有茂竹刀
逆噴射小説大賞に投稿した自作をまとめました
命を賭けた恋、これは比喩ではない。 この恋を成就させなければ、私は死ぬことになる、らしい。 きっかけは軽い気持ちだった。詳細は省く。縁結びの神社にお祈りをして、呪われた。 縁を結ぶ代償らしい。タイムリミットは3ヶ月。その間に想い人と恋仲になれなかったら、私は命を奪われる。 そうなれば行動する以外ない。翌日、 「青山先輩!」 「ん、どうしたの?」 「今日の帰り、フルーツサンドが美味しいって評判の喫茶店があるんですけど、一緒に寄りませんか!」 「ん、いいよ」 こ
雪原。 追手の赤いスノーモービルが3台、黒いスノーモービルの後方100メートルにピタリとついて来る。 愛機の最高速でも距離を離せないことに彼女は焦っていた。 加えて、さらに後方には武装除雪車が回転刃で前方の雪をかきこみながら迫り、機関銃の狙いを定めようとしている。 「ツイてない……」 彼らの行動範囲を避けて移動していたはずだ。いつの間にか縄張りを広げたか。 除雪車から銃弾。呼応してスノーモービル達も散弾銃を乱射。 身を隠そうにも辺りは真っ平らな雪原が広がるだけ。愛機の上でた
校舎に入った瞬間から何か様子がおかしかった。 教師も生徒も誰もいない。 中学校が無人になる時間にはあまりにも早すぎる。 三階の教室を横から夕陽が不気味に照らす。 そして、一人もいない生徒の代わりにいたのが、ゾンビだ。 青白い病的な肌で、のしのしと緩慢に動く生ける屍。 「なんでっ、なんで学校にゾンビがっ!」 それと目があった瞬間に、それまで恐怖のあまり立ちすくんでいた少年は一目散に教室の外へ駆け出していた。 遅れてゾンビたちが足音に気づきノロノロと追いかけて
「買っちゃった、買っちゃった、買っちゃったんたかた〜ん、フンフンフフーン」 夜の街を一人の女子高生が歌い踊りながら往く。大きな買い物の後の開放感。今の彼女は正に有頂天そのものだった。 今の彼女にとって、店の電光看板はスポットライトであり、呼び込みの電子音声は万雷の拍手と歓声である。 踊り狂うこの女子高生は全身サイボーグでありながら、生身の者と外見がほど近い官制規格品で構成されている。 ただし、その右腕だけは例外だ。 真鍮色の機構部がむき出しのデザイン。このレトロフュ
結局、日没までにロッソの村にたどり着くことはできず、森の中で一晩野宿することとなった。 「ブルーノだ」 焚き火を前に元勇者は不意に口を開いた。 「え?」「名前だ。自己紹介がまだだった」 「あ、はい。俺はコゲ。こっちはギン」 毛色どおりの名前だ。 「あのブルーノさん。さっき言ってた他の4人ていうのは?」 「昔、俺と共に旅した仲間だ」 「その4人とは今も一緒にいるんですか?」 「いいや、これから探さなくちゃあならん」 それを聞いたコゲとギンはかすかに顔をしかめた。 「ま
結局二次選考発表から最終選考発表まで全然投稿できてなかった…
先日、ついに逆噴射小説大賞の最終結果発表がありました! その結果なんと私の作品が最終選考まで残ることができました! ↓コレ! 思ってもみなかった大成果で嬉しいのと、でもやっぱり大賞を逃したことはちょっぴり悔しいのでいっぱいいっぱいでうまく言葉にまとめきれません。 ただ、この嬉しさも悔しさもとても心地よく、確実に言えることは「参加して良かった」ってことです。 今回このような企画をしてくださったダイハードテイルズの皆様、私の作品を読んでくださった読者の皆様本当にありがとうご
逆噴射小説大賞の二次選考結果が発表されました。 その結果なんと私の作品が4つも選考を通過したとのことで、とても嬉しいのと同時に大変驚いております。(見間違いでは?と何度も確認してしまいました) この大賞に参加した際は可能な限り沢山投稿しようと意気込んでおりましたが、蓋を開けてみると5作目を投稿した時点でネタが尽きてしまい、自分のインプットの少なさを痛感する次第となりました。 そんな中、毎日必ず1作ずつ休まず投稿していた方もいたりして、すごいなあと思いながら眺めていました。
