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【地中海ひとり旅】騙しメディナのマフラー巻き

 旧市街メディナの入口あたり、フランス門の下を歩いていたら、ひとりのおじさんに話しかけられました。「あなた、韓国人?日本人?」お決まりのあいさつは、まあ良しとして、「よかったら、この街を案内するよ。俺はここに数十年住んでいるから、なんでも知ってるんだ。大丈夫、騙したりしない、もちろんタダだよ。」なんて、怪しい誘い文句を受けたもので。怪しいなあ、でも、ちょっと気になるなあ。

 この街のことを色々と知りたいと思っていたわたしは、さて、どうこの街をまわろうかと、ちょうど悩んでいたところでした。ですから、おじさんの言うことは明らかに怪しいと考えていても、好奇心というか、楽天的なこの国の様相にあてられたといいますか、「お願いします」なんて、笑顔で誘いに乗ってしまったのです。それに、優しそうな方でしたから。

旧市街メディナの通りは、どこも、ちょっと不気味。

 それから数十分、彼は、旧市街の中にあるモスクや商店を案内してくれました。およそ迷路なこの街をすべて知っているかのように歩みを進めるものですから、ああ、このおじさんは本当にこの街に生きているひとなのだなと、少し感心してしまったのです。

 結論から言うと、彼は、わたしを騙していたようです。最後に連れていってくれた街を見渡せる建物の屋上みたいなところで、「案内したのだから、20ユーロをちょうだい」って、ひとことだけ。

 「案内してくださったのは嬉しいのですが、わたし、現金持っていないんです。それに、タダだって言ってたから・・・」実は本当に現金を持っていなくて、チュニジアの通貨は小銭で少しばかり持っていたのですが、ユーロなんて、言わずもがな。

 ひとつ幸いだったことは、おじさんは、確かに優しかったということ。わたしが本当に現金を持っていないことを知ったのか、「じゃあ仕方ないな、諦める」と言って、引き下がってくれたのです。「おじさん、お金を取るなら最初から言ってくださいね。そうしたら、わたし、ちゃんと考えたのに。」「ああ、でもだってそうしないと、ついてこないだろう?」

 その後、なぜかそのおじさんと仲良くなってしまったわたし。「騙された記念に、写真を撮らせてください。」ってお願いしてみたり、「どうしてこんなに暖かいのにマフラー巻いてるんですか。」って聞いてみたりもしました。

 なんだかよく分からない、不思議な出会い。まるで、この街みたい。不気味だけれど、なんだか気になっちゃう、この街を表したような、そんなひと。

地中海ひとり旅日記より抜粋
in Tunis, Tunisia Feb.2024

騙しメディナのマフラー巻き

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