれているのは、手製の糸鋸と薄くスライスされた石。こられの石をパズルのように嵌め合わせて一枚の絵が完成します。

石に穴を開けたら針金を通し、糸鋸で石を切っていきます。

大聖堂の丸屋根クーポラの赤茶色、濃い緑の糸杉、オレンジ色の建物の壁、空の色。太陽の日差しによる光と影の細かい描写、すべてが石で表現されています。

フィレンツェ風モザイクは、イタリア語でコンメッソ・フィオレンティーノと呼ばれます。

そもそも、17世紀のメディチ家当主フェルディナンド1世が自分達の礼拝堂の内装をすべてフィレンツェ風モザイクで装うとしたのが始まりです。

石のように冷ややかで高貴に、永遠に腐食しない石のように未来永劫に。世界各国から貴石を取り寄せ、礼拝堂を装飾するように。

考えることが違います。そうして作られたのがメディチ家礼拝堂です。

メディチ家礼拝堂
参照:artemagazine.it

外観は質素ですが、内部は色彩も見事な装飾に覆われており一見の価値大です。新聖具室にはミケランジェロの作品も展示されています。

この礼拝堂のために用いられたメディチ家オリジナルのフィレンツェ風モザイクが、メディチ家が断絶した今でも、伝統工芸としてフィレンツェで生き継がれています。

一国の主(あるじ)がパトロンとなり、芸術を擁護し芸術を創造することで、近隣諸国へ誇らしげに見せつけ、それに伴い工房が栄え、国が栄える。当時のフィレンツェを想像できるようです。

スカリオーラ

石でできた丸い黒板にノミで打ち付け模様を彫っています。

打つ方向を間違えても、消しゴムで消すことはできません。トントントン、カンカンカン。金槌を打ちながら慎重に彫り進めていきます。

彫られた石版にフィレンツェ風モザイクを嵌め合わせることもあれば、石を粉末状にし絵の具のようにして絵を描く、スカリオーラという技術もあります。

フィレンツェ風モザイクとは風合いも色合いも異なり、石をそのまま使った硬質な感じが抜け、パステル調の優しい作品に仕上がっています。

貴石を粉末にし絵の具のように塗り固めるスカリオーラの技術を用いることで、貴石をそのまま使うより材料費を抑えることができます。

フィレンツェでスカリーラ技術が多く取り入れられるようになるのは、1600年後期から1700年代にかけて。メディチ家がフィレンツェを統治していた時代です。

当初は上述したように、コスト削減の目的もありましたが、徐々にスカリオーラの良さを活かした作品が生み出されるようになり、絵の具とは違った印象を残す風景画が製作されるようになります。

参照:opificio delle pietredure
Scagliola - Enrico Hugford, Paesaggio fluviale con picco roccioso

モザイクデザイン

石化した切り株。装飾もなしに無造作に置かれていたにも関わらず、大きな存在感を発していました。切り株のところも、見た目は木質なのに、触れると硬く石化しています。

墨流しのような、美しい曲線を描くこの石は、どのくらいの時間をかけてこの模様を作り上げたのでしょう。奇跡のように美しい流線を生み出す自然に、畏怖の念を覚えます。

フィレンツェ風モザイクの技術を学んだ2人の若きアーティスト。伝統工芸を軸に新しい表現を模索し、伝統に現代を融合させた作品を製作しています。

分厚い図鑑をもとに、自分達の足で石を探しに行くそうです。

意外にも近場の山や丘、水辺でも見つかるとのこと。「宝探し」をしながら、自然を歩き回れるから、体力が付くし気分も良いんだよ。と話していました。

テーブルを製作中の様子。スライスされた石が何層にもなっているのがわかりますか?

参照:ATELIER TERRE

バラの花が咲いていますが、左端の蕾はくすんで遠目に見えます。これは蕾の上に透ける石を載せることで、遠近の効果を生み出しています。

参照:ATELIER TERRE

出来上がりはこちら。装飾のない脚を合わせることで、シンプルなテーブルに仕上がっています。

参照:ATELIER TERRE

伝統工芸が継承されると同時に、新解釈で貴石を表現し新しい世界を作り上げる頼もしきアーティスト。ぜひ次世代に繋げて欲しいものです。

La Grande Bellezza 

グレート・ビューティ。華麗なる美しさ。とでも訳せるでしょうか。

スターホテルズというフィレンツェに拠点を置く、4つ星と5つ星の高級ホテルを30軒ほど経営しているホテルチェーン。ここではテーブルウエアを展示していました。

テーマは大地の精クロリス。彼女はのちに花と春を司る女神となります。優しい春の日差しのもと、花々が咲いたような空閑を作り出しています。

フィレンツェで織られ刺繍されたテーブルクロス。ヴェネツィアのムラノ製ガラス食器。ミラノの銀器職人によるカトラリー。トリノの香水職人よるフェニックスという名の香りと不死鳥をイメージした丸い香水瓶。

すべてがイタリア・メイド。職人メイド。既製品では感じることのない、洗練された気品と温もりが伝わってくる品々。ミラノのデザイナーが、それぞれの特徴を活かした美しい空間を演出していました。

少し疲れたので庭園に出て息抜きをしましょう。

職人展示、もう少しお付き合いください。
次回もつづきます。

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最後までお読みくださり
ありがとうございます!

次回もコルシーニ庭園で
お会いしましょう!

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2021年と2022年の職人展示の模様はこちらになります。




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イタリアのモノづくり | ようこ
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