クソゲーを作ろう! ―『エルダア・クエスト』リメイク計画― 第四話

 結局、日没までにロッソの村にたどり着くことはできず、森の中で一晩野宿することとなった。

「ブルーノだ」
 焚き火を前に元勇者は不意に口を開いた。
「え?」「名前だ。自己紹介がまだだった」
「あ、はい。俺はコゲ。こっちはギン」
 毛色どおりの名前だ。
「あのブルーノさん。さっき言ってた他の4人ていうのは?」
「昔、俺と共に旅した仲間だ」
「その4人とは今も一緒にいるんですか?」
「いいや、これから探さなくちゃあならん」
 それを聞いたコゲとギンはかすかに顔をしかめた。
「まあ、大方どこにいるのかのアテはある」
 獣人は安心したような、まだ不安そうな表情をしている。
「それと、お前達の集落で弓を扱えて戦える者は何人いる?」
「――70人ほど。俺たちは皆、子供の頃から弓矢で狩りをしている」
「子どもや年寄りを勘定に入れるな。却って足手まといになる」
「……50人」
「まあー、なんとかなるか」
 ブルーノはアゴにシワを寄せながら無精髭を撫でる。
 獣人の表情からは「本当に大丈夫なのか?」という訝しみの色は消えない。

「……よし、じゃあコゲお前は俺と一緒に村へ下り仲間集めを手伝え」
「あの、俺はどうしたら」
「ギン、お前は夜が明けたら集落へ戻り、これから俺が教える通りに準備を始めろ」
「準備ですか?」
「ああ、時間が無いんだろ? 五人揃ってから準備しているようじゃあ間に合わない――ムッ」
 ブルーノは急に険しい顔になって口を止めた。
「どうしました?」
「誰か近づいてきてるな」
「……確かに」獣人は耳をヒョコヒョコと動かして足音を聞き取った。
「こっちですね」
 コゲが木々の向こうを指差す。緩やかな下り坂となっている。月明かりすら届かない森の闇のため人影は見えない。

「フム……」
 ブルーノは焚き火の中から火のついた薪を一本拾い上げると、振りかぶってコゲの指した方向へと放り投げた。薪はクルクルと回りながら光を撒き散らし放物線を描いて遠くの地面へ落ちた。
「チラッと見えましたね」
「……」
「盗賊でしょうか? 一人だけのようですが……」
「いや、おそらく……」
 そう言うとブルーノは唇を尖らせ口笛を吹き始めた。
『ピィー、ピィピィ、ピョー』
 甲高い調子はずれの音色が闇夜に吸い込まれていく。
 ややあって答える様に口笛が返ってきた。
『ピィピィ、ピィー、ピィー、ピョー』

「ハハハ、やはりな」
 ブルーノは破顔する。
「え?」
 向こうを見ると木陰から人影が歩み出て薪を拾い上げた。
「ヨォヨォ、どうも見知った顔だと思ったが。まさか旧知の仲にこんな物投げて寄越す薄情者だったとは」
「野盗の如くコソコソしているお前が悪い」
 歩み出た男はとにかく人の良さそうな笑みを浮かべていた。
 どうやら悪い事態ではないことを察したコゲは胸を撫で下ろしつつ尋ねる。
「ブルーノさん、あの、この人は一体?」
「つい今し方話した四人の仲間のうちの一人さ」
 ブルーノは男に歩み寄り気さくに相手の肩を叩く。

【続く】

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