雪の時代の冒険者

雪原。
追手の赤いスノーモービルが3台、黒いスノーモービルの後方100メートルにピタリとついて来る。
愛機の最高速でも距離を離せないことに彼女は焦っていた。
加えて、さらに後方には武装除雪車が回転刃で前方の雪をかきこみながら迫り、機関銃の狙いを定めようとしている。
「ツイてない……」
彼らの行動範囲を避けて移動していたはずだ。いつの間にか縄張りを広げたか。

除雪車から銃弾。呼応してスノーモービル達も散弾銃を乱射。
身を隠そうにも辺りは真っ平らな雪原が広がるだけ。愛機の上でただ姿勢を低くすることしか出来ない。

意を決して反撃を試みる。彼女のスノーモービルから後方へ拳大の鉄球が射出された。鉄球は雪原の中に深々と埋まり、急発熱。周囲の雪が一瞬で気化。体積の急膨張に耐えかねて雪原が爆発! 雪中爆雷である!
追手のモービルの一台が爆発に巻き込まれドライバーが雪原に投げ出される。そこへ後続の武装除雪車が迫る。スピードは緩めない!
「ギャッ!」
男は叫び声を上げながら回転刃に巻き込まれミンチ!
除雪車は赤い雪を吐き出す。

足を緩めるかもという彼女の目論見は外れた。相変わらず銃弾は絶え間なく飛んでくる。
再び雪中爆雷を放つが、今度は簡単に回避された。残りの爆雷は二個。その他武器と呼べるものは防寒着のポケットにあるリボルバー。心許ない。

三発目の爆雷を準備した瞬間、後方から何か追手とは別の地響きが近づいているのを感じた。同時に追手が反転して去っていくのがミラー越しに見えた。
地響きは彼女の真下を通り抜け前方へと躍り出た。
彼女はドリフト停車。雪中から何かが浮上してくる!

雪を吹き上げながら姿を現した「それ」に思わず眼を見張る。
現れたのは巨大な鉄の壁。
否、船であった。

かつて『海』の時代、水に潜る船「潜水艦」というものがあったらしい。
それに倣って『雪』の時代の今、眼前にあるこれは雪に潜る船「潜雪艦」と呼ばれる。

【続く】

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