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施設から閉鎖病棟に入ってきた女の子

中学時代の1/3は入退院を繰り返しながら閉鎖病棟で過ごしたんだけど、施設から病院に入院してきていた子がいた。
わたしがいた児童精神科病棟は基本3ヶ月で退院させられる急性期病棟と違って、実質1つの施設として機能していても良いくらい長期入院している子が多くて、入院するほど精神に問題がありそうな子は少なかった。
だったら病院より施設にいた方が、常にエレベーターホールの前が施錠されている閉鎖的な空間にいるより健全だと思うんだけどそういう訳にもいかないらしい。大人の事情……(社会的入院、という言葉を最近おぼえた)

↑過去note

こんな感じでほぼ施設化していた病院に、本当の施設から入院してきた女の子がいた。Nちゃんとしよう。
わたしと同い年のNちゃんには全く身寄りがない訳ではないらしい(親は刑務所で別の施設には兄弟もいる、と話していた)けど、幼い頃から複数の施設をたらい回しにされていたらしい。
一般的に施設を転々とする理由は本人の問題行動(施設不調)ということが多いけど、Nちゃんの場合元いた児童養護施設で児童間や職員から私物を盗まれたりお小遣いを貰えないといった差別?虐待?を受けていて、そこから何度も施設脱走や万引きを繰り返したことから非行ということで児童自立支援施設に入っていた。
その後施設内で自傷行為を繰り返したため、一時的に児童精神科病棟に入院するためにこの病院にやってきたが、主治医から退院の許可が出ればすぐに施設に戻る約束があるそうだった。

病棟の入り口には常に鍵がかかっていて、ナースステーションを中心に一周分しか行動範囲がない不自由すぎる入院生活だったけど、Nちゃんにとってはそれが元いた施設より居心地が良いと感じるようだった。
わたし含む中学生のほぼ全員は入院による強制的なデジタルデトックスによる離脱症状まで出ていたのに対し、Nちゃんは人生で2回しかインターネットを使ったことがないと言っていた。

結局Nちゃんは中2が終わり学年の変わるタイミングで元いた児童自立支援施設に戻ってしまったけど、ほとんどの子は退院日が決まると元の生活に戻れることに喜びはしゃいでいることに対し(いつ自分が退院できるかわからない状態でそういう子を見送る側としてはキツいけど)Nちゃんは施設の職員が迎えにくる最後の瞬間まで退院したくないと訴えていた。

それから暫く経った後、当時入院していた共通の友人伝えにNちゃんが高校に通っているらしいことを知った。
入院していた当時のわたしはまさか自分もそのあと施設に入ることになるなんて想像もしていなかったから、Nちゃんの話をほとんど他人事というか、自分の人生では全く縁のない話だと思って聞いていた部分があった。
実際に当事者になってから、Nちゃんがあのとき話していたようなことを直接体験してしまったからか、多分機会はあったのに退院後のNちゃんと直接連絡を取るタイミングを失ってしまった。

今後Nちゃんと再会することはないけど、あのとき施設と病院以外の世界を知らなかった彼女は今当たり前の世界を生きている。
だけどわたしが思い出すNちゃんはいつまでも中学2年生で、インターネットを使ったことが人生で2回しかなくて、拾ったお金を使って子ども料金で電車に乗ったり、スーパーでリュックいっぱいにお菓子を万引きしたことを笑顔で話している。これからも多分、ずっと。

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