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地域に根差した、手仕事の味わい

中野駅南口から5分ほど歩いた先にある、桃園通りにお店を構える「和菓子舗 壷屋」。お赤飯、おはぎ、水まんじゅうに水ようかん。大きな貼り紙に惹かれて中を覗くと、美味しそうな和菓子がずらりと並ぶ様子が目に飛び込んできます。

今回のwith youでは、壷屋のご店主 奥谷武久さんにお話をお伺いしてきました。(以下敬称略)

with you 06 奥谷武久さん

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江戸の時代から

― こちらのお店は、昭和22年に創業ということで伺っています。奥谷さんは2代目ということになるんでしょうか?

奥谷 ここ中野では、そうですね。

― それ以前ということですと?

奥谷 江戸の時代に五反田で創業したので、何代目云々という形で言うと私は4代目になりますね。

― 先ほど奥様から、お店に並ぶ和菓子は奥谷さんがお一人で全て作られているとお伺いしました。少しお菓子についてお伺いさせていただけたらと思います。

奥谷 ケースの中のものは全て手作りです。今並んでいるものは全部季節品ですね。うさぎさん(「月見うさぎ」という名の和菓子)以外は季節ものです。うさぎさんのお万頭に関しては中秋の名月、十五夜の日の商品だったんですけど、それが今は年中の商品に変わってしまいましたね。

― 季節のお菓子は昔から受け継がれてきた手法に沿って作られているのでしょうか?

奥谷 そうですね。ただ、上生菓子のデザインは今はほとんどが私の創作ですね。

― 上生菓子で使用されている餡は、全て同じものになるのですか?

奥谷 小豆のこし餡と手亡(てぼう)という白いインゲン豆の白餡、あと濾さない小豆の粒餡の3種類なんですけど、それらにお砂糖や水飴を配合を変えて加えて、何種類かの餡子を作るわけなんですね。

― その他にお店に並ぶお赤飯やお団子も奥谷さんが作られているということなのですが、朝はどのくらいから作業を始められているのですか?

奥谷 朝は6時くらいから仕事を開始するんですけども、大体の下準備は前の日に済ませておきます。

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桃園商店街

― ここ桃園商店街で長くお店を営まれてきた中で、昔の商店街の様子を教えていただけたらと思います。

奥谷 うちはその当時から代わり映えはないですけど、お隣は今マンションになっていますけど、昔は玩具屋さん、その隣は風呂桶屋さんでしたね。

― 風呂桶屋さんというのは、お風呂で使う桶を取り扱われているお店ですか?

奥谷 昔のお風呂って、大きな盤のようなお風呂...記憶にありますかね、昔の映画か何かで出てくるかもしれないんですけど(笑)。その隣が床屋さんで。賑やかだったですよ。

― この辺り一帯が大きな商店街だったのですね。

奥谷 そうですね。普通の住宅のようなお住まいはなかったですね。うちの家屋のような店舗兼住宅、木造2階建の建物がずらーっと並んでいたと思ってくだされば。(お店近くの)セブンイレブンさんぐらいまで続いていましたね。

― 今のような様子になってきたのは、何年ぐらい前からでしょうか?

奥谷 そうですね、30年前くらいからこんな感じに変わりつつありましたね。

自分がいいなと思うもの

― 奥谷さんにとって中央線にまつわる思い出はありますか?

奥谷 中央線とは生まれた時からご縁がありますね。買い物、遊びに関しても中央線で新宿に行くことが多かったですね。吉祥寺で乗り換え、井の頭線で久我山に通学していたので学生時代は吉祥寺もよく行っていましたけど、卒業してからは新宿によく行っていましたね。

― 学生時代や今で捉え方は違うかもしれないのですが、奥谷さんにとって遊びとはなんでしょうか?

奥谷 私は車が好きでしたから、ドライブとかはよく行きましたけど。今日のようなお天道さんが綺麗に見えるような日に車で走ると気持ちいいですよね。

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―コロナ禍で生活様式が変化した中で、人との繋がりについて感じていることなどありましたらお話を聞かせていただけますか?

奥谷 うちはご近所相手の商売なものですから、コロナ禍、コロナ禍前とで、お客さんの層が変わったということはないです。ですから、コロナ禍になったからといって大きな影響を受けることはありませんでした。

― ご近所の皆様は、ご自宅で楽しまれたり、贈り物でお菓子を求められたりと、普段の生活の中でこちらのお菓子を楽しんでいらっしゃるんですね。

奥谷 あと、この先の高円寺南(杉並区)の辺りには大きな一軒家のお宅が多くて、そういうところの奥様が茶道教室、と言っても何十人も一遍に教えるような大きな教室ではなくて、一度に2・3人の生徒さんを迎えて、看板も何もないですけど、個人で教室をされている方が多いんです。そういう先生方がお菓子を求めてくださるので、それは非常に助かっていますね。

― ご自身で季節の創作和菓子を作られる時に、アートだなと感じたりすることはありますか?

