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右腕狂想曲

「買っちゃった、買っちゃった、買っちゃったんたかた〜ん、フンフンフフーン」
 夜の街を一人の女子高生が歌い踊りながら往く。大きな買い物の後の開放感。今の彼女は正に有頂天そのものだった。
 今の彼女にとって、店の電光看板はスポットライトであり、呼び込みの電子音声は万雷の拍手と歓声である。
 踊り狂うこの女子高生は全身サイボーグでありながら、生身の者と外見がほど近い官制規格品で構成されている。
 ただし、その右腕だけは例外だ。
 真鍮色の機構部がむき出しのデザイン。このレトロフューチャー風の義腕こそ今日の買い物であった。
「買っちゃったもんね〜、オーウォウウォウ」
 即興で作詞作曲した『買い物の唄』がサビに差し掛かった所で、彼女の電脳にボイスチャットが割り込んだ。
『ちょと、ハルカ! 何のつもり!』
「あ、マリ、写真見てくれた?」
『いきなり百何十枚も送りつけるな!』
 嬉しさのあまり連写した写真の事を言っている。
「どう、似合ってる?」
『腕しか写ってないじゃん』
「後ろの方にドローン自撮りしたのがあるよ」
『それだけ送ってよ……あー結構良いんじゃない。いくらだった?』
「四万円」
『安っ』
「高校生には大金ですー」
『何処のメーカー?』
「さあ?」
『製造年月日は?』
「さあ?」
『……規格マークある?』
「さあ?」
『マジで大丈夫なの?』
「大丈夫大丈夫――あっ」
 上機嫌にスキップするハルカの目に、義体パーツ店のショーウィンドウが留まる。
「これも可愛い!」
 ガラスに額を擦り付け、視線はその向こうの耳パーツに釘付けになる。
『腕買ったばかりでしょ』
 視覚共有したマリが呆れる。
「そうだけどー、でも欲しーなー、良いなー……あれ?」
 不意に右手に違和感を感じる。恐る恐る握り拳を開く。
 中にはガラス越しの物と全く同じ形の耳があった。

 まるで今まさに掌の中で産み出されたかの様に。

「何で?」
 この右腕、何かおかしい。
【続く】

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