獣人の集落を立ち去った戦士は森を下り、麓にあるロッソの村に向かっていた。 彼らの涙ながらの訴えを無下に断るのは心苦しかったが、実際に己一人の力でどうにかなる問題ではなかった。 夕陽が森の向こうに沈もうとしている。 「日暮れまでに村に着くか……? まあいい」 獣人の集落に呼び立てられて特に得るものはなかったが、別段無駄足だったとは思わなかった。そもそも今の彼には大きな欲も使命もない。 ただ浮草の如き流れるがままの暮らしだ。 誰かつけてきている。彼の戦闘勘〈センス〉
「勇者がやってくる」その知らせが獣人の村を震撼させたのは、戦士が村を訪れる三日前のことであった。 五人組の若者がゲーム開始地点であるビヤンコの村から旅に出たという。「ゲーム」が開始したのだ。 「一昨日ビヤンコを出たって言うならココに着くのはいつ頃だい!」 「は、早いと7日……」 「いや、今日はまだアカガネの洞窟から出てないというからあと11日はあるかと」 狼と人間のハーフの獣人達が全身の毛を逆立ている。皆の脳裏には二十年前の惨劇がありありと浮かんでいた。獣人の森に乗り込ん
高身長がコンプレックスな女性もいるそうだが、私の友達は典型的なそれだった。 「ねえ、エリちゃんまたアイツと戦うの……?」 189cmの彼女、モモカの瞳はかすかに潤んでいた。 どこまでも気が小さい。 「今更怖気づいた?」 彼女は黙って俯く。 これから私達はあの巨大な毛玉の怪物を倒さねばならない。 「わかった、やる……」 弱々しい声。 「そう」 短く言うと人差し指で自分の唇を撫で、次に彼女のブレザーの校章をつつく。魔女の秘術だ。 次の瞬間、モモカは黒い影に包まれる。それ
文化三年初夏の江戸飯田町はいつもどおりの風景が流れていた。 私の書斎を除いては。 私の書斎に二人も来客がいる。異常事態だ。 私の隣にいる「葛飾北斎」とかいう絵描きの事は置いておこう。こいつは一月前から居座っている。 問題は正面の大男の方である。とにかく身の丈が高い。立てば七尺はあろうかという程だ。それに加えて、厳つい鎧を着込んでいる。 そんな中、隣の絵描きバカはいい画題だと言わんばかりに私の帳面を勝手に使い大男の姿を描いていく。もはや咎める気にもならない。 「念の為
放課後の5年3組の教室は剣呑な雰囲気が漂っていた。 「――ドンジャラで随分儲けたようだな」 「はて、なんのことやら」 二人の男子児童が机を挟みサシで座っている。互いの後ろには立会人が三人ずつ。只事ではない。 「噂通りだ、『ボス猿・佐々木』の面の皮はコロコロコミックより分厚い」 「ハハハ、小冊子の付録がついたときには及びませんよ」 「他にもお前が勝手にナメた真似してるって話は挙がっている」 今日何度目かの鋭い沈黙が流れる。 学級委員にはフダ*を20ほど握らせてある。この
「どうか我々を助けてくれ!」 長老の獣人が剣と盾を携えた戦士の前で頭を垂れる。 「悪いが無理だ、この村を通る勇者を撃退するのは不可能だ」 「うぅ……」 長老の肩が嗚咽で震える。重々承知だったのだろう。 後ろに控える村民の獣人たちも諦めの表情を浮かべた。 「知っての通り勇者というのは死んでも不死鳥の粉塵や復活魔法などを使えば何度でも蘇る。キリがない。大人しく通り過ぎるのを待て」 あえて冷たく言った。下手に希望を持たせるのは却って残酷だからだ。 この森でエンカウントす
夕陽差す教室、私は三人のセーラー服に銃口を向けられ、両手を挙げている。 「ケイちゃん、まだ撃っちゃだめェ?」 「アンタ何組〈どこ〉のヤツだい! 名前言わんかホレ!」 ケイちゃんと呼ばれた女子生徒はライン通話をしている。 「……ねぇサキちゃんホントにコイツのこと知らない? 3組のコだったら撃っちゃうとマズいんだけど」 「ねぇ、ケイちゃん!」 「組と名前言わんかホレ!」 「……あー、マイカなら知ってるかも?」 「ケイちゃん!」 「名前ェ!」 カーテンが風で揺れる。 私