奥谷 それはありますけども、自分がいいなと思う商品と、お客様がいいなと思うものに多少の隔たりはありますよね。玄人受けするものと素人受けするものは明らかにあります。以前は「こうしよう、ああしよう」と玄人受けする商品を進んでやりましたけれども、今は万人に受ける素人受けのものに変わりましたね。

― その違いはわかりやすくいうと、どんなことなのでしょうか?

奥谷 そうですね。売れるもの、ですね。いくら作り手がいいなと思っても一般受けするものでなければやめてしまう。

― 今、お店に出ている商品は皆さんが求めやすいものということでしょうか?

奥谷 そうですね。先ほど少しお話しましたけども、そういう事情もあってうさぎさん(月見うさぎ)が年中商品になってしまったということですね。ほんのいっときの商品だったはずのものが、年中のものになってしまったとか。

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― 玄人好みの商品というは、どういったものになるんでしょうか?

奥谷 地味なものですね。餡子にお花が一輪咲いているようなもの。でも、それではだめなんですよ。本当はその方が映りが綺麗なんですけども。お花が一輪咲いているようなものでは一般受けはしない。それに葉っぱをつけるとか、葉に脈を書くとか...とにかくなんていうんですかね...派手なもの。シンプルなものではなくて、目で見て華やかというか、今若い子がスマホで撮る、なんていうんですかね、インスタ映えっていうんですか。そういうものでないとだめ。写真映えがするもの。シンプル、質素、閑を感じさせてしまうとだめなようですね。

― お茶の先生方はどちらを好まれるのですか?

奥谷 お茶の先生方は、私どもの方と気持ちが合いますよね。なのでご注文をいただいたら、その季節のお菓子をお話してお持ちする形になりますね。

一つ一つの個性

― お菓子を作られるときはどういうところからアイデアが湧いてくるんでしょうか?

奥谷 新宿のデパート巡りが結構好きなものですから、デパ地下っていうんですかね、大手の和菓子屋さんとか結構入ってますので、そういうところの商品は見たり、勉強しに行きますね。

― 今でも定期的にお店巡りに行かれたりするんですか?

奥谷 今はあまり行かなくなりました。皆さん、そういう商品に手を出さなくなりましたね。

― 大手の和菓子屋さんでもということですか?

奥谷 そうですね。ある数店舗しか、手作りの和菓子を取り扱わなくなりましたね。作り手がいなくなったんでしょうね。

― 作り手の方は少ないんですか?

奥谷 少ないですね。今は、機械で作れないものは皆さんやらないですよね。アルバイトさん、パートさんが機械の補助をして、機械が作って製品ができる。そういう商品が主体じゃないんですかね。職人が作った商品とパートさん、オートメーションの機械が作った商品は見て大体わかります。機械で作ったものは、全てが全て同じ形をしていますし、同じ色合い、同じ焦げ加減。お菓子一つ一つに個性がないですからね。

― 奥谷さんにとって、和菓子を作るということ。和菓子職人を選ばれたことやお店を継ごうと思ったことなど、お話を伺えたらと思うのですが。

奥谷 自分の意思はないですよね。もう流れですよね、宿命っていうんですかね。私、男3人兄弟なんですけど、それぞれの適性を親が見るっていうんでしょうか。私は次男なんですけど、私が選ばれてしまったという感じですかね。

― お店にはいつ頃から入られたんですか?

奥谷 子供の頃は普通の手伝いみたいなことはしていましたけどね。本格的に餡子を練ったりし始めたのは、学校を卒業してからになります。宿命ですからしょうがないですよね。よく言われる、歌舞伎の世界に生まれた男の子が自然にその道に入るのと同じ理屈じゃないですかね。特別になんの抵抗もなく自然にそうなりましたですよね。

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ガラス張りの大きな引き戸の向こうに並ぶ、和菓子の数々。今回の取材中、奥谷さんのご厚意により夏のお菓子「水辺」の製造工程の一部を拝見させていただきました。福島を旅された時の風景からインスピレーションを得て生まれたというお話を聞いた時、小さな和菓子の中に広がる世界の広さに感動しました。

「水辺」の製造工程を取材させていただいた様子は、YouTubeにアップしている、with you 映像版からご覧いただけます。間近に見る職人の手仕事の様子をぜひご覧ください。

和菓子舗 壷屋(営業時間 9:30〜21:00)
お店の情報はこちらのサイトでもご覧いただけます ↓
https://retty.me/area/PRE13/ARE12/SUB1201/100000115749/

中野にお立ち寄りの際は、奥谷さんの作る和菓子をぜひ一度味わってみてください。


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