流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -3-
流体力学で理想状態のひとつに見做される「完全流体」について。連続体と仮定した場合に、流体の接線応力(抵抗力)を無視したものとして、完全流体の定義が成されます。
流体圧力を2階のテンソルで表記した場合に、圧力のスカラー量(p)とクロネッカーのデルタ(行列的な対角成分を有値にする処理)と合わせて、次のように表現されます。
$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$
今回の連載では、完全流体としての物理的な特性を中心に見ていきます。
前回は完全流体に関する渦の諸定理(角運動量保存則)について、主に3種類を挙げながら話をしました。
例えば「ラグランジェの渦定理」においては、保存力場で渦が突然に発生することも消滅することもありません。これは粘性を十分に無視できる領域の話であり、粘性領域の外では必須事項になります。
今回からは完全流体の代表例のひとつとして、水の波の物理(流れ)を考えていきたいと思います。
水の波の境界値問題
水の波については、重力場における非圧縮性の完全流体として扱います。また、流体力学の運動としては「波動」に置き換えます。
物理モデルとして、水深が規定されている2次元に模した波の挙動を考えます。ここで、y座標は水面の波高に相当します。
波の初期状態を静止と見做すならば、ラグランジェの渦定理より運動は渦なしです。つまり、速度ポテンシャルを規定できます。
$${\bm{u}=\textrm{grad}\Phi}$$
これを非圧縮性の連続方程式に適用します。
$${\Delta{\Phi}=\frac{\partial^2 \Phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 \Phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 \Phi}{\partial z^2}=0}$$
このことから、速度ポテンシャルはラプラス方程式に従う調和関数であることが分かります。
水面と水底ではそれぞれ境界条件が成立します。例えば、水面の運動学的境界条件は次のように表現されます。
$${\frac{\partial \Phi}{\partial y}=\frac{\partial \eta}{\partial t}+\frac{\partial \Phi}{\partial x}\frac{\partial \eta}{\partial x}+\frac{\partial \Phi}{\partial z}\frac{\partial \eta}{\partial z}}$$
また、水面では力のつり合い条件も成立する必要があります。一般化されたベルヌーイの方程式(圧力方程式)に当てはめます。
$${\eta=-\frac{1}{g}\frac{\partial \Phi}{\partial t}-\frac{1}{2g}|\textrm{grad}\Phi|^2}$$
波の振幅が極めて小さいと見做すならば、境界条件は線形化できます。これを「微小振幅波」と言います。2次以上の項を無視することから、速度ポテンシャルに関する偏微分方程式が導かれます。
$${\frac{\partial^2 \Phi}{\partial t^2}+g\frac{\partial \Phi}{\partial y}=0}$$
すなわち、微小振幅波の問題は速度ポテンシャルに対するラプラス方程式を線形の境界条件の下で解く境界値問題に帰着します。
微小振幅波の解
ここでは簡易化のために水底は一様の値(h)とします。速度ポテンシャルは次のような正弦波を仮定します。
$${\Phi(x,y,t)=\phi(y)\textrm{cos}(kx-{\omega}t)}$$
正弦波は進行方向(x)と時刻(t)に依存する関数であり、位相速度(c)は正値とします。
非圧縮性の連続方程式を起点として、速度ポテンシャルの変数(y)による振幅関数を解きます。ここから求解して位相速度を規定します。
$${c=\frac{\omega}{k}=\sqrt{\frac{g}{k}\textrm{tanh}(kh)}}$$
波高(解)は複数の波長を有する正弦波の重ね合わせであり、独立関係にあります。つまり、一定の分散関係が成立するということです。
ここから速度ポテンシャルを解という形で最終的にに求めると、次のようになります。
$${\Phi=-\frac{Ac}{\textrm{shih}(kh)}\textrm{cosh}(k(y+h))\textrm{cos}(kx-{\omega}t)}$$
これらの方程式は非線形であるため、直接的に解くことは難しいです。これを線形化するにあたり、波による水の運動は周期的であり、動点座標の1周期間の平均値を設けます。
$${x=x_0+\frac{A}{\textrm{shih}(kh)}\textrm{cosh}(k(y_0+h))\textrm{cos}(kx_0-{\omega}t)}$$
$${y=y_0+\frac{A}{\textrm{shih}(kh)}\textrm{sinh}(k(y_0+h))\textrm{sin}(kx_0-{\omega}t)}$$
以上より、水の波における動点は楕円形状(時計回り)を基準とすることが分かります。
長波(浅水波)と短波(深水波)
水の波は先の通り「分散関係」が成立します。それぞれ「長波」と「短波」に分けられます。それぞれ速度ポテンシャルも異なります。
長波:$${\Phi=-\frac{Ac}{kh}\textrm{cos}(kx-{\omega}t)}$$
短波:$${\Phi=-Ac\textrm{exp}(ky)\textrm{cos}(kx-{\omega}t)}$$
上記はそれぞれ水深(h)と正弦波の波長を比較して「長波」と「短波」に分けながら、関数の近似を図ることで成立します。
長波と短波の近似方法は双曲線関数の関数展開に基づきますが、特に、短波の近似は1%以内の誤差で成立することが知られています。
おわりに
今回は水の波について、境界値問題を起点に線形的に解を求めるまでの流れを示しました。
今回は最も基本的な状況下での非圧縮性の完全流体でしたが、次回はより現実的な状況(表面張力波や定在波など)を考えてみます。
-------------------------
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
-------------------------
⭐︎⭐︎⭐︎ 谷口シンのプロフィール ⭐︎⭐︎⭐︎
⭐︎⭐︎⭐︎ ロードマップ ⭐︎⭐︎⭐︎
